今日はバレンタインのお返しをする日、ホワイトデー。
英二からは美味しくて甘いチョコをもらったから僕もお返しを考えてるんだけど
…何がいいか悩んでしまう。
英二は基本、甘いものが好きだしなんでも喜んでくれそうなんだけどね。
何がいいかなぁ…
そうだ、ぶらりと街を歩いて目に止まったものにしよう。
最近じゃ種類も多くて選ぶのに迷う。
いろいろ見てみると食材にこだわった高級菓子なんてものもあれば、ネタとしか
思えないふざけたネーミングの菓子もある。
菓子以外にも可愛いストラップ付きのギフトセットや猫の小さなぬいぐるみがつ
いているものもある。
目移りばかりしていて一つに絞ることができずにいると女性の店員が僕に話しか
けてきた。
「恋人へのプレゼントですか?」
「えぇ…まぁ」
「こんな素敵な彼氏がいらっしゃるなんて…女の子が羨ましいですね〜」
褒め言葉のつもりで言ったのかもしれないけれど僕にとってはイラッとした。
勝手に“女の子”なんて決めつけないでほしい。
しかもやたらニコニコして僕にしつこくつきまとってくる。
僕はゆっくり品定めしたかったのに…。
僕は勧められたものを断って店を出た。
よく考えればバレンタインは手作りが多いのにホワイトデーは手作り用ってあん
まり見かけない。
せっかく英二は手作りしてくれたんだし僕も手作りで返すっていうのも…いいか
もしれない。
ホワイトデーのお返しは普通キャンディらしいけど、さすがにキャンディを作る
のは大変そうだから…クッキーでも焼こうかな?
失敗もしなさそうだし…うん、そうしよう!
材料を揃えていざ作ってみる。
得意まではいかなくとも苦手ではないお菓子作り。
試作品が出来上がったから母さんや姉さんに食べてもらった。
僕も一枚食べてみる。
「あら、美味しいわよ周助!もっともらってもいい?」
「うん、いいよ」
よかった。
クッキー作りは大成功だ。
…なんてクッキー作るのにいちいち失敗する方がおかしいか。
いや、クッキー作りだってあなどれない。
大好きな英二にあげるならなおさら上等なものじゃなきゃ僕が納得できない。
でも今回はうまく出来たみたいだし、ホワイトデー前日に作って英二に当日あげ
れば…フフッ。
それでその後は…
翌日。
まだホワイトデーまで一週間ある。
待ち通しくて仕方がない。
ウキウキしていたのが顔に出ていたらしく、英二が不思議そうに僕の顔を覗き込
んだ。
「不二なんか嬉しそう」
「そうかな?」
楽しみにしてて!
きっと英二は喜んでくれるはず。
ホワイトデー前日。
ついにクッキー作り本番だ。
前と同じ要領で作れば失敗なんてない。
予め買い置きしておいた材料を出すため、冷蔵庫を開けた。
「…あれ?」
用意しておいたはずの材料がなかった。
どうして?!
まさか…
僕としたことが…材料にちゃんとメモを張っておけばよかった。
きっと誰かが使ってしまったんだろう。
責任は僕にある。
今から買いに行くしかないけれど…もう夜だし…困ったなぁ…。
「ただいまー」
「姉さん!僕の卵は?」
「卵?あ〜…ごめんね。昨日全部使っちゃった〜」
やっぱり…。
でも姉さんを恨むことはできない。
言っておかなかった僕が悪いんだから…。
さて…これからどうしよう。
卵なしで作れるものもあるとは思うけど…他のもの…
「周助、本当にごめんね…まさか買い置きしてるとは思ってなかったのよ」
「いいよ、姉さん」
「だったら…明日家に呼んだら?夕飯を作ってあげるのよ。外ハネ君が好きなお
かずを周助が作ってあげるの…どうかしら?」
「あ…いいかもしれない。そうだね、うん…そうするよ!」
「材料はちゃんと私が買っておくから安心して。外ハネ君に何作ってあげるの?
」
英二の好きなおかず…プリプリエビフライとふわふわオムレツ。
ぶっつけ本番は正直緊張するけどそれならホワイトデーのお返し…にちゃんとな
るかなぁ…?
英二が喜んでさえくれればいいんだけど…
ホワイトデー当日。
英二がニッコリ笑って僕に手を振って走ってきた。
可愛い英二…。
「おはよ!不二っ」
「おはよう、英二。ねぇ今日は何の日かわかる?」
「はいはーい!ホワイトデーですっ!不二は何くれるのかにゃ?アメ?マシュマ
ロ?クッキー?」
「はい…これ」
僕が渡したのは一枚の招待券。
“菊丸英二様限定”なんて書いたの…ちょっと恥ずかしいな。
僕なりの演出なんだけれど…。
「へぇ〜不二家の夕食にご案内?!わぁ〜すごぉい♪しかも俺限定だって!わぁ
い!!」
「というわけでね、英二。明日は土曜日だし家に泊まりにおいでよ」
「やった〜じゃ俺、家族に連絡しとくー!」
クッキーあげるだけよりこっちの方がいいよね。
僕も夕食を英二と一緒に食べられるなんて嬉しいよ。
ちょっと予定が変わっちゃったけど…上手く作れますように。
なんて願ったところで成功するかどうかなんてわからない。
エビフライやオムレツなんてクッキーより難しい。
日頃から料理をもっと勉強しておくべきだった。
英二は朝御飯を当番制で作っているらしいから料理も上手。
その英二に食べさせるなんて…無謀なことしたな。
昨日の夜、姉さんにレシピを聞いて頭になんとか入ってるけど…自信ない。
「不二!どしたの?元気ないよっ」
「そう?…うん、美味しいものを君に食べさせられるか不安なんだ」
「不二なら上手く作れるって!あっ、わさび入れて辛くしたりしなきゃ大丈夫だ
よ!!」
そうかな…だったらまともなものが作れるように頑張るしかない。
授業を終えて英二と二人肩を並べて歩く。
僕らは身長がほとんど変わらない。
いや、本当は英二の方が高いんだけど。
僕がもっと身長高かったらいいのに。
でも…同じくらいの方が目線も同じでいいよね。
僕は英二の手を握り締めた。
「不二…今日さ…」
「どうしたの?」
「…ん、なんでもにゃい」
英二どうしたのかな?
何かあったのかな…。
英二は僕の部屋で待機させておいて僕は夕食の支度をする。
いざ作ってみると料理は大変だということを知る。
要領を間違えると時間がかかり慌ただしくなってしまう。
うっかりして腕が当たり、ボウルを引っくり返しててんぷら粉が台無しになって
しまった。
あぁ…慣れないことをするとろくなことがない。
一から勉強しなきゃダメだな…。
落ちた音が響いたのか英二が2階から降りてきた。
「不二、大丈夫〜?!」
「うん大丈夫だよ、心配かけてごめん」
俺がやるよ〜って言ってくれたけど、それじゃ意味がないから待っててもらわな
いと。
でも退屈そうに英二は足をブラブラさせてイスに座っている。
もうちょっとだから待って…
「いたっ!」
「不二?!」
なんてドジなミスを…。
添えるためのキャベツを千切りにしていたら誤って自分の指まで切ってしまった
。
心配そうな顔をして英二が駆けつけてきた。
「あ…英二…」
英二が僕の出血した傷を舐めてくれた。
まるで猫みたいな仕草に僕は思わず心を奪われる。
心臓がドクドク鳴ってる…英二には聞こえていないだろうか。
もし聞こえていたら恥ずかしい…。
「ん…不二、俺も手伝うからさ…一緒にやろうよ?」
「でも…」
「俺、お腹すいちゃったもん。ね?その方がいいって!」
結局二人で作ることに。
なんだか英二に迷惑かけちゃった。
せっかくのホワイトデーなのに僕ってば…情けない。
時間もそれほどかからず夕食ができた。
それでもこれだけは譲れないとエビフライとオムレツだけは僕一人で作った。
形はいい。
あとは味と食感だけ。
「「いただきます!」」
英二が一口オムレツを食べた。
その後無言でご飯を食べて…エビフライも一口。
何もしゃべらない英二に僕はもしかしたら美味しくなかったんじゃないかと思っ
た。
「不二〜!美味しいよ!!ありがとにゃ〜!」
「ホント?よかった…」
英二が喜んでくれたから僕も嬉しい。
それでも一人で作れなかったのが残念だけど。
綺麗に残さず食べてくれた英二。
作りがいがある。
初めてだったけれど…やっぱり英二のおかげで上手く出来たんだ。
英二に感謝しないと。
「ありがとう、英二」
「え?なんで不二が言うのさ。それは俺のセリフだよ?」
「ここまで出来たのも英二が手伝ってくれたからだよ。なんだか申し訳ないよ…
バレンタインは英二一人で作ったのにホワイトデーは僕一人で作れなくて」
「何言ってんの!俺…不二とごはん一緒に作るの楽しかったんだよ?また一緒に
やろうよ…それとも俺と一緒に作るの…ヤダ…?」
「そんなことあるわけないでしょ!」
僕は英二を抱き締めた。
唐突な僕の行動にびっくりしたみたいだけど…英二と一緒はすごく嬉しいことぐ
らい…英二だってわかってるはずだよ。
「えへへ…よかった」
「英二…お風呂そろそろ入ろうか」
「うん!」
