「いったぁぁぁ───い!!!」

「え…英二?!どうしたの?!!」








痛みを訴える恋人の声に驚いてすぐに駆けつけた。
見れば包丁で野菜を切ったときに間違って自分の指も切ってしまったそうだ。
紅い血が床に滴っている。

これは早く手当てをしないと…。





僕は英二に絆創膏か何かないか聞いた。
でもあんまり痛いせいか場所を伝える余裕が無いらしい。
仕方ないのでとりあえずティッシュで止血を試みる。








「きつくおさえるんだよ?いいね?」

「う〜…い〜た〜い〜ッ!!」







可哀想に…僕のためにカレーをご馳走してくれると言ってくれたために君の指が 犠牲になってしまった。

ティッシュもあっという間に真っ赤に染まっていく。
早くしないと…!



僕は英二にもう一度訪ねて絆創膏を探した。
漸く見つけたときには止血できない英二の回りは真っ赤なティッシュだらけ。
見てるだけで痛々しい…。









「早くして〜!」

「待ってよ英二。わ…ひどくなってる…」







止血どころかますます血の量が増えている。
新しいティッシュで押さえてみるけど、噴き出す血は止まらない。
これは僕の力だけでは無理な気がしてきた。

治療係も役目はここまでか…。







「英二、病院行こう」

「え───!!?やだよぉ…だって…」

「残念だけど僕の力じゃこれが限度だ。自転車の後ろに…」

「ただいまー!あら?外ハネくん…キャッ!どうしたのその血!?」







いい所に姉さんが帰ってきた。
姉さんに車出してもらおう。







「車に乗せてくから外ハネくん、来なさい!周助は留守番よろしくね!!」

「え…?」







慌てて姉さんは英二を連れて車へ移動した。
いや…病院に連れてってくれるのはありがたいけど…。
僕を連れてってはくれないんだ…。

まぁ急がなきゃだし、姉さんも慌ててたんだし…仕方ないか…。







僕は一人で部屋に待機。
だけど…いても立ってもいられず、留守番なんてやめて僕は自転車で病院に行っ た。







病院に着くと僕は英二を探した。
どこにいるんだろう…。







「よかったわね、大事に至らなくて」

「はい!お姉さんのおかげです!ありがとございました!」







「英二…!」









声を掛けたのに…英二は気付かない。
確かに人は多いけど…僕に気付かないのは…切ないから…お願いだから…きづい …───















「お姉さん大好き〜」















今…僕は何を見たのだろうか…
姉さんに…
姉さんに…






姉さんに抱きついて…キスしてる…







嘘…















「ちょっと…英二くん、外でそんなことしちゃダメよ?」

「え〜?ほっぺもダメなの〜?俺なりの感謝の気持ちなんだけどなぁ…あ」

「あら…周助、来てたの?」

「………」







僕にしかキスしちゃダメだってあんなに言ったのに…
しかも姉さんにキスするなんて…
公の場で…こんなことするなんて!!!







「ちょっと周助?顔怖いわよ」

「にゃにさ不二、もしかしてキスしたこと怒ってんの?!にゃははっ!」

「………」

「不二のお姉さんといい感じに見えた〜?えへへ〜だって不二のお姉さんキレイ なんだもん」

「英二くん!」

「…え」

「…だったら……付き合えば?…姉さん今彼氏いないし。お似合いだよ」







「ふ、不二?!!!!」















僕は馬鹿だ。
なんで自分の姉と付き合えばいいなんて言ったのだろう…。
英二が人なつっこい性格なのは前からわかっていることなのに…
あんな言い方をしたら…英二を傷付けるだけじゃないか…。

それと同時に姉さんにも失礼なことをした。
最低だ───















僕は家に帰って冷蔵庫に入っていたビールを飲んだ。
まだ誕生日を迎えていないから二十歳になっていないけど、今はそんなことどう でもよかった。

今日あったこと、全てキレイさっぱり忘れられたら…と思って飲んだ。
だけど…こんなことをしたって…姉さんは帰ってくるし…明日からまた学校だ。
テストだったっけ…あぁ…今そんなこと思い出したくない…

嫌だ…自分が愚かすぎて…
酒喰らって床に倒れた自分を嘲笑った。

なんて心の狭い男なのだろう…

蒸発して消えてしまいたかった。











「周助?英二くんが話したいそうよ…って何倒れてるの!大丈夫?!」

「…」

「不二…ごめんってば…」







違う…君が謝るのはおかしいだろう?











僕が…間違ってるんだ。
だから…謝らないで。















「俺は!俺はいつも不二のことしか考えてないよ!!」

「…」

「だから!キスはやりすぎたかなって自分でも思ったけど…ハグとか俺の性格と か趣味とかだから…だから…」

「わかってる…ごめん…英二…僕が悪いんだ…姉さんにも…謝らなきゃ…」

「私はいいのよ。二人で話し合いなさい」







姉さんは席を外してくれた。
あとで…ちゃんと謝らなきゃ…。








「ったく不二も気にしすぎ!俺が不二のお姉さんに恋するわけないじゃん」

「英二…」

「俺は不二が一番なの!不二が大好きなの!わかった?」

「うん…」

「も〜ビールこんなに飲んで!お前まだ二十歳じゃないじゃん!!」

「でも一ヶ月切ったし…」







僕は英二にデコピンされた。
半分酔っていたのに今の痛みで酔いが覚めた。







「俺のこともっと信用しろっての!」







英二は僕を抱き締めた。
なんだかいつもと立場が逆のような感じだ。







「しっかりしろよなー!お前俺のことになると途端に落ち込んで病んだり、ヤケ 酒なんてらしくもないことするんだから…」

「ご…ごめん…」







英二に頭を撫でられた。
いつもの僕らしくない…。







「英二!」

「ひゃっ!な、何?!」

「今日泊まってって!」

「え?!う…うん…」







駄目だ。
英二がいなきゃ心配で不安なんて…僕が誰よりも子供だ───







「だって不二4歳じゃん!にゃはは♪」

「…もうすぐ5歳になるよ」







そうだ…僕は5歳…いや20歳になるんだ。
誕生日が…今年はあるんだ。







「不二の誕生日は盛大に祝おうねん」

「…ありがと、英二」







僕は英二の唇にキスをした。







この幸せがずっと続きますように…と。