この季節になれば店のあちこちに豆まき用の豆が売られる。
紙でできた鬼の面がついていて節分のシーズンだということを知らされる。
気が付けばもう二月だった。
学校ではそろそろ試験もあるし、雪が降りだして冬の辛さを知る。
明後日は節分だ。
節分…豆まき…何かしようか。
英二を誘って…と思っていたのに返ってきた言葉は
「二人なんかで豆まきぃ?つまんない〜」
「僕だけじゃダメなの?」
「そういうのは大勢でやった方が楽しいっての!」
結局節分は部活のメンバーで豆まき大会を行うことになった。
僕は英二だけでいいのに…悲しくて顔を上げることができなかった。
たぶん…笑えていなかった…
怖い顔をしてしまったかもしれない。
節分当日───
部室に集まった皆は豆を持ち寄って参加する。
英二は甘いのがいいって言うから豆じゃなくてアメを持ってきた。
ミルクキャラメルみたいで人気のアメは僕も好きだけど…。
はっきり言って豆まきじゃないかも…。
「不二〜!持ってきてくれた?ね、ね、あの一番俺の好きなアメ!」
「持ってきたよ…これでしょ?」
「わぁい!不二ありがと〜!だいすきぃ〜」
人目も気にしないで英二ったら…まぁ抱きつくのは僕だけじゃないから不自然じ
ゃないけど。
英二の頬擦りは可愛くてつい僕も口が緩んでしまう。
本当に猫みたいだ。
「あ!不二先輩アメ持ってきたんっすか?!」
「へぇ…豆ばかりじゃ飽きるからってことっすか。いいっすね」
でもこれ投げつけたら痛いんじゃないかな…と思った。
ま…いっか、僕が投げるんだし。
桃が鬼の面を手にして誰が鬼役をやるか決めようと言い出した。
そうだな…誰がいいかなぁ…?
「大石先輩は誰がいいと思います?」
「そうだな…桃がいいんじゃないか?」
「え〜?俺っすか?だったら海堂がいいんじゃねぇの?なぁマムシ!」
「誰がマムシだ…なんで俺がやらなきゃいけねぇんだ、ふざけんな!!」
「あ、じゃあ部長がやれば?」
越前が言った瞬間、空気が静まった。
僕は手塚の方を見た。
いつもと変わらない表情で眼鏡をかけ直した手塚は僕を見た。
「不二、お前がやれ」
「…は?」
「不二が鬼?!んじゃ俺エンリョなくぶつけちゃうからね〜!覚悟しとけよーっ
」
英二ははしゃいでいたけれど他の皆は下をうつむいていた。
これから楽しいイベントだっていうのに…どうして?
「ふ…不二先輩に豆なんて…ぶつけらんねぇな…ぶつけらんねぇよ…つぅか怖え
って…」
「何か言ったかい?桃」
「いや!!!!な、なんでもないっす!!!!!」
「誰もやりたがらないなら僕やってもいいけど…」
不人気の鬼のお面をつけ皆の方を向く。
飛んで来た豆を上手く交わした。
みんなで寄ってたかって僕に豆をぶつける。
鬼って可哀想なポジションなんだな…と思う。
「不二先輩、それじゃ鬼退治にならないっすよ」
「あぁそうだったね」
皆何故か僕に脅えて豆を投げない。
これじゃ豆まきにならないので僕が持っていたミルクキャラメルのアメを皆に投
げつけた。
すると英二がはしゃいで加勢してきた。
「ほいほーい♪俺も混ぜて〜!」
「おっとこうしちゃいられねぇな、いられねぇよ。越前、行くぞ!」
「な…桃先輩、腕引っ張らないで下さいよ!」
何故か鬼の僕も加わって豆とアメの投げ合いが始まった。
さすが運動部といわんばかりに凄まじい投げ合いは止まることを知らず、急所に
当てられた者は次々と脱落していった。
残ったのは英二と僕…そして身長が低いせいで当たらなかった越前の三人だ。
「しぶといね、君。生意気なルーキーはここで引き下がってもらわないとね」
「俺は負けないよ」
「(あれ?俺も残ってるのに…なんか相手にされてない気が…)」
こんな所で負けてたまるものか。
ここで気を失ったら越前は英二に何をするかわからない。
だからこの戦いは負けられない!!
「そのアメ…消えるよ」
「あぁ?!不二の投げたアメどっかいった?!」
「卑怯っすよ!アメなんて豆より固いのに!」
「僕に勝つのはまだ早いよ」
消えたように見せかけたアメは越前の後頭部に回り込んで見事にヒット。
これで優勝した僕が英二を頂ける!
ありがとう、越前。
「スキあり!菊丸ビーム!!」
「え?!!!!」
英二は僕の額に豆を当てた。
そんなバカな…。
「やった〜俺の勝ち〜!って…豆まきって勝ち負けのゲームじゃないよね?」
僕はせっかくのメインディッシュを頂けず気を失ったまま次の日を迎えた。
まぁ…英二のこういう所が好きだからいいんだけどね…
ハハハッ…
