「王子様、やめるよ」

「は?」






俺は不二と一緒に学校帰りにハンバーガーショップで話していたときだった。
不二の、“王子様、やめます”発言に俺は困惑した。
どこからツッコミを入れたらいいのか悩んだ結果、俺が言ったのは。






「お前、どこの国の王子様なんだよ」

「…英二はわかってないなぁ。別に国の王子様だなんて言ってないよ。僕は女子に好かれるポジションはもういらないって意味さ」

「…あーあー、王子様だかなんだか知らないけど、いいご身分だねー。自分で王子様だってさ」

「英二!」

「嘘だよ、本気になるなって!」






不二が言いたいことはわかっている。
ただ、ちょっとむかついただけ。
俺は全くモテないのに、不二ばかりモテるから。
これは気のせいでもなんでもない。

俺達は大学に入ってすぐにテニスサークルに入った。
部活がなかったので仕方ないと思いつつ、入会した男子は一握り程度。
3分の2以上が女子で、しかもマネージャーという前代未聞な話になってしまったのは、どうも不二のせいらしい。
元々テニスサークルはメンバー不足だったらしいが、不二親衛隊(ファンクラブ?)が全てサークルに入ったようで、大変賑やかなのだ。
もち、そんな中でも菊丸くんが好き!と言って入会した女子もいるらしく、俺も捨てたものじゃない。
でも数は圧倒的に不二のファンが多くて敵わない。
いや、別に勝負してるわけじゃないけど。

ってかそれ以前に、俺と不二は恋愛関係だからモテるとかモテないとか関係ないんだけどね。
俺達のことを公表していないから、ファンの子達は溢れていくばかり。
先輩に“お前(不二)だけはサークルやめないでくれよ”と言われて、やめるにやめられない状況になった不二。
当然、不二がやめないなら俺もやめないわけで。
そうすると大変なのが飲み会なんだ。

不二はあまり飲み会では酒を飲まない。
かと言って弱いわけでもない。
ただ皆が集まるからというのと、先輩からのお達しで女子も集めたいから頼む、と言われて不二は酒の場に来ていると言った方が正しいかもしれない。
ただ、そこで困るのが態と酔っ払いになって不二に介抱してもらおうとする女子がいたりすると、とても厄介なのだ。
いわゆる抜け駆けになるので、その女子は親衛隊に総すかんを食うわけだが。
また苛められる女子を黙って見ているわけにもいかない、ということで王子様の登場となる。

その王子様的振る舞いを行うのは、もういい加減嫌になったんだと思う。
だから王子様をやめたいんだろう。
わからなくもないけど、不二のイメージが変わるのはどうか。
想像できない…。






「うん、まず一人称を“俺”にするよ」

「え!僕って言わないの!?やだやだ、不二じゃないみたい」

「王子様はやめるんだ。って一人称が俺になっても王子様にならないわけじゃないか。うーん…じゃあ次は見た目かな。明日服装変えてくるから楽しみにしてて」






今まではカッターシャツにお洒落なネクタイを結んでいた。
このスタイルがよく似合っていたのに。
服装変えるって一体どんな服装にするんだろう。
ちょっとあんまし見たくないかもしれない。
























おはよう、と声をかけてきたのは紛れもなく不二のはずだった。
俺にこんな優しく笑いかけるのは不二しかいない。
しかし俺の知っている不二はもっとさらさらの髪で、カッコいいスタイルのはずだった。

今朝会った不二はまず髪型からして違っていた。
そう、今の不二は短髪で髪の先を重力に逆らって立てていた。
あのさらさらの髪を切ってしまったのだ。
俺は信じられなかった。
というか誰だかわからなかった。

服装は原色のカラーTシャツにダボダボ短パンだった。
悪いわけじゃない。
どんな服装でも着こなせてしまう、それが不二周助なんだと思う。
でも俺は納得できなかった。
あれは俺の知っている不二ではなかった。






「どうしたの…まさか本当に今までみたいな格好やめちゃうの…?髪だってあんなに綺麗でさらさらだったのに…どうしてそんな短く…」

「言っただろ?俺は女子からキャーキャー言われる生活は疲れたんだ。俺は英二さえいてくれればいいから」

「な…恥ずかしいセリフをさらっと言うなよ!で、でもでも…前の不二の方がよかったよぉ…」

「悪くはないと思うけどな」

「王子様に戻ってよ…」

「あっ、今の英二可愛かった!そんなに英二が言うなら戻ってもいいけどね」

「なんでそんな上から目線なんだよ」

「とりあえず皆の反応見てみたいんだよね。でもこれで女子達がいなくなっちゃったら先輩にしばかれそうだな」






しかし、不二や俺の予想は外れた。
皆唖然とするかと思いきや、女子達は“あんなスタイルも新鮮”だと言った。
俺は思った。

不二ならなんでもいいんだな、と。

意外な反応に不二はガッカリして、次の日から本当に髪や服装のスタイルを元に戻した。
髪は元に戻せないだろう、と思ったらあのツンツン頭はウィッグだったことが判明。
さらさらの髪は復活したのだった。


俺はやっぱりこっちの方が不二だと思う。
もちろん不二だから何でも着こなしてしまうのだろうけど、今の不二が一番好き。
“俺”って言う一人称は似合わない。
“僕”がいい。
普段“僕”って言う人が稀に“俺”って使う方がドキッとくる。






「英二もイメチェンする?」

「俺はしないよ!」