「僕もCD出したいよ!」






俺は摘まみかけた柿ピーをぽろりと落とした。
何の話かと思えばバレンタインのCDの話をしているようだ。






「贔屓だと思わない?青学メンバーってバレンタインのCDシングル一人も出してないでしょ?」

「はぁ…まぁね。でもアルバムの中で大石が歌っ「大石だって?!…自分ばっかりちゃっかり出しているんだね。全く…先駆けてやるなんて僕に対する挑戦状なのかな…」」

「…なわけないっしょ!変に大石を敵視するのやめてよ、あいつはイイ奴だってば」






と言うと大抵不二は怒る。
わかってる、不二は俺が大石の話をするのを酷く嫌う。
その理由は明らかで、大石をライバル視しているからだ。
たぶん大石は不二がなんで常に怒りを露にしているのかがわからなくて、またしても胃を痛めているのだろうけれど。
そんな不二の様子を見ていい加減飽きた俺は、不二を無視して大石からもらったアルバムのCDを流した。






「英二っ!!!」

「にゃんだよー、大石フツーに歌上手いじゃんかぁ」

「僕より大石の歌がいいって!?あぁ…もう君に言われたら僕は生きていけないよ…」

「あのさー…別に不二と大石を比べたつもりないし、たまたま俺がCDもらったから今聞いてるわけで」

「たまたまなんて嘘だね!何を言ってるんだ、わざわざ英二に自分のCDを渡すなんて下心ありありじゃないか!要は自分の歌を聞いてくれっていう告白という名のアピールだろ?今時そんなやり方…古いんだよ!」

「(大石は下心とかじゃなくてただ聞いて欲しかっただけだと思うけどなぁ)じゃあ不二もCDデビューすりゃいいじゃん、バレンタインの歌で」

「出来るなら遠の昔にしてるよ。あーあ…バレンタイン…バレンタイン歌いたかったなぁ」

「(何を目指してるんだろう…)」






冷ややかな目でドン引きしているのに全く気付かない馬鹿とはまさにこの事だろう、と一人納得した俺は生をごくりと飲みながら柿ピーをまた摘まんだ。
無視していると何で一人黙々と飲んでるんだとぐちゃぐちゃ言うので、再びため息をつく。
俺何で不二のこと好きになっちゃったんだろう…不二がこんな奴だとは思わなかったしな〜…。
不二を選んだ俺が馬鹿だったのかなぁー…。













翌週。
不二がやたらニマニマと笑っているので嫌な予感がした俺は関わらないようにスルーをしようとしたけれど、すぐに捕まってしまい逃げられなくなった。
嫌そうな顔を俺がしているにもかかわらず、不二はなんてことはない、問題はないかのように当たり前に不二の家へと連れていかれた。






「…ったく、なんだよ!急に」

「ついに作ったよ…僕のバレンタインCD!」

「は?」

「今ってパソコン使えば簡単にCDが作れるんだね。こんな便利な世の中のおかげで、僕からのラブソングが君に送れるわけだ」

「(頭大丈夫かな…)いや、いいよ。不二に愛されてるのはわかってるから」

「遠慮なんかいらないんだよ!是非君に聞いてもらいたいんだ…僕の歌を!」

「(僕の歌って…人の曲だろ)いや、だから…」






どうして俺は不二の家にいて、CDをわざわざ再生してもらって、俺は体育座りでバレンタインの歌を聞いているんだろう。
不二がそんなに聞かせたいなら生声でいいじゃんね、なんて思いながらも目が点になりながらバレンタインの歌を聞いていた俺。

気が付けば既に夕方。






「どうだった?やっぱり僕の歌がいいでしょ?!」

「(まぁ確かに上手かったけど…)うん、そだね」

「次は何を歌おうかな♪あ〜これハマりそう!」






ウキウキ話す不二を見て呆れた俺だけど、こんな不二を好きになった俺も俺だよなぁ、なんて思いながら不二のCDケースを見つめる。
いつ撮ったのだろうと思われるジャケットの写真が、皆と同じように腕の上に顔を乗せているポーズであり、意識しすぎていてぷぷっと笑ってしまったのはナイショだ。