※3年生が部活を引退した秋〜冬あたりのお話。
※ありきたりなケンカネタ。
※氷帝→英二な雰囲気アリ。
「コート欲しいな」
ぼそりと呟いた英二の言葉に不二は顔を上げた。
英二がおねだりするのはいつものことだが、今回は女子のようなファッションについてのおねだりだったので不二は驚く。
読み進めていた本にしおりを挟むと本を閉じて英二の側に寄った。
今日は休日。
二人は英二の家でゴロゴロしていた。
部活を引退したあとの秋の季節。
不二は少し寒いと言って英二にぴとっとくっついて話す。
「コートが欲しいなら僕が買ってあげるよ」
「バカ言うなよな。コートなんて簡単に買えるわけないじゃん」
「そんな高くないものもあるじゃない。それとも英二はブランドものが欲しいの?」
「不二…そっちのコートじゃないんだなー」
英二は腕組みをしてしかめっ面をすると不二に説明した。
英二が欲しいコートとはどうやら衣類ではなくテニスコートのことを言っているらしい。
さすがの不二もこれはお手上げだ。
「うーん…テニスコートねぇ。確かに自分専用とかあったらいいかもね」
「ま、無理な話だけどな。あっ!でもおチビんとこにはコートあるよね〜。あと跡部のとこにも…お金持ちのお坊ちゃまは羨ましいにゃ」
英二の言葉に思わず不二は息を飲んだ。
英二はお金持ちのお坊ちゃまに魅力を感じているのだろうか。
だとしたら自分なんか眼中にないのではないだろうか。
そう考えると不二は急に表情に翳(かげ)りを見せた。
それに不二にとっては別の男の名前が出てくることは酷く不愉快だった。
「どうやら僕は英二に必要とされていないみたいだ。だったら僕はいらないよね」
「へ!?なんでそうなるのさ!」
「英二は越前や跡部みたいなお金持ちがいいんだろ?好きなだけ甘えてテニスコート借りればいいんじゃない?あぁ、ついでに高級なコートも買ってもらいなよ」
「ちょ…ちょっと不二ぃ〜!?だからなんでそうなるんだよ!ただ言ってみただけじゃん!」
「本音では求めてるってことさ。つまり僕は必要とされてない」
不二は立ち上がり溜め息をつくと残念そうな顔をしたまま英二の家を出て行ってしまった。
「…っていう風に喧嘩しちゃってさぁ」
事の流れを説明していた英二。
説明している相手は偶然道端で会った氷帝の跡部、そして忍足だった。
泣きそうになっていた英二を見かけ、忍足が声をかけたのだった。
「お前がそんなに泣くこともねぇだろ。菊丸…お前は悪いことは言ってないんだからな。それにテニスコートを使いたきゃ…お前にならいくらでも貸してやるよ、アーン?」
「う〜…でも…不二と早く仲直りしたいしぃ…」
「せやで、菊丸。はよう不二と仲直りするべきや。菊ちゃんが悲しい顔してるのが一番俺としては悲しいからな…」
「忍足…跡部もありがと!俺…早く不二見つけて仲直りしてくる!」
英二は涙を拭き二人に手を振ると早々に去って行った。
その姿を見守る忍足に跡部はケッと声を上げた。
「せっかく声をかけるチャンスを自ら捨てる奴がいるかよ、アーン?もったいねぇことしやがって」
「何言うてんねん…そんなに跡部様は余裕がないんか?欲しいときは力づくでも奪いとるんやなかったんかいな」
「うるせぇよ…俺様が力づくでやらなくたってモノにはできるぜ」
二人の会話も知らずに駆け足で不二を探す英二。
パコーンとボールを打つ音が聞こえて近くのテニスコートを見ると不二がいた。
不二は桃城とラリーをしていた。
英二は声をかけたが反応したのは桃城だけで不二は知らんぷりをしていた。
その反応に英二は胸が苦しくなったが早く仲直りがしたかった。
だから英二は無視をされても構わず、ずかずかとテニスコートの中に入っていった。
「エージ先輩…」
「桃!ちょっと席外してくれる?!」
「何言ってるの英二。今僕は桃と試合中だよ…勝手なこと言わないでくれるかな」
「うるさい!俺は不二に用があんのっ」
「僕は英二に用はないよ」
この二人の様子を見てケンカをしていることをすぐに悟った桃城。
どちらも先輩であり、言っていることが逆なのでどうしたものかと悩んだ。
しかしここは仲直りをしたがっているのであろう菊丸につくべきだと考えた桃城は、失礼しましたと一言だけ伝えると早々に帰っていった。
英二がホッとすると不二は不愉快そうな顔で英二を見た。
「あ〜あ…今いい勝負だったのに水を差されて気分萎えちゃった」
「何言ってんだよ!俺は不二と仲直りしたかっただけなのに」
「……」
「俺…不二が側にいてくれなきゃイヤだ。お前がどんなに無視しても仲直りするまでくっついてやるかんな!」
不二は呆れた顔をして英二から離れるようにした。
慌てて英二は不二の後を追う。
英二の宣言通り、距離が離れてもすぐに近付きじぃっと不二の方を見ている。
ふぅっと不二は溜め息をつくと下がり眉になって降参するように手をひらひら動かした。
「英二…これじゃあ仲直りできないんだけど?」
「え?」
「君がこんなに僕の側にいてくれるのなら仲直りしようなんて…言い出しにくいなぁと思ってさ」
クスリと不二は笑うと英二の方を見た。
確かに仲直りしたいが故に不二に密着しすぎていた英二。
不二に指摘されて初めてハッとすると英二は顔を赤らめた。
「僕だって仲直りしたいけど…でもこのまま英二に密着されるのも悪くないね」
あははと笑う不二に英二はポコポコと胸を叩いた。
どうやら二人は仲直りできたようだった。
せっかくだからテニスしていこうよ、と不二が誘ってくれたので英二は不二の予備ラケットを借りて少しだけ打ち合いをした。
コートには誰もいなかったので二人だけで利用できたことに満足できた。
「俺さ…コートなんて欲しかったわけじゃないんだ。ちょっと不二を困らせたかっただけ。他の奴らの名前出したらヤキモチ妬いてくれたりしたら面白いかも〜なんて考えちゃって」
「英二…」
「俺は不二との時間が欲しかったんだよね。不二との絆を確認したかっただけなんだ」
英二は十八番の菊丸ビームを出して決めるとニカッと笑った。
不二は英二の心情を聞いて嬉しそうにしていた。
