※前番号「嫉妬」のお話から続いております。
※幸村×菊丸から始まってますので苦手な方はご注意m(_ _)m
※どう話が進んでも不二菊です。
あれほど気を付けた方がいいと言われていたのに、英二は難なく幸村に組み敷かれていた。
しかも場所は立海の空き教室だ。
元はと言えば部室の鍵を取りに行かなくてはならないという話を聞いたのがきっかけだった。
せっかく立海のコートをたっぷりと使わせていただいたので、後始末や片付けは協力せねばならないと英二も考えていた。
だからこそそれなら俺が鍵を取りに行くと名乗りを出た。
(実際は手塚にあの後練習に加わらなかったことを責め立てられ、罰として名乗り出ておけと半ば強制であったのだが)
しかし青学の生徒一人で行かせるわけにもいかないと微笑みながら言ったのは紛れもなく部長こと幸村だったのだ。
かといってここで幸村と一緒には行きたくないと言うわけにもいかず、不二もじれったい気持ちであったようだが仕方なく二人で鍵を取りに行く羽目になったのだ。
鍵は教務室にあるらしかったが、幸村の向かった先は教務室ではなく空き教室だった。
しかも内鍵のかけられる教室で、外部から助けを呼ぶのは不可能な状況であった。
完全にやられた。
「さて、野良猫の調教を始めようか」
負のオーラを帯びた笑顔はもはや癒されることのない笑みであり、ゆっくりと忍び寄る幸村に英二は後退りをする以外に他はなかった。
不二との営みを邪魔されたことを根に持っているのか、恐ろしさしか感じない空気に耐えられず英二は逃げようとした。
だが当然幸村の横をすり抜けてドアに向かうことはできずに思い切り腕を引っ張られて床に叩きつけられる。
「やだやだ…!!」
「俺に刃向かうと後悔するよ?…調教のしがいがあっていいけどね」
冷酷な瞳で英二を見つめ、明らかにこれは昼間不二と楽しむところを邪魔した仕返しなんだろうと思った。
だったら受けて立ってやる!とギッと英二は幸村を睨みつけたが全く相手には効果がないようだった。
「まず目付きがよくないね。俺をそんな目で見ると…」
いとも簡単にハーフバンツを脱がしてしまう。
慣れた手つきに英二は怯えて涙が溢れてきた。
涙のせいで視界がぼやけてしまう。
こんなときに不二がいてくれたら…!
そう願う英二だったがいくらなんでも不二がこの教室に来てくれるとは思えなかった。
立海の部員ならまだしも青学の生徒じゃ校舎の造りだってわからない。
鍵はおそらく誰かが取りに行って事なきを得るだろう。
そして一同は解散する──
この筋書きでは誰も助けに来てなどくれないのではないか?
そう考え出したら英二は背中に冷や汗をかき始めた。
「今頃怖気づいたのかい?君はあのときおとなしく見ていればよかったんだよ…そこらへんにいる野良猫同様にね」
「見ている…だけ…?」
「そうさ。そうすれば君はこんな目に遭わなくて済んだし、不二だって俺の良さに気付いてくれたはずだ」
スパッツに指をかけられたときそれは違うと英二は言った。
泣いていたせいで声が震えていたがそんなことはお構いなしに思ったことをそのまま伝えることにした。
「あんなやり方じゃ不二なんか絶対振り向くもんか」
「…なに?」
「お前は…ただ奪おうとしただけじゃんか!そんなんじゃ不二は傷付くだけだし、お前だって不二の何一つも手に入らない」
「君に何がわかる…」
「俺はずっと不二の側にいたもん!少なくともお前よりはちゃんとわかってるつもりだっての!えいっ!」
隙をついて相手から逃れ英二は体勢を整える。
ポロシャツにスパッツというなんとも恥ずかしい格好ではあるが今は逃げるしかない。
「はぁ…はぁ…だから…お前なんかに絶対負けないかんな!」
涙を手の甲で拭うと再び幸村を睨み返す。
しかし想定内といった様子で幸村は余裕だ。
「君に勝ち目はないよ。そのだらしない姿でまさか校舎を歩くつもりじゃないだろうね?」
英二から剥ぎ取ったハーフパンツを握りひらひらと見せつける幸村。
いずれにせよ幸村の方がまだ優勢であることには変わりはない。
英二は猫のように飛び回ってハーフパンツを掴もうとするが逆にその腕を取られまた組み敷かれてしまった。
今度はすぐに体重を乗せ英二を動けないように固定してしまうとすぐさま舌を吸い取ってしまうように卑猥なキスをした。
「んぐぅ…!!んぅぅ…っっ!!!!?」
「んはぁ…どうだい?あー…もっとしたいなぁ」
何度も行き交う舌が絡み合い、こんなことしたいわけでもないのに英二の身体は火照り始めていた。
思わず興奮して息を切らすと今度はここはどうなの?と面白そうに胸の突起を弄り始めた。
「ひゃ…!!」
「いい反応だね。青学って面白いオモチャがたくさんあっていいなぁ」
「…ふざけんな!!」
学校全体を汚されたようで腹が立った英二は幸村を見るも、もはや睨みつけるほどの気力はなく次第に力も入らなくなっていった。
あのときの不二ももしかしたらこんな気持ちだったのだろうかと英二は考えていた。
「何を考えているの?俺と一緒にいながら別のことを考えようだなんて…」
いい根性しているね、と英二の足を持ち上げた。
スパッツを脱がしていないのに幸村はいやらしい表情で見つめているので英二は気になりだした。
「な…なんだよ…!!」
「あはは…意地張らなくていいのに。もうベタベタになってるよ」
自分でもわかっていた。
英二は興奮して下着どころかスパッツまで染みを作っていたことに。
そのことを思い出させられたように言われ英二は赤面した。
「安心しなよ。これから気持ちのいいことたくさんしてあげるから」
「やだぁ…!助けてぇ…不二…ふじぃーっ!!!」
「君を助けになど──」
来ないよと耳元で囁き英二の抵抗にお構いなくスパッツを脱がしかけそそり立つ自身に触れようとした、その瞬間。
ガチャガチャと荒々しく鍵を回す音が聞こえガラガラとドアを開けて部屋に入ってきた。
入ってきたのは…不二だった。
「…ナイトのお出ましかい?随分タイミングがいいじゃないか」
「幸村…君が何を企んでいるかなんてすぐにわかるよ。さぁ、英二を離してもらおうか」
互いの視線はぶつかり合う中、隙をついて英二は幸村から逃れ不二の側に駆け寄った。
下半身はスパッツのみの着用でとても恥ずかしい格好ではあったがこれ以上危険人物と一緒にはいられない。
不二が助けに来てくれたことを心の底から嬉しく思った。
「二対一か…分が悪いなぁ。どうしていつも俺が狙う獲物には邪魔が入るんだろう?」
「俺達は信じあってるからだよっ」
うっかり口を滑らせてしまった。
不二への思いはずっと隠したままにしていたというのに。
不二も英二の発言には驚いていたようで目を丸くしている。
しかしこのような状況下で秘密にする必要もない。
むしろ思いは正直に言ってしまった方がいいと英二は判断した。
すると幸村は腹を抱えながら笑いだした。
「あっはははは…信じあってたのかい?そうか…君達は恋人同士だったのか」
それなら俺は入る隙間さえないわけだ、と一人納得すると不二には悪かったとだけ述べて英二には何も言わずにハーフパンツだけ返した。
君達が付き合っているのなら俺は諦めるよと不二に言うと部屋を去って行った。
やはり不二を狙っていたのかと英二はムッとしたが、相手が退散してくれたのでこれで解決だ。
しかしそんなことよりも今はうっかり言ってしまった不二への思いだ。
不二の方を見れば驚いた様子で英二をずっと見ている。
もしかしたら嫌われたかもしれない。
泣きそうになるも涙はこらえて英二は不二の方を見た。
不二は困ったようなよくわからない表情をしている。
たとえ嫌われてももう正直に言うしかない。
英二は思いを不二に伝えようと口を開きかけたとき、不二が英二の口元に指を置き言葉を止める。
「…その続きは僕から言わせて」
「え…?」
「僕は英二が好きだ…」
まさかと思い、今度は英二が目を丸くした。
不二が言った言葉が幻聴のようであるような気がして信じられなかった。
すると不二は零れかけた英二の涙を舌で掬い、舐めとると優しい微笑みで英二を見た。
英二が一番大好きな、不二の笑顔だ。
「…あんな状況下で告白してくれるとは思わなかったけど…でも嬉しかったよ。僕だけの一方通行だと思ってたけど」
「不二も…俺のこと好きでいてくれたの…?」
「あぁ。でも関係を壊すかもしれないと思ってずっと黙っていたんだ」
不二はゆっくりと英二を抱き締めると英二の耳元に唇で触れた。
くすぐったいような感覚に英二は思わず身を引き締めたが不二はお構いなく続けていく。
次第に顔を離し互いに見つめあうと不二の方からキスをしてくれた。
甘くて優しいとろけそうなキスに英二は酔いしれた。
「僕と…付き合ってほしい」
不二の問いかけに英二は涙を流しながらもコクンと軽く頷いた。
