※話の途中で幸村×不二の表現があるので苦手な方ご注意m(_ _)m
※次番号「涙」へと話が繋がっております。
※どう話が進もうと不二菊です。
今日は立海との合同練習を行っている。
今秋にU-17合宿というものがあるらしくそれに向け日々精進のため激しく練習をしていた。
立海は全国決勝でも戦った相手だが今でも勝利した気分は現実味を帯びていない。
まだ夢の中にいるようだ。
今こうして試合をしていてもポイントは取られ、立海の圧勝だ。
あれから数日経っているとはいえ、立海のメンバーは確実に再び実力をつけてきている。
「青学の天才と聞いていたからどんなプレイをするか期待していたのに…あっさり降参かい?」
そう語るのは立海テニス部の部長である幸村だ。
完敗した不二は残念そうな表情を浮かべながら握手をかわす。
「君には勝てそうにないよ」
「随分弱気だな」
期待していたのにと口端を上げて微笑み握手していた手を離すとジャージの上着を脱いだ。
不二は試合中幸村の上着を落とすことはできなかったのだ。
「でも…俺の目に狂いはないと思っている。もしよければ向こうで話さないか?」
不二は頷きコートから出ると幸村と一緒にベンチへと向かった。
その様子を遠目に見ていたのは英二だった。
英二は試合もまだ出番待ちで話す相手もおらず暇を持て余していた。
二人が話しているところに遊びに行こうかとも思ったのだが、何故か幸村から人を寄せ付けないオーラを感じて遠巻きに見ているしかできなかった。
「(つまんないなぁ…)」
ちらちら不二達の方を見ては幸村と楽しそうに話している不二が見えてなんとなく面白くない英二は口を尖らせて不満を漏らす。
その不満でさえ聞いてくれる者はおらず、なおさら寂しい気持ちになった英二。
これが俗に云う嫉妬というものなんだろうか。
ふと顔を上げると二人はまたどこかに移動しようとしていた。
もうそろそろ試合に呼ばれそうな予感もしたのだが不二達の様子の方が気になってしまう。
どうせいなくなっても違う誰かが試合をすればいい。
手塚には怒られるかもしれないがそんなことより今は不二の方が気になってしかたないのだ。
英二は自分の気持ちに正直になり二人をこっそり追いかけることにした。
二人がどこに向かおうとしているのかわからない。
英二は気付かれないようにそっと足音を殺して追跡する。
一方不二と幸村は今もなお楽しそうに話をしていた。
「ふふ…不二は意外におちゃめなんだな」
「悪い言い方をすればドジってことだよ。でも英二の方がもっと忘れっぽいけどね」
不二が笑いながら話していると突然動きを止めた幸村に不二は一瞬驚いた。
振り返ったその幸村の表情は何かが降臨したような、冷たい表情で不二を見つめる。
「今は君の話をしているんだよ。他の部員の話なんて聞きたくないな」
「え?あぁ…そう?ごめん…気を悪くさせたかな」
申し訳なさそうに謝るといや、俺が言い過ぎたと幸村は突然不二を抱き締めてきた。
追跡をしていた英二は目の当たりにした光景に思わず声が出そうになったがむしろ驚き過ぎて声にならなかった。
「(マジかよ…!!!?)」
不二は今何が起きているのか理解できていないようで幸村にがっしり掴まれた腕を払おうと身をよじらせた。
しかしその力はとても強く振りほどくことはできない。
「ゆ…ゆきむら…!こんなところで何を…!」
「誰も見てはいないよ…不二。大丈夫だ」
「そ、そういうことじゃない!君、今何をしてるかわかって…?!」
不二は慌てて幸村から離れようとしていた。
こんな人目につかないところへ来たのも計算の内だったのかもしれない。
不二は必死になって腕を振りほどこうとしている。
幸村は暴れ出す不二に小さく舌打ちをすると不二を難なく地面へと組み敷いた。
「君はわかっていないよ…どれだけ魅力的で…美しいかをね」
「冗談はよしてよ」
「冗談なんかじゃないさ。決勝でうちの仁王と試合をしたときから…ずっと俺は不二のことが気になっていたんだよ」
英二はまさかの展開に目を大きく開かせ瞬きをするのも忘れてしまうくらいに見入っていた。
いや見入っている場合ではないことはわかっている。
明らかに不二は抵抗しているし誰も止めになど入るはずはない。
こんな人目につかない場所を選らんだ幸村の策略に見事不二ははまってしまったのだ。
だが英二としてはどのタイミングで行くべきか悩んでいた。
不二が人の助けを必要とすることなど今までだってなかった。
今こうして見る分には抵抗しているように見えるけれども、実は不二は幸村のことが好きなのかもしれない。
だとしたら英二がここで出向くのはとてつもなく場の空気を読まないということになってしまう。
だが本気で嫌がっているとすれば不二を見捨てることになってしまう。
「不二…いい汗をかいた後だ。ついでにもう一度汗をかくのは悪いことじゃないだろう?」
「やめてっ…!あ…!!」
ポロシャツをまくって手を入れられ既に敏感になっていた肌に幸村はするりと手を伸ばす。
英二は刺激的な行為を見て思わず赤面した。
しかし熱を上げている場合ではない。
英二はされるがままの不二をこれ以上見ているのが辛くなった。
ダッシュして二人の目の前に出ると、幸村そして不二とも目が合った。
「君はたしか…」
「!!えい…じ…!!!?」
まさかついてきたとは思っていなかったようで二人とも驚いていた。
英二は幸村に睨まれたが負けないようにこちらも睨み返すと、やれやれといった様子で幸村は立ち上がった。
ジャージを整えて一呼吸置くと不二の方を見て手を差し出し体を支えて抱えてあげていた。
先ほどまでの押し倒していた姿が嘘のように思えてしまう光景に英二は再び息を飲んだ。
「どうやら野良猫が邪魔しに来たようだから退散するよ」
「おいっ!野良猫って誰のことだっての!」
「…そんなこともわからない?どうやら──」
このオス猫は調教してやらないといけないようだね、と怪しげな笑みを浮かべると不二には優しい微笑みを返してじゃあまたと手を振った。
まるで何事もなかったかのように事を済ませて去っていったので、英二はぽかんと情けない表情をしていた。
「ふ…ふじ!大丈夫だった?!」
「うん…まさかこんなことになろうとは…」
不二の方も驚いていたようで身だしなみを整え終えると砂を払った。
英二を見てありがとうと不二は言ったが、その表情は照れくさいような恥ずかしそうな様子だった。
それは当たり前だ。
ついさっきまで貞操を奪われる危機だったのだから──
「あ…英二」
「うん…」
「彼には…気を付けた方がいい」
「不二の方が心配だよ」
確かにそうかもしれないと一人納得するも去り際に言い放った幸村の言葉を不二は気にしていた。
彼は要注意人物だ。
