2年生の秋の終わり。
季節がこれから冬になると天気は悪い状態が続く。
晴れの日は皆無とは言わないまでも、ほぼ無いに等しい。

また雨。
明日も雨。
明後日だって雨。

雨、雨、雨…

俺の心の中も…ずっと雨…






フラれたわけじゃない。
それ以前に告白だってしてない。
だから自分で勝手に自己解決しただけ。
悪いのは俺…早く不二に伝えればよかった。
そしたらきっと不二は…俺と付き合うはずだった。

…手塚じゃなくて。






『え?僕が?付き合う…別にいいけど』






多分不二は手塚が好きだったわけじゃない…と思いたい。
不二の言い方からして好きだった奴とは思えないんだ。
だから俺が告白すればよかったんだ。
そうすれば…たとえ不二が俺を好きじゃなくても、たとえ付き合う期間が短くなってしまっても夢くらいは見れたんだから。

そう考えると…手塚は得をしたんだと思う。
続かないにしたって夢が見られるんだから…羨ましい。
俺だって夢を見たかった。

でもなんで不二は手塚の告白を受け入れたんだろう。
とりあえず恋愛をしてみたかったんだろうか。
何にしても…もう俺の関係ないことだ。













部室でも賑わっていた。
当然の如く、他の部員も二人が付き合っていることを知っている。
だって…手塚ってば部室で不二に言ったんだもん。
部員に聞かれて当然じゃんか。

1年生で入ったばかりの元気な奴、桃ちんはやたらヒューヒューなんて茶化しながら盛り上げようとしているんだ。
ほっとけっての。
見てるこっちは辛いんだよ。

気が散るから俺は部室を出た。
皆が幸せを願ってくれてよかったね、手塚。
俺は…願ってやれないけど。






「桃城、さっきから煩いぞ。大体何故俺が不二と仲が良いなど言われなくてはならない」

「えぇっ?!だって付き合ってるなら仲が良いんだろうなーって…思っただけなんすけど…何か俺、変な事言いましたか?」

「俺は不二とは―――」






あーあ。
つまんない。
皆で不二と手塚の話ばっかり。
こんなん毎回続くんじゃ…部活だってしたくない。

あ…雨降ってきた…
最悪。
外でテニス出来ないじゃん。
ついてない。
本当に…面白くない。
雨音が俺をさらに苦しませる。

これ以上…俺を苦しませないでよ!!!






「英二!あっ、よかった…こんなところにいたんだね。雨に濡れちゃうからこっちにおいでよ」

「不二…嫌だ」

「え…?」

「不二なんて嫌。好きでもない奴と付き合える神経がわかんない…そんなの…手塚のこと弄んでるだけじゃん!不二なんかだいっきら…」






俺は雨でびしょびしょなのに…不二は俺を抱き締めてきた。
咄嗟の出来事だったから何が起きたのかわからなかった。
不二から…いい香りがする。
ドキドキしてくる。






「英二も…勘違いしていたんだね…。僕は…手塚と付き合ってはいないよ。あの日付き合うって言ったのはテニスボールの買い出しのことで恋愛絡みじゃないんだ。あのとき手塚はまだ部長を任されたばかりで大変そうだった。だから一部員として手伝えることは手伝おうとサポートしたまでだよ」






不二の言っていることが嘘のように思えた。
だって…俺がずっと悩んで考えてたのって…じゃあ…






「誰が広めたのかは知らないけど、とにかく僕と手塚は付き合ってないから…それだけは信じて。ね?」

「不二…ごめ…ごめんなさい…嫌いなんて…弄んでるとか…酷いこと…!」

「いいんだよ…誤解が解ければそれでいい。僕は…英二が好……だから」






雷が突如鳴った。
雨音はさらに激しくなり、不二の言葉の最後の方を消してしまったせいで何を言ったのか聞き取れなかった。

不二はニコリといつものように笑っている。
雨がザバザバ降るせいで不二はシャワーを浴びたように髪も顔もびしょびしょになっていた。
それがなおいっそう男らしさを強調させていた。






「この天気は酷いなぁ…このままじゃ風邪をひいてしまうね。今日は手塚に言って早く帰らせてもらおうよ」

「え…うん……あっ…不二、あの…さっき雷で最後の方聞こえなかったんだ…さっきなんて言ったの?」

「最後?…何も言ってないよ。英二の誤解が解けてよかったって話さ。さぁ、立ち話を続けるのも限界だから一旦部室に戻ろうか」






不二はニコニコしながら俺の手を引いて走っていく。
不二が何か言いかけたことは間違いないのに、どうして言わなかったのかな。
…俺の気のせいなのかも。

ザバザバ降る雨の中で走る不二は、俺には輝かしく見えて魅力的でかっこよかった。
やっぱり不二が好きだ。

いつか必ず俺の思いを伝えたい。