どうしていつも朝って時間がないんだろう。
そう考えてるのはきっと俺だけじゃないはず。
朝起きて時計を見ると出かける時間まであと二分なんだ。
これは完全に遅刻だ、と諦めてゆっくり起き、洗面所に向かう。
お気に入りの歯磨き粉で歯を磨く。
最近はゴールデンキウイ味にハマっている。
甘くて酸味も感じるこの歯磨き粉で磨いている間に、だんだん目を覚ますわけ。
はっとすると1限が数学で竜崎先生だったことに気付くんだ。
また怒られてしまうけど仕方ないやと、特に焦るわけでもなくて制服に腕を通す。

携帯のライトが点滅しているので開くと不二からの電話だった。






『英二…今、家?』

「ピンポーン!大正解〜」

『…また遅刻?』

「ん、やっちゃった〜」






不二から電話がかかってくるのは嬉しい。
できればもう少し早めに電話してくれたらいいなぁなんて都合のいいことも思っちゃったり。
でもそれってモーニングコールじゃん!?
不二からのモーニングコールなんて贅沢だよ!

実は俺、不二が気になるんだ。
同じ男だけどそういうことは一切無視して、すごく、魅力的なんだ。
でもこの思いは俺だけの秘密。
伝えたりなんて考えてない。
今、こうして俺に電話してくれるのが楽しみだから。
今の関係を壊したくない。






『宿題が出るみたいだから英二の分もプリントとっとくね。後で学校来るんだよね?』

「行く、行く!部活だって出るから!」




















「もう…のんびりしすぎだよ?英二は五分前行動をした方がいい。いつもの時間より五分早く起きたりすればいいんだよ」

「ん〜…難しい…」

「はぁ…仕方ないね。じゃあ僕が電話かけて毎朝起こしてあげるよ」






え?!
ま、毎朝俺を…!?
うっそ…だって…毎朝不二の声聞いたら俺…失神しちゃうよ…






「君のためにならないから最初はやめようと思ったんだ。でもこれで授業に来れないんじゃ英二も困るだろうからね…だから今度は遅刻しないようにね。いいかい?」

「うん!!!」






わぁい!
不二から本当のモーニングコール!
本当に失神しちゃうかもしれない。
でもダメ!
せっかく電話してくれるんだから絶対起きなきゃ!

それから俺は遅刻を一切しなくなった。
全ては不二のおかげだった。

それにしても不二はなんで遅刻しないんだろ?
何かいい方法でもあるのかなぁ。
あ、そうだ!
不二に聞いてみよう!
少しでも不二としゃべりたいから俺は不二を探した。
そういえば誰かに呼び出されてるんだっけ。
先生かな?
不二ってあんまり昼休み教室にいないからな〜。
確か…理科準備室だっけ?

用事はまだ済んでないかもだから教室の外で待ってよーっと。


…聞き耳立ててるわけじゃないんだけどなんとなく声が聞こえてくる。
話している相手は女の人みたい。
誰と話してるのかな。

好奇心旺盛な俺はドアを少しだけ開けて覗いてみた。


中には不二と…
不二…と…

女の子が…キスしてる…



俺は思わず音を立ててしまった。
そのせいで不二がこっちを見た。
目が合った。
時間が止まったような感じだった。
早く脱したくて俺はその場から逃げ出した。













「う…っ……う……」






トイレで声をできるだけ出さないように泣いた。
個室は誰も入らないせいかやけにホコリっぽい。
涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃになり、呼吸もしづらくて苦しかった。
こんな敗北した姿、誰にも見られたくなかった。
…不二はかっこいいんだから女の子の一人や二人なんているに決まってるのに。
わかってたけど…知りたくなんてなかった。
やっぱり不二を好きになんてなるんじゃなかった。


その後教室に戻るのが俺は嫌だった。
席の隣がまた不二っていう…嫌な状況だから。
それに俺の顔を見られたくない。
家に帰ろうかと思ったけど鞄が教室に置きっぱなしだ。
仕方ないから放課後、皆がいなくなってから取りに行けばいいや。













「…戻ろうかな」






たぶん…もういい時間。
授業も終わってるはず。
これで部活にも行かないで帰っちゃお…
後で手塚にメールしといて…それでいいや。

俺はドアを開けた。
人がすぐ目の前にいて驚いた。
何故か…それは不二だった。






「こんなとこで…何してるの」

「…な、なんでも…」






まさか…ずっとここにいたんじゃないよね…
でも…トイレに入ってきた人なんて俺が来てから一人しかいなかったはず…。
その人が来たのは三時間くらい前だった。
だってここのトイレ、教室からも外からも体育館からも遠いトイレで利用する人なんて滅多にいない。
泣くにはいい場所だと思ったから…まさかじゃあずっとここに…?






「英二が授業始まっても来ないからおかしいと思ったんだ。…さっきの誤解されたくないから話がしたかった」

「誤解…?」

「そう…僕がさっき話していた子、僕のファンみたいなんだけど告白してきてね。キスまでしてきたからキレたんだ。そしたら僕を怖がって逃げ出した」

「じゃあ…彼女とか…」

「全然違う。大体僕は英二が好きなんだから他の女も男も好きじゃないよ」






そっか…!
じゃあ俺まだ不二のこと好きでいてもいいんだ!
よかった…






「…で、今さりげなく僕…告白してみたんだけど英二はどう思ってるのかな」

「…へ?」

「僕は英二が好きです。大事なことなので二回言いました」

「…えっ…え……えぇ〜!!!?」






うそ…だって俺…男なのに…!?
俺なんてうるさいだけだし、人にやたらベタベタするし、魅力とか全然ないのに…






「僕はね…ずっと英二が好きなんだよ。いつか言おうとは思ったけどいつかなんて言ってたら英二が他の奴に取られるかもしれない。僕だって今日みたいに見知らぬ奴に勝手なことされるかもしれない。そう考えたら早く伝えた方がいい…そう思ったんだ」

「不二…!俺も…俺も好き!」

「…よかった。じゃあさ、早速で申し訳ないんだけど僕の口…英二に消毒してもらいたいんだ。洗ったんだけど感触が残って気持ち悪くて。いいかな」

「う…うん!」






初めてだからものすごい緊張した。
しかも不二だから…。

俺は目をぎゅっと瞑ってキスをした。