僕は英二が大好き。
ずっとずっと側にいたい。
だから時々うっとおしいと思われるかもしれない、という不安はあった。
最初は英二の方から抱きついたりしていたけれど、最近では僕の方が激しいと自
覚するようになった。
異常かもしれないと気付いた時にはもう遅くて…英二は怒った顔で僕を睨みつけ
た。
「一日中そうやって俺を監視すんのやめろよな!」
「英二が心配なんだよ…!電車に乗った時だって変な男に触られてたじゃない!
」
「痴漢なんてそこらじゅうにいっぱいいるさ!でも俺だって男だっての!!過保
護でベタベタなんてもうイヤ!!」
心のすれ違いが僕らの関係に溝を作る。
こうして口を訊かなくなって一週間が経った。
やっぱり話をしないのは心がへし折れてしまうぐらい苦痛だった。
この苦しみから解放されたくて僕から声を掛ける。
それでも英二は僕にお構いなしで違う奴らとラーメンを食べに行った。
僕らの関係はこれでピリオド。
「あ〜!不二先輩久しぶりッス!!」
「堀尾…久しぶりだね」
中学二年になった堀尾は相変わらず大きい声だったけど沢山練習していたみたい
で汗だくだった。
ちゃんと練習に励んでいるのは感心するよ。
僕が少し曇った顔をしていたのを堀尾は気付いたらしい。
「…元気ないのは菊丸先輩のことッスか?」
察しのいい…君はきっと観察力のあるいい選手になれるんじゃないかな。
「菊丸先輩なら河川敷のとこで一人でしたけど…呼んできま…」
「河川敷?…そう、ありがとう堀尾!」
「え…?不二先輩?!」
ラーメンを食べに行ったんじゃなかったのかい?
本気にしていた自分を嘲笑した。
英二は今頃僕のことなんて忘れて、楽しい仲間達と食事中だと思ったのに…!
「英二!!!」
河川敷で一人座り込む高校生。
英二だった。
僕の呼び掛けた声に反応して一度だけこっちを見たけど、また向こうを見てしま
う。
無視されたって僕は諦めない。
諦めるもんか。
走って英二の近くに行く。
英二は石になったんじゃないかと思う程、静かで身動きを取らなかった。
「英二…」
「…なんだよ」
「馬鹿だねって言って」
英二はゆっくりと僕を見た。
「なんでだよ…」
「本気にして英二のこと…すぐ追いかけなかったから。僕は馬鹿だ」
倒れ込むように膝をつき、土に手をつく。
英二は黙って僕を見ているだけだった。
やっぱり僕を許してはくれないのかい?
それはそれで構わないさ。
でも…僕はどうしても…君とやり直したいよ。
「…もういいよ不二」
「え…」
「だからさ…仲直り…しよ?」
空から日差しが射す。
心の曇りが晴れた。
自然と微笑みが僕の顔から溢れ落ちる。
英二も僕を見て笑う。
「不二は笑ってなきゃダメだよ!」
「うん…そうだった」
僕の手についていた土を払ってくれた英二は僕の手を握り締める。
「今からラーメン行こ!」
「え?今から?」
「そう!不二の大好きな唐辛軒!」
俺も挑戦してみる、と英二は辛いラーメンを食べてみるらしい。
どうなるか見物だね…フフッ。
でも…仲直りができてよかった。
僕の生きる人生に君がいないなんて考えられない。
君なしでは僕は生きていけないから。
だからずっと側に一生一緒にいて下さい、英二。
「なんか言った?」
「ううん、なんでもないよ」
幸せな日々が続きますように───
と僕は心の中で祈った。
