高等部になって再びテニス部に入部したのはいいけど、中学の時とは違って練習 が並じゃない。

ついていけないわけじゃないけれど、最初でありながら休憩なしでぶっ続けで走 りっぱなし・長い試合で体もボロボロになった。

そんなときに先輩と試合をして、膝を擦り剥いてしまった。

大したことはないけれど英二がそのままじゃバイ菌が入るから駄目!って言って …今二人で保健室いる。
放課後は人が誰もいなくてやけに静かだった。







「う〜痛そう…今消毒液持ってくるね!」

「ありがとう英二」







夕陽が沈んでいく。
春だから陽が沈むのは冬よりも遅いけれど…まだ暖かい気候ではない。
カラスが2匹鳴きながら空をはばたいていく。

なんだか切なくなってくる。







「あ!あった!不二〜消毒♪消毒…って何たそがれてんのー?」

「…え?夕陽が綺麗だからさ、英二とどっちが綺麗かなって」

「え…」

「クスッ…冗談だよ。英二の方が綺麗に決まってるじゃない」







簡単にショックを受けるものだからつい調子に乗って英二をいじめてしまう。
僕の悪い癖だ。








「なんだか二人だけって…いいね」

「そうだね!ちょっと恥ずかしいけど…場所が場所だし…えへへ」







それは保健室だから?
…と、もっと深く聞いてみたかったけれど抑えられない気持ちになってしまった ら後が大変だから聞かないでおく。


僕の傷に英二は持っていた消毒液でコットンを湿らせる。
ピンセットでちょっとずつ様子を見るようにして。
当てられる度に染みて少し痛みが走る。









「ごめん!痛かったよね」

「平気だよ、英二。もう大丈夫だから」

「まだ…消毒終わってないよ?」

「え…?」







英二はピンセットを置くと身をかがませて僕の傷をじっくりと見つめた。
まさか…英二…







「んっ…!」

「……っ…」







無言のまま傷をひたすら舐めてくれた英二。
英二の唾液が傷口に染み込む。

まだ終わっていない消毒って…英二、このことなの?







「…ぁ…よし!終わりだよん」

「英二…」

「う…もしかして俺の消毒…嫌だった?」

「まさか!そうじゃない。…英二に感謝しなきゃって思ったんだよ」







人は一人じゃ生きていけない…そんなことはわかってる。
僕の支えになっているのは…君しかいないんだ。

こうしてできた傷も…英二が癒してくれる。

今のような物理的な傷ではないとき。
…僕の心が堕ちてしまって生きることに苦痛を感じたときも英二は僕を救ってく れた。

だから…







「じゃあ絆創膏貼るね!」







僕にとっての絆創膏は…英二、君だよ。