単位取得数を稼ぐためにとった授業の中で倫理学というものがある。
俺は他の授業も興味があったけれど、倫理学というのもあんまり触れたことがないから授業をとることにした。

うん、人もそんなにいないし先生も優しい。
これはとりやすそう。






「ねぇ英二」

「……すぅ」

「英二ってば」

「…ん……」

「はぁ…起きてよ、英二!もう授業終わったよ!!」

「…え!」

「もう…英二がとりたいって言ったからとったんだよ?本当なら単位足りてるから僕的には空き時間にしたっていいのにさ」

「ごめんごめん…つい…」






不二は外見もよければ中身も優秀で、単位は既に卒業に必要な数を満たしていた。
そんな不二が俺には羨ましくて。
俺なんて余裕はないのにさ。






「英二が授業中寝るなら僕、もう次から出ないけど」

「う…」

「だって英二が寝ちゃったら僕何してたらいいの?暇だし、することないもん」

「ごめんってば…許してよぉ」

「どうしよっかなぁ〜…じゃあね、」

「アイスおごるだけでいい?オッケー!じゃあ今買って…」

「待った。まだ僕何も言ってないんだけど」

「ふぇ?」

「今日僕の家に泊まるんだよ?いいね?」

「う…たかが授業寝てただけでなんで…」

「え、何。英二に拒否権なんてあったっけ。ってか僕の家に来るのが嫌なんだ?」

「ち、ちが…」

「じゃあ決まりね!あっ、ちなみに逃げるとかなしね。逃げたら三倍返しだから」

「…はぁい」






俺と不二のやりとりはいつもこうだ。
不二って皆の前では大人ぶってるくせに、俺の前じゃ子供みたいにワガママ。
絶対自分の意見を通すんだ。


その晩は凄まじく大変な思いをした。
久しくヤってなかったせいか不二は溜まっていたみたいで、今まで以上に激しくて辛かった。
…もちろん気持ちはよかったけど。

俺は二度と授業中に寝ないと誓った。













翌週―――
この曜日には倫理学がある。
今日こそは寝ないぞ!と気合いを入れて授業に挑む。
挑む程のことじゃないでしょって言われちゃったけど…。

今回はエゴイストというテーマで授業が始まった。

エゴイストとは自己中心的主義者のことで、わがまま、独り善がりを言う…。
誰かに当てはまるな、これ。
ふと隣を見た。






「…なに?」

「いや、なんでも…」

「今…僕を見た理由がわかったよ。エゴイストは僕のことだと…言いたいんだね。英二ひどい」

「ち、違うよ!誰も不二だなんて言ってないじゃんか!」

「…わかってるよ。僕、いつも英二にワガママ言ってたもんね。だってさ、英二だったら僕のしてほしいこととかすぐ理解してくれるしさ、僕の望み叶えてくれるから…でも僕は英二に甘えてたんだね。ごめんね」






こうなると面倒なんだ。
不二は涙を拭く仕草をしているけど、これに騙されちゃいけない。
実は計算の上なんだ。
最初はわからなくて本気になって謝ってたけど、後からだんだんわかってきた。
こいつ、笑ってやがるんだ。

だからもう俺に泣き落としなんて通用しない。
隣で不二が泣き真似をしていても無視して、俺は黒板に書かれた文章を板書した。

ふん、エゴイストってまさに不二じゃん。
俺の意見なんて二の次、三の次でさ。


…言い過ぎたかな。
そっと不二に目をやると不二は机でうつ伏せになっていて、表情は全くわからなかった。
それでも泣き真似なんだから無視するしかないと思って、不二を無視し続けると嗚咽が漏れてきた。

うそっ!?
まさか…マジで泣いてる?
授業中なんだから控えればいいものを…まさか本気で傷ついちゃったとか?
だったら俺、超悪い奴じゃん…。

俺は不二の肩を軽く揺すった。






「不二?ごめんね…本当に傷ついてると思わなくて…俺が悪かったから…頭上げてよ…」

「…僕のこと嫌いなんだろ。いいよ…もう」

「違うってば!!!!」






やば…授業中なのに大声出しちゃった…。
俺は一気に体温が急上昇してしまった。






「授業中です、静かに」

「す…すいません」






俺はちらりと不二を見たら、不二は手で口を隠していた。
明らかに目は笑っていた。

…俺はまたやられた。
不二には敵わないと改めて知ったのだった。