秋になると文化祭がある。
まだ早いようだけど、もう生徒会では話し合いがあるみたい。
何やるのかなぁ…?
高校に入ってからなんとなくやる気がなくなっていった。
それは中学三年のときに経験したおっきな感動があったから。
あれ乗り越えちゃうようなものはないって。
だってさぁ、全国大会で優勝だよ?
信じられる?
俺、あれから引退して、おチビ達に見送られて、エスカレーター式に高校入った
けど…これといってやりたいことがないんだよね。
もち、テニス部に入ってるし、また大会で勝つように努力してるけど…メンバー
が違うし、先輩達は怖くてあんまりなじめないし、まだ不二が側にいてくれるか
らいいけど…正直つまんない。
「英二、そんな座り方してると背骨曲がるよ」
「ん〜不二ぃ…」
「何その声、誘ってるの?」
俺は思わず吹き出した。
全くそんなつもりなかったのに。
不二はなんてことを言うんだろう。
「違うっての!不二のドヘンタイ!」
「ふぅん…『もっと、もっとしてよぉ!!!』ってよがってたのは何処の誰だっ
け?」
「な…!ち、違うもん!!俺そんなこと言って…」
「じゃあ今から僕の家に行ってビデオテープ再生してみようか?あービデオだっ
て自分がどうなってるか見たいって英二が言ったから撮ってあげたんだよ?」
「や、やめてよ!!」
「本当のことでしょ」
不二は俺に優しくない。
もっと優しくしてくれればいいのに俺をからかいまくっていじめるんだ。
ひどいひどい!!!
「観念した?」
「しないもん!どっして不二はいつも俺のこといじめんの?!ひどい!こんなこ
と言われるなら俺もう不二なんて知らないから!!」
頭きた!
彼氏の彼女に対する扱いってこういうもんなの?!
あ…自分のこと彼女とか言っちゃった…
それはともかく、とにかく不二が優しくするまで不二とは一緒にいないことにし
た。
放課後、音楽が聞こえてきた部屋を通りかかった。
誰か知り合いなんていないと思ってたのに知ってる顔がいた。
跡部じゃん。
なんで?
「よう、菊丸」
「え?なんで跡部がいんの?」
「俺がいたら悪いのか」
「ち、違うけど…」
跡部の話によると氷帝と青学はコラボレーションするらしい。
音楽隊とか言って、吹奏楽メンバーに加えて飛び入り参加者を設けたらしい。
んで、跡部も入ったってことか。
「お前もやれ」
「え?俺?でも…音楽なんて知識ないよ」
「シンバル、タンバリン…打楽器なんていくらでもあるぜ」
「う…でもぉ…」
「不二の許可がないとできないとか言うんじゃないだろうな」
「な…それは…」
「メンバーが足りないんだ。強制参加させるぜ、不二の許可なんて俺は知らねぇ
」
勝手に決められちゃった…まぁ悪くない話だけど。
でも不二に無言なんて…気持ちがスッキリしないよぅ。
「譜面を見ろ、ここがタンバリンのリズムを打つ所だ」
「え。俺ホントにタンバリンなの?」
「嫌なのか?」
「そ、そうじゃないけど…」
譜面見せられたときに跡部と近くなって…そしたらふわぁっとバラの香りがした
。
コロンとか使ってるのかな…いい香り。
「おい、聞いてんのか」
「あ…ごめ…跡部、いい香りするから」
「いいだろ?フランスから取り寄せた最高級のコロンだ。…そういう菊丸も甘い
香りがするな」
俺は疑問に思った。
コロンなんてつけてないのに。
俺は首もとに跡部の顔があることに気付いた。
俺…そんな香りしないと思うけど…
「俺のコロン試すか?こっち来いよ」
跡部に誘われて、教室を出た。
奥の薄暗い空き教室は誰もいない。
なんでこんな所に来なきゃいけないの?
こわいよ…
「もっと菊丸の香りを知りたいぜ」
そう言うと跡部は俺を壁に押し付けた。
口の中に何か入ってくる…
いや!これ…!!
拒もうとしても逃げられなくて、やっと舌を抜いてくれたと思ったら今度は俺の
腰が言うこと聞かなくて…床にペタンって座っちゃった。
しかも…いけないことなのに…下半身に違和感ある。
やだよ…どうしよう…
「これでイキそうになってるのか?菊丸、お前愛情に飢えてるんだろ」
「…」
「いいぜ…俺が不二より優しくしてやる」
答えちゃいけないのに…逃げなきゃダメなのに…俺は身動きできなくて…。
どうしよう、どうしよう…!
「わっ!あっ…だ、だめ…ぇ…!!!」
「本当は駄目なんて思ってないはずだぜ。不二には黙っておくから安心しろ」
「いやっ…やぁ…!っ…だめっ…!!」
熱いっ!
こんなこと…やっちゃ…身体が言うこと聞かないよぉ…!!
「やめろ!」
「な…不二!」
「汚いね…こんな薄暗いとこ連れてきて僕の恋人を奪おうとしたんだ」
不二は開眼していた。
なんだかいつもの不二じゃないみたいで。
怖かった…。
カツカツと靴音を立てて近付いてきた不二は、俺から跡部を引っ張りあげて胸ぐ
らを掴んだ。
「人の学校に来ておいて勝手なことするんだね、跡部。いいかい、次にまた僕の
英二に触れたら…命はないと思った方がいいよ」
「フン…!そんなもの恐れる俺様に見えるのか、不二。俺は諦めたわけじゃねぇ
からな!」
跡部はこの場を立ち去った。
残された俺と不二はお互い目を見つめ合っていたけど会話がなかった。
怒られる。
だって俺…抵抗が足りなかったもん。
身体が言うこと聞かないなんて言い訳みたいなもんだって思われる。
何を怒られるって、身体が素直に反応しちゃったのが一番よくない。
俺は唇を噛んだ。
でも来たのは罵声の言葉ではなく、不二自身だった。
そっと抱き締められて背中を摩られた。
「痛かったでしょ、あんなにグイグイ壁に押し付けられて」
「え…でも…」
「無理矢理キスだってされてたじゃない…辛かったでしょ」
不二は俺が跡部に抵抗しなかったことに腹を立てたりはしないの?
それとも気付かなかったってこと?
ダメ…ちゃんと本当のこと言わなきゃ!!
「違うの不二!お、俺…身体が先に反応して動けなかったの…もちろん悪いって
思ってるし、俺は不二が一番なんだよ!!でも…!」
伝わらないよね…こんなこと言っても。
俺はただの淫乱な奴って思われるだけだ。
「よかった…ちゃんと自分から説明してくれて」
「え?」
「英二が抵抗しなかったのを僕は見ていたし知ってた。だからって英二をヤラシ
イ奴だなんて言わないよ?身体が先に反応しちゃったなら仕方ないよ。そんな身
体になったのも僕の責任でもあるわけだし」
「ふ…不二…」
「これでちゃんと説明してくれなくて誤魔化されたら追求するつもりだったけど
…正直に言ってくれたからもういいよ」
不二は俺を精一杯ぎゅっと抱き締めた。
不二はすごく優しかった。
「いじわるしてごめん。つい君が可愛いからいじめたくなるんだ…許してほしい
」
「うん…わかった」
不二と仲直りした。
今までで一番不二は優しいと思った。
音楽隊は危ないからやめようかな、なんて言ってたのに不二はあえて俺とラブラ
ブしてるとこを跡部に見せつけたいらしく、音楽隊はやめなかった。
不二も参加することになって楽しいけど…不二と跡部のやりとりには関わりたく
ないや…。
俺はタンバリンのリズムを確認するために譜面を広げた。
