綺麗なガラス細工は俺の目を輝かせた。
今までインテリアなんかに興味なんてなかったのに。

今日は不二と小物や雑貨が売られている店にやってきた。
俺達は同棲をしていてどちらも社会人になっていた。
付き合いだしたのは高校のときだったけれど、あれから何年経ったのか。
不二とは長い付き合いになっている。
そんな中、今日は珍しくお互いが仕事もオフで休みだったから、買い物でもしようかと話していたんだ。

せっかく二人で住んでいるんだし、お金も少し余裕があるからインテリアをちょっと変えてみようという話になった。
棚の上にちょうど飾れそうなガラスでできたオブジェがあって、俺は興味を引かれた。
不二が俺の興味を持っているものが何なのか気になったらしく、俺の側に来てくれた。






「へぇ、ガラス細工かぁ。英二こういうの好きなんだ?」

「うん、綺麗じゃない?赤いのとか可愛い」

「じゃあ買っていこうか?」

「いいの!?やった!!」






なんて楽しく会話しながらせっかく買ってもらって嬉しかったのに。
それなのに。

今、床に散らばっているガラスの欠片。
固いフローリングに落としたばかりに粉々に砕けてしまった。
俺は頭が真っ白になってしまってどうしたらいいのかわからなくなった。
きっと顔は真っ青になっているんだと思う。
とりあえず俺はこのままでは危ないから、砕け散ったガラスの破片を拾い集めて一つに固めておいた。
赤いガラスだったから血が落ちたみたいになっていた。
不二が見たらきっとショックを受けるにちがいない。
隠しておこう。

引き出しの中に入れておいた。
いくら砕けてしまったからとはいえ、捨てることなんてできなかった。
不二が買ってくれたものだから。













ある日二人で晩酌をしていた時、不二が痛いと声を上げた。
何が起きたかと駆け寄ると、不二の足の裏に赤い破片が刺さっていた。
俺はその破片を見てすぐに何が刺さったのかわかってしまった。
俺が処理を完全にしなかったせいで、赤いガラス細工の破片がまだ残っていたんだ。

俺はすぐに救急箱を持って、ピンセットを取り出しガラスの破片を抜いてあげた。
ちなみにこの救急箱は引っ越す際に姉ちゃんからもらったものだった。






「大丈夫?不二!一応全部取れたと思うけど」

「うん…痛かったけど大丈夫。それにしてもこの赤いの…」

「あっ!まだビール持ってきてなかったよね!今持ってくるね!!」






我ながら最低だと思う。
不二に黙ったまま、しかも話を遮ってしまった。
不二はきっと不審に思ったにちがいない。

でも不二は何も言わないで晩酌をしようと言ってくれた。



不二に申し訳なくてどうしたらいいかわからなかった。













翌週。
不二は仕事が休みで俺は仕事があった。
毎回のことだからもう慣れてると言えども一緒にいられないのはつらい。
さっさと片付けて早く家へ帰りたい。

と思っていたら今日は残業をしなくてもいいらしい!
これはラッキーだと思い、俺は喜んで家に帰った。
早く不二に会いたい。






「ただいま!」

「…おかえり、英二。お風呂沸いてるよ、あとご飯も作ってあるよ。どっちにする?それとも…」

「不二にする!!」






不二が仰け反って倒れちゃうくらいの勢いで俺は飛び付いた。
不二からは俺の大好きなホワイトジャスミンの香りがする。
不二が気に入っていた香水だったから俺が買ってあげたものだ。






「ふふっ、英二。僕もそうしたいけどその前に見て欲しいものがあるんだ」

「見て欲しいもの?」






俺が不二に案内されてたどり着いた場所は、元々あの赤いガラス細工が飾ってあった棚のある部屋だった。
もう既に割ってしまってガラス細工はなかったはずなのに…そこには確かにあの赤いガラス細工が置かれていた。
まさか…俺は不二を見た。






「英二、困ってたんでしょ?僕に言い出せずにいたんだよね」

「不二…知ってたの?!」

「足に刺さったときからね。そういえばあの赤いガラス細工がないなぁと思って、引き出し見たら砕けてたからさ。だから新しいのを買ってきたんだよ」

「不二…いいの?」

「あぁ。英二が気に入っていたものだろう?だからいいんだよ…だけど英二。僕は怒らないし、英二を責めたりなんてしない。だから今度からはちゃんと僕に教えて。ね?」

「不二ぃ…」






俺は半分泣いてた思う。
不二が優しくて嬉しかった。

不二はもう割ることがないように下に置いておこうと言った。
俺は頷いて赤いガラス細工を下に置いた。






「さて、英二に伝えたいことも言ったしこれからどうしようかな?」

「…不二がいい!」

「ふふっ…じゃ、こっちへおいで」