今の関係を壊したくない思いから、僕は本当の気持ちを伝えられない。
仲間とか友達とか…そういう関係ならいつでも遊べる。
でも…もし思いを伝えたとして向こうから断られたりしたら、たぶん僕はもう学
校には来れない。
だからこのままでいい。
「不二〜!今日何処か行かない?」
「いいね、何処に行こうか」
「ん〜!じゃあカラオケ!!他にも誰か誘おうよ」
二人がいいなんて言えない。
でも本当なら二人がよかった。
いや、カラオケだったら大人数で行った方がいいか。
英二は少人数より、大人数で行く方が好きだから。
僕だけ、なんてことはできないや。
声を掛けて集まったのは三人。
タカさんと桃と越前だった。
五人でカラオケ。
悪いなんて言わないけど、確実に英二と離れてしまう。
タカさんは僕と話して、桃と越前は英二としゃべってる。
やっぱり僕は片想いから脱出することはないのかもしれない。
ずっとこのまま…
結局英二とはほとんど話せなかった。
帰りに近くのファミレスに行った。
席は隣になった。
ちょっと嬉しかった。
「不二は何頼むの〜?俺はね〜」
「ふわふわオムライス?」
「お〜っ!俺の好物知ってんじゃぁん!不二ってばすごぉい!!」
「英二はよく僕に言うじゃない、“購買でオムライスとエビフライとかき氷買っ
てきて〜!!”って」
「へぇー英二先輩って強者っすね〜!不二先輩をパシリに使おうだなんて」
俺は不二のことパシリだなんて思ってないもん!って英二は言った。
じゃあ僕のことはどう思ってるのかなぁ…。
楽しかった時間はあっという間に終わる。
現地解散になって皆と別れた。
「ねぇ!まだ家帰らなくても大丈夫?」
「え…?うん」
「じゃあさ!ちょっと俺と寄り道〜♪行こ行こ!」
突然の寄り道の誘い。
びっくりした。
なんで僕なんだろう。
綺麗な星空の下、僕は心拍数が終始乱れていた。
こんなにドキドキしたのは初めてかもしれない。
僕がこんな思いで君を見ているなんてきっと気付いていないんだろう。
「黙っちゃってどうしたのさ?元気ないよ〜…しかも顔赤いし」
「え?い、いや…僕は元気だよ」
悟られたくないから必死に誤魔化す。
僕としたことが…いつもの自分らしくない。
今、二人っきりになっているせいもあると思うけど普通に接することができない
でいる。
ダメだ、ダメだ…いつもの僕に戻らなきゃ…!
どうしてこんなに余裕がないんだろう。
自分でも信じられなかった。
クラスで一緒なのに…もちろんその時だってドキドキはしていたけれど…あの時
とは違って、今は───
「不二!ここ来て〜!」
着いた先は公園だった。
英二は滑り台のてっぺんで僕に手を振る。
僕は英二のいる場所に行った。
「こっち向いて、不二」
「え…」
振り向くと唇に柔らかいものを感じた。
マシュマロのような甘い感触、とろけそうな味…僕は英二に…
「…っ…ふぅ…」
「え…えい…じ…?」
「ごめ…んね……イヤだった?」
「う、ううん!違う…嫌なんかじゃない。すごく…すごく嬉しかった」
嫌なわけないじゃない。
突然だったから戸惑っただけだし…英二は、英二は…僕を好いていてくれたのか
わからないし…。
「俺…不二が好き。もちろん俺が一方的な思いだってことはわかってるけど…そ
れでもいいから伝えたくて」
英二が好き?僕を?
信じられない…そんな…そんなことあるわけ…
「あ、俺の独り言だから気にしないで!えへへ…キスとか気持ち悪いことしちゃ
ってごめん…わ、忘れていいから」
「僕も好きだよ!!」
「え?」
「僕はずっと君を友達として接することができずにいた…だから…」
「不二…」
運命の歯車が動いた気がした。
僕は英二を抱き締めた。
精一杯の勇気を振り絞って。
「僕と付き合って…」
「う…うん///」
気持ちが通じ合った今日のことは絶対に忘れない。
僕は深く心に刻んだ。
