ゆっくりと花びらが舞う…とても綺麗な場所。
ここが桜を見る名所の公園だ。
新社会人として入社した僕は早速花見のための場所取りを命じられた。
命じられたからにはやらざるをえない。
新人だから仕方ないと思いつつ、朝方の5時から…さすがに眠くて目が開かなかった。
でも周囲を見渡せば僕のような新人は沢山いて、皆苦労をしているんだと知った。
だから負けるわけにはいかない。
一番花が見られる良い場所へ…!!













なんとか場所は取れた。
小学生から鍛えられた脚力で走ったから速かった。

しかしここからが困るんだ。
花見会が始まるまではまだ時間がたっぷりある。
これから始まるまで何をしていればいいのだろう…。


ふと横を見ると僕と同じように花見のための場所取りをしている新人がいた。
それはどこかで見たことのある男の人…いや、あれは───






英二?!
英二だ!!!
そうだ、間違いない。
英二がいた。
英二もまた、花見の場所取りをしていたんだ。

中学のときと変わっておらず、やや赤みがかったはねた髪は今も健在だ。
周りを気にしているのか、きょろきょろしている。
目が合えば手を振ろうとした。
でも合わない。
直接行こうか。
そうだ、そうしよう。
僕は花見の場所から離れて英二のところに向かった。






「英二!」

「ふぇ…?あっ…不二?!」

「久しぶりじゃない!こんなところで会うなんて!」






英二に会えたのは奇跡だと思った。
というのも、今日なんて平日のど真ん中だしこの時間からいるかどうかなんてわからない。
偶然に偶然が重なったんだと思った。






「不二は今何してるの?…営業マン?そっか〜俺はスーパーの社員!」






お互い大学も違えば就職もどこでしたのかなんて知らなかった。
本当に久しぶりだったから今までの過程を話し込んでいた。
話をしていると時間はあっという間に過ぎてしまい、英二の所の社員さんが集まってきた。







「そろそろ行かなきゃだね、僕。また話したいね、英二」

「うん…今度ね!あっ、メールもするね!」






部外者は戻らないと。
あっ!そういえば…僕のところ誰もいない!!
場所大丈夫かな…。

見てみると既に知らない、違う人々が場所を取っていた。
敷いておいたシートは風に飛んで木の幹にひっかかっていた。
その光景を見て僕は一瞬にして青ざめた。
これはとてもまずい状況なんじゃないか、と。
すると、僕の肩をトンっと叩く感触。
振り替えれば課長が満面の笑みで僕を見ている。







「我々はどこで花見をするのかね?」






終わった。
新人ながら場所取りという役目さえこなせないんだと気付いたとき、僕は言葉を発することができなかった。
そのとき…






「お〜い不二〜!お前も一緒に来いよ!会社の人も皆でさ〜」

「英二!でも…」






戸惑ったがここで英二に甘えなくては花見ができなくなってしまう。
申し訳なさすぎたが僕には甘えるほか考えが及ばなかった。













「英二のおかげで一命をとりとめたよ…本当にクビになるんじゃないかって思った」

「不二さ、最初から俺達の横に場所取ればよかったんだよ。そしたら一緒に広く花見できたのに」

「本当にごめん…狭くなったのも僕のせいだし…英二に…なんて言ったらわからないけど…もう申し訳なさすぎて…」

「大丈夫!そっちの会社とまだ取り引きの関係があったからまだよかったし!だからもうクヨクヨしちゃだめだって!!ほら不二、飲みなよ!今日は無礼講だってさ」






英二は優しすぎる。
優しさが心に染みて涙が出そうになった。






















「ね、不二みて。花びらが夜の空に舞ってキレーだよ…不二?」

「…すぅ…すぅ…」

「不二ってばかわい〜!ちゅーしちゃうぞ?」








頬に何か感触を感じた。
でもよくわからなくて花びらが顔の上に乗ったんだろうと思った。

朝から今日は疲れてしまったけどいい一日だと思いながら、僕は英二とおしゃべりをしている夢を見ていた。