「もうすぐ春です!ということで皆さんに春休みの作文を書いてもらいましたね。では皆さんに作文を発表してもらいます!ふじくんの作文発表です。みなさん、拍手!」
パチパチパチパチ…
「ニねん一くみ、ふじしゅうすけ。はるやすみのおもいで。はるやすみはどうしてこんなにみじかいのかわかりません。もっとながければいいのにとおもいました。それでもせっかくのおやすみなのでどこかにつれていってくれると、おとうさんとおかあさんがいってくれたので、にちようびにおねえちゃんとおとうともつれて五人でみずうみにいきました。さかなつりをしたり、花をつんだり、おっかけっこをしたりしてたのしかったです。またみんなであそびにいけたらいいのにとおもいました…」
「はい!上手く発表できましたね。では次は…」
ふと目が覚めた。
僕は久しぶりに小学二年の頃の夢を見ていた。
春休みについての作文を課題として出されていたんだ。
僕は正直、春休みなんて短いのに何を書けばいいのか全くわからなかった。
書くことがないと何も書けない、だとか、やや意味不明な理由で親に泣きつき、家族全員で出掛けてもらった記憶がある。
だけどあのときはもう一つ出来事があったんだ。
だからまだあれで作文が終わったわけじゃなかった。
それなのに担任の先生はもう次の子に当てて、僕は全部読めなかった。
別に全文読みたかったわけじゃない。
むしろ読みたくなんてなかったからさっさと終えてくれてよかった。
あの作文には続きがあったわけだけど、今思い出そうとしてるのに思い出せない。
僕は何を書いたんだっけ。
おもむろに机の引き出しを開け、当時の作文を探した。
まだあるのかどうかもわからない。
もう捨ててしまっている可能性もある。
でもあの作文の続きがどうしても気になって僕は躍起になって探した。
引き出しにはなかったが、もう一つ思い当たるところがあった。
それは棚に入ったプリントケース。
今まで書き残した書類系は皆ここにしまっているはずだ。
ここにあればいいんだけど…ひたすらプリントをめくり、原稿用紙らしきものはないか探した。
あ…あった!
あった…これだ!
そう、タイトルは“はるやすみのおもいで”。
間違いない。
早速僕は最初から読み始めた。
最初はやはり皆の前で発表したのと同じ…夢のままだ。
湖に行って楽しかったと書いてあって…またみんなで遊びに行けたらいいのにと書いてあって…ここからだ。
『日がしずんでゆうがたになると、さっきまでだれもいなかったはずの木のかげにだれかがいました。ぼくは一人でその木のかげにいきました。するとおとこの人とおんなの人がはだかになっていました。どっちもつらそうなかおをしていたけどたのしそうでした。ぼくにはなにをしているのかわからなかったけど、二人のじゃまをしてはいけないとおもって、もとのばしょにもどろうとしました』
読んで僕は赤面した。
こんな文章自分で書いた記憶が全くなかった。
だから先生は途中から読ませなかったんだ。
全員読まなくてはいけなかったから僕だけ読ませないわけにもいかなかった。
…やっと理由がわかった。
しかし、まだ作文は終わらない。
あんまし読みたい気分ではなかったけど、続きを読んだ。
『もとのばしょにもどろうとしたのにみちがわからなくなりました。こまっていたらいきなりだれかとぶつかりました。おとこの子でした。赤いかみでくるりんとしたふわふわのあたまはかわっていてびっくりしました。でもすごくかわいくておんなの子かとおもいました』
この子…そう、今だから思うけど英二じゃないのかなと思った。
似ていたんだ…あの髪型。
だから英二と中学で会ったとき…聞いてみたんだ。
僕達会ったの初めてじゃないよねって。
でも英二は会った覚えはないって…英二じゃなかったのかな…。
『おとこの子はとてもやさしくてみちをおしえてくれました。おとこの子はこのちかくにすんでいるのでみちにくわしいといっていました。ぼくはその子といっしょにあるいていたとき、さっきの木のかげにいた人たちのはなしをしました。するとそれはおとなになるとできる、たのしいことらしいとききました。ぼくもしてみたいといったらいまはできないよといわれました。きせつがはるだとやる人がおおいということもききました。もうすぐはるになる。だからするんだよといわれました』
何故またさっきの話をむし返したんだろう。
読んでいて顔全体から火を吹きそうになった。
こんなことを作文にしていたなんて…さぞや先生は困ったはずだ。
大体ぼくもしてみたいって爆弾発言じゃないか。
はぁ…とため息が出た。
だけどこの男の子はやっぱり英二のような気がする。
今度このエピソードを英二に話してみよう。
いや…このまま話すと恥ずかしいからある程度は伏せておくことにして…。
作文の最後は一文で締められていた。
『ぼくもおとなになったら、はだかのつきあいができる人とあいたいです』
