「では皆さん、Repeat after me.hemisphere.」

「「hemisphere.」」






英語の授業で単語のアクセントを学んでいたときだった。
隣の席の不二が手紙を渡してきた。
小さく折り畳まれた紙。
広げて読むと俺は思わず噴き出してしまった。






「菊丸〜!!!何が面白いんだぁ!!!!!なんだ!?手紙か?!授業中にコソコソ手紙のやりとりなんてするなぁ!!」






先生は俺から手紙を奪い、何が書いてあるのか読み始めた。
先生は酷く顔を真っ赤にした。
手紙には“先生のズボンのチャックが開いている”と書いてあったからだ。

噴き出した俺と、手紙を渡した不二に罰として先生は宿題を出した。
それは一万語の単語を紙に書き写すという酷なものだった。






「俺達はさ、親切に教えてあげたようなものだよ!?なんであんな怒られなきゃいけないのさ」

「英二を巻き込んで申し訳なかったよ。怒られなきゃいけないのは僕だけで十分なはずさ」

「不二は悪くない!先生が悪い!」






教室に残って二人で放課後に宿題をこなしていた。
今日から学習強化週間、つまりテスト2週間前ってことで部活はみんな休みなんだ。
それでも俺達はコートに出て軽く打っていったりするのが習慣だったけれど、宿題の量がハンパなくて今からやらないと終わらない。
こんなことするくらいなら別の勉強がしたいのに。






「あーもう疲れたぁ!ちょい休憩!」

「まだ英二100語しか書いてないじゃない。これじゃ終わらないよ?」

「う〜…手が痛いんだもん…」

「じゃあ少しだけね」






不二は俺に対してかなり優しい。
もちろん俺の思い違いなのかもしれない。
不二は誰に対しても優しいから。
でもなんだか俺のときは特別な感じがする。
気のせいかも。






「…英二?」

「えっ?」

「さっきから呼んでるのに上の空だから…大丈夫?」

「ご…ごめ…不二」

「ん、いいよ。それでね、頭使うとお腹空くから購買行って何か買おうかなって…」

「ハンバーガー!」

「え?」

「ハンバーガー屋さん行きたい!不二とあんまり行ったことないから!あんまりってか1回もない気がする!」






不二はじゃあそうしよう、と言ってくれた。
ハンバーガー屋なら座席で勉強できるし、音楽もかかっていて眠くならないだろうからって。
わぁい、不二と二人でハンバーガー屋なんて初めてだ!

…でもなんでこんなに俺テンション高いんだろ?
ハンバーガー屋なら桃やおチビとよく行くのに。






学校を出てハンバーガー屋へ向かう。
俺が注文をしようとしたら不二が奢ってあげるって言ってくれた。
悪いよ、って言ったけど英二はいつも後輩に奢ってあげてて面倒見がいいから今日は僕に甘えて、って言ってくれた。

すごく嬉しかった。






「はい、英二」

「へ?俺コーラなんて頼んでないよ?」

「僕からのプレゼント。安いプレゼントでごめんね」

「え〜!いいの?いいの?」

「いいよ」






不二がすごく俺に対して優しかった。
こんなにしてもらってばかりでいいのかなって思った。

不二は海老バーガーを包み紙から出すと一口食べた。
綺麗且つ丁寧に食べるからつい見惚れてしまった。
不二がバーガーって似合わないと内心思ってたけど、すごく綺麗。
じっと見てたら不二と目が合った。






「英二…?」

「いっ、いや、なんでもないよぉ?」






慌てたら声が裏返った。
俺のバカ!
変な奴だって思われちゃう。
気をとりなおして別の話題を振る。

ハンバーガーのパンって食べてると上と下がずれるよね、とどうでもいい話をしてしまった。
何故か不二との会話に緊張してしまう。
いつも通り話したいのに。

でもいつもってテニスの話しかしなかった。
だから何か話すのに困惑してしまう。






「上と下のパンをくつけて一つの球体だとする。半分に割れたらそれらは半球になる」

「え?うん」

「半球は英二、英語で何と言う?」

「んと…ヘミソア?」

「おしい。ヘミソフィア。こうしてやれば英単語なんて簡単に覚えられる。食べ終わったら宿題やろうね」






俺の目の前には紙にカリカリと単語を書き綴っている不二がいて、その不二がまたとても綺麗で、かっこよくて、俺の心臓はどうかなりそうだった。

英単語を書く準備をしながら、俺は不二に見惚れたまま手が止まっていた。


これが恋なんだと気付くのはまだ先の話。