この苦しみから解放されたい。
どうして楽しいと思えなくなったのか…今でもわからない。
最初はなじんでいたはずなのに気が付いたら周りに誰もいなくなってて。
僕には口もあれば声帯だってあるのに…開いた口から出てきたのは人を傷付ける
言葉ばかり。
そんなつもりがあったわけじゃないのに話していた相手は表情を変え、僕に激怒
し去っていった。
これは男も女も関係なしで…人は僕のことを嫌いと言う。
築き上げてきた人間関係も破壊され、何もかも捨てたいと思った。
そんなときにふと思いついたのは…
闇オークションの購入画面で手ブレなしの使い勝手のよい銃を見つけた。
これならあっという間に死の世界へと旅立つことができる。
僕は銃を購入することにした。
届くまではただ待つばかり。
もう家に引きこもりたい気持ちでいっぱいだったけれど学校に行かなくてはダメ
だと家族に言われ、行き場のない僕は街をただぶらつく。
つまらない───楽しさなんて見い出す方が愚かだったかもしれない。
この世に何かを求めちゃいけなかったんだ。
裏路地に行くと小さな犬が僕になついてきた。
僕が好きなのかい?
人間に嫌われても犬は僕を見捨てないのか…
すごく嬉しかった。
そのとき、携帯が鳴り出す。
親からだった。
僕が学校に来ていないのでどうしたのかと担任が電話してきたらしい。
親には何も言わずに電話を切った。
もうなんでもいい。
人生など捨てたも同然。
生きる希望を持っている人間の話なんて聞いていられない。
街は夜になり、ネオンライトが眩しく光っていた。
快楽を得るための場所は昼間とは比べものにならないくらい雰囲気が違った。
元の顔がわからないぐらい厚い化粧をした女や、サングラスをかけ刺青の入った
腕を晒した男が歩いている。
こんな場所を歩くのは今日が初めてなわけじゃない。
だから目に映るものが見慣れた光景なのは確かなのに…僕の知っている人物がふ
と視界に入った。
あれは…英二?
「英二!英二…だよね?」
「んー…あれ不二じゃん、久しぶりだね」
僕らは中学の同級生だった。
高校に進学してからお互い別々の学校に行ってしまってから皆無と言っていいほ
ど連絡を取っていなかった。
「どうして英二はこんな所で歩いているの?」
「それは…言いたくないな〜…だって人にはいろいろ理由ってもんがあるじゃん
?」
英二は酒臭かった。
言葉がおぼつかないのもそのせいだろう。
足もふらついていたからとりあえずベンチに座らせた。
何があったのかわからないけれど…きっと英二も僕に近い気持ちなんじゃないか
と思った。
首を見ると淫らな跡が沢山ついていた。
ポケットから財布がはみ出ていたけど中身は空っぽだった。
「英二…このままじゃ寝ちゃいそうだし何処かに行かない?…お金なら僕、ちょ
っとあるしホテル行こうよ」
「えー…ホテルなんて今日3回も行ったよ〜…もう俺身体限界だし…」
「そうじゃなくて本当に休むために行くの。…僕に掴まって」
僕は英二を連れてホテルに向かった。
部屋はできるだけ地味な所を選んだ。
ドアを開けて英二をベッドに寝かせた。
だけど英二は僕にまとわりついてきた。
きっと今日一日、こんな遊びをして過ごしたんだろう。
と思うと胸が痛む。
自分の知っている人が落ちぶれて行くのを見るなんて…と言ったところで僕も同
じなのだろうけど。
「ねぇ…もうやめたいや」
「え?…何を?」
「…やっぱなんでもない!」
その後は何を聞いても終始無言のままだった。
すやすやと赤ん坊のように寝てしまった君の頭を撫でて僕も眠りにつく。
このまま永遠に目が覚めなきゃいいのに。
目が覚めると部屋は僕一人だった。
英二がいない。
テーブルを見ると一枚の紙切れが置いてあった。
“学校”
ただこれだけしか書いていなかった。
恐らく英二と僕が知っている共通の学校と言えば…中学校しかない。
僕は中学校へと向かった。
向かう途中で約束していた引き取り場所へ行き、ある男と出会い、物を入手した
。
例の闇サイトで注文した銃がこのケースに入っている。
僕の全財産を男に渡し、その場を後にした。
普通の高校生じゃ有り得ない金額を持っているのもいかがわしいバイトをしたか
らだ。
「…英二」
彼は校舎の屋上にいた。
不審な事件が多いこんな世の中で、簡単に屋上まで来れるなんて…。
「一緒に飛ぼうよ」
「フフッ…飛び降りるの?ここから?だったらもっといい方法があるのに」
ドラマか映画でしか見ないような例の物を見せると英二は驚いた。
いいよ、弾はいくらでもあるし…万が一外してももう一度撃てばいいだけ。
見本を見せるように僕は引き金を引いて、頭を撃ち抜いた。
