神様は僕に味方してくれた。
これは必然と偶然の出来事だと思う。
だけど僕の力だけじゃ叶わなかった恋だと思う。
僕が英二を好きになって半年が経つ。
もちろんそう簡単に思いなんて伝えられるわけないし、ましてや部活仲間の、同
性のクラスメートじゃ告白なんて無理だ。
だから僕は英二の前で感情が高ぶらないように抑制していた。
それでも、英二のひとつひとつの動作を見る度に心を奪われてしまい、下半身に
異変が起きてトイレに駆け込むという状況を繰り返している。
こんな自分が情けなかった。
変な気を起こさないように極力二人きりにはならないようにしていたのに、たま
たま授業が長引いて部活に遅刻してしまったことが原因で、二人だけで部室の清
掃をさせられた。
僕自身嬉しい反面、誰もいない所で英二と二人きりになるのは怖かった。
自分が何をし出すかわからないからだ。
「も〜俺達が悪いわけじゃないのに…ひどいよね!」
僕は頷いた。
英二の言う通りだ。
先生が時間の計算を誤ったために通常より10分も遅れたのが原因だった。
だから本来清掃をすべきなのは先生だ、と言ったら英二は笑った。
「言うねぇ、不二!ま、本当のことだけどねん」
「でしょ?また遅くなりそうなら部活あるからって言って抜け出すよ」
それでも先週清掃をしたばかりだったせいか部室はそこまで汚れてはいなかった
。
一刻も早く清掃を終えて、この密室から逃げ出したい。
このままじゃ僕の抑制心が持たない。
「隅とかちょっとホコリ残ってるけどいいよね〜」
「うん。もう行こうか」
「あ、待ってー。ついでに着替えたい」
英二は汗ばんだポロシャツを脱いだ。
僕はまさかこの状況で着替え始めるなんて思っていなかったから、すぐに目線を
窓の方にやった。
僕の行動がおかしいと思ったのか英二がこちらを見るなり言った。
「不二ってさ、俺のこと嫌いなの?」
「なんで?!そんな風に見える?」
意外な質問に僕は驚きを隠せなかった。
わざと二人きりにならないようにしていたはずが英二に逆の思いを伝えていたな
んて。
僕はすぐ否定した。
英二は気のせいならいいんだけど、と続けて僕に言った。
「言いたいことあるならさ…言っちゃった方がいいよ?」
「うん…」
残念だけどそれには応じられなかった。
素直に僕の気持ちを言った場合、英二がどんな反応をするかすぐにわかるからだ
。
僕の気持ちに応えることなど英二はできない。
そう言い切れるのも理由がある。
英二はモデルやアイドルの写真が載ってる雑誌を見つけてきては部室で話してき
た。
英二は女の子が好きなんだ。
それなのに僕が言いたいことを言う?
そんなことしたら困るのは英二だよ、と心の中で呟いた。
「不二さぁ」
「なに?」
「好きな人とかいるんじゃないの?例えば…」
英二は自分で自分を指差した。
何が言いたいのかよくわからなかった。
「え?どういう…」
「だーかーらぁ…不二は俺のこと好きじゃないの?」
時が止まったんじゃないかと思った。
僕の胸の内を読み取るかのごとく、僕の本心を突いてきたからだ。
さっきは嫌いかと聞いて今度は好きなんでしょとか…
だけど全身から滝のような汗を出してしまい、嘘なんてつけられる状態ではなか
った。
僕は本当のことを率直に述べた。
これで英二からは気持ち悪いと言われ、話しかけられることもなくなるだろう。
真実を見破るのが早すぎるよ、英二。
「やっぱそうなんじゃん!なんでもっと早く言ってくんないの?!待っててもな
かなか言わないから…焦れったいよ!」
「英二に嫌われたくないからだよ!君は…雑誌の女の子を嬉しそうに眺めていた
じゃないか」
逆ギレしてしまった。
僕は何がしたいんだ。
男として当然のことを英二はやったまでだ。
そんな英二に思わずキレた自分を恥ずかしく思った。
「わかってないな〜。あれはカモフラだよ!大石にその気があるように見えるっ
て言われちゃったから隠すためにやったこと!女の子なんて最初から興味ないっ
ての!」
ってことは英二も僕と同じ?
まさかと思ったけど英二が嘘を言ってるとは思えない。
僕がぼぅっとしている間に英二は上半身は脱いだまま、部室の内鍵をかけた。
「俺…まだ不二の口から聞いてないんだけど?」
「あ…英二…えっと…」
「聞こえないんだけどー?」
「えっと…す…好き…だよ」
時間をくれれば、告白すると予め決めていれば、なんてことない言葉なのに言う
のに時間がかかってしまった。
なんだか情けない。
バシッと男らしく決めてみたかった。
「余裕のない不二って新鮮〜!俺しか知らない不二だ!」
「そうかもね。じゃあ今度はさ…」
「え?」
余裕のない自分を見せてしまったなら今度は英二の余裕をなくしたい。
僕は英二の身体にそっと触れた。
「ふ…不二?」
「今度は英二の余裕なくさせてあげる…覚悟してね」
誰も入れない部室。
今からここは僕らの世界になる。
英二に思いを伝えられたのは必然であり、偶然でもあった。
だけどきっかけを作ってくれたのが英二だと言うことを忘れてはいけない。
僕は英二を優しく抱いた。
