愛する人を幸せにしたい。
そう思っていたけど僕には出来ないみたいだ。
付き合い始めてあんなに英二の喜ぶ顔が見たいと思っていたのに…今は歪んだ愛 情しか持てなかった。









英二が泣きわめくまで痛めつけた。
次は英二が嫌がるまで舐め回すようなキスをした。
次は…















英二は九州へ転勤になり、僕の元を離れた。
最初は一緒の職場だった。
英二は僕に耐えられなくなって自ら九州に行く意思を示したんだと思う。
それならいっそ別れた方がいいのにと思った。
僕がそう言うのはおかしいけど結局英二は僕に何も言わず出ていった。

同姓していたのに。
この部屋で一緒に暮らしていたのに。


僕自身、人には見せられない特殊な趣味を持っていた。
英二が納得なんてするとは思わなかったから黙っていたのに、ケースに入ってい たのがバレてしまい英二に説明することになってしまった。
正直に話すのは恥ずかしかったけど英二は嫌がらなかった。
それどころか英二は使ってみたいとまで言った。

僕の前で一人でしてみせて、と軽く説明してやらせてみた。
官能的に美しく乱れた英二は僕の我慢という壁を壊し、肉体を求め合った。

それからというもの、僕は違和感を感じた。
やたら英二が開花していくことに不自然さを覚えた。
いくら毎晩僕に抱かれているからってこんなにも上達するだろうか。
なんとかって言うお店の女みたいで見ていて段々苛立ってきた。
僕に対する扱いも客に扱うような感じ。
何か変だと思い、残業があると言った日の英二をつけてみた。

すぐにわかった。
英二には女がいた。
キャバだった。
常連客のような扱いを受けている英二は満面の笑みだ。
あの笑顔に騙されていたのかと思うと僕は腹立たしかった。


それから僕は英二を痛めつけ始めた。







別れる、という決断はなかった。
きっとまだ英二のことが好きだからだと思う。
だからといって英二を許すことは出来なかった。
寝る時間を与えずセックスばかりを求めることで、涙を流す英二を見た僕は快楽 を得た。
僕は最低な人間だ。
でも英二は僕のものだ。
誰にも邪魔なんかさせない。













英二がいなくなり寂しくなった。
散々酷いことをしたくせに僕はなんて身勝手なんだろうと思う。

僕はジョウチョフアンテイなのか。
いや、恋人として怒るのは当然だと僕は思いたい。

いてもたってもいられなくなり、僕は九州行きのチケットをとった。







英二は一応僕に住所を教えていた。
それが今僕の左手に握られたメモに書かれている。
人に聞きながらで大変ではあったけど、なんとか英二の住んでいるアパートにつ いた。
お世辞にもあまりいいとは言えないボロアパートだった。

玄関のベルを鳴らす。
ちゃんと鳴るのかさえ疑問だったが中からドタドタと音が聞こえてきたので、ベ ルは役割をしっかり果たしているらしい。







「不二…」

「入るよ」

「…うん」







英二は脅えていた。
まさか僕が来るとは思わなかったんだろう。
ずっと会話をしないまま一時間が経った。







「ねぇ」

「え…うん…なに…?」

「あのキャバとはまだ付き合ってるの」

「キャバ?付き合う?だれ…」







知らないと思ってとぼけるの。
いい加減にしろ…

僕は英二を床に押し倒した。
でも英二は抵抗しなかった。
やめて、と泣きわめくのが見たかったのに…僕は押さえ付けていた手を緩めた。







「どういうこと…僕、見たんだよ。英二が女と話してるの。付き合ってんでしょ 」

「違う…それは…」







英二は同僚に無理矢理店を連れていかれたと言った。
すぐに店から出るつもりだったけど、相談があるなら話してみてと女に言われて 話したのだと言う。
その内容を聞いて愕然とした。








「だってぇ…不二…俺のこと…下手って…」

「それは冗談だって…まさか…本気にして」
「当たり前じゃんか!そりゃ不二はテクがすごくて…勉強してるんだって思って …だから…俺も勉強しなきゃって」







英二は泣いてしまった。
僕は酷いことばかり英二にしていたんだな。
最低、クズだ。







「ごめん…僕のやってたこと全部悪かった」

「いいよ…でもあの人、男同士はよくわかんないって俺から離れちゃったからあ んまし相談にならなかった。だからビデオ貸してもらった」

「は?!!!!」







なんだその展開。
しかもゴソゴソと紙袋を探して取り出したのはいかにも筋肉・筋肉・筋肉…しか ないような汗臭い男二人もしくは三人が表紙のビデオだった。
僕は参った。







「英二…」

「うん…実は全部見てなくて。見終わったら捨てていいって」

「捨てなさい!」







肩の力が抜けた。
でも僕の不安はなくなった。
些細な一言が英二を困らせたのだと思った。
僕は余計なことは言わないようにしようと心に決めた。