俺達には自覚がなかったけれど、相当噂になっているらしい。
という情報を乾が仕入れてきた。

俺が不二とデキているという話。
いつからこんな話が出たのだろう。
わりと話題になっていたらしいけれど、俺は全く知らなかったし、不二だって当然知らなかったわけだ。

噂どおり俺達は付き合っているけれど、周囲の人間にからかわれるのが嫌だったから、あえて隠して友人らしい関係をわざわざ表に出していたのに。
いつの日かデートをしていたときを見られたのかもしれない。

まだ噂は噂であって、誰かが確信ついたようなことをほのめかす奴は現れないけれど、そんな日がいつか来るのかと思うと気が気でなかった。

不二に至っては女の子からの告白がほぼ毎日あり、それを一つ一つ断っては「菊丸くんとデキてるから私をフるんだ」などと言われ、精神が参っていたのだ。
苦しむ不二を見たくないから、どうにか不二を守ってあげたいと思った。
しかし俺の小さな脳ミソでは何も思い付かなくて。
何かいい考えはないだろうか。













「英二が僕になる?どういうこと?」

「不二がつらいのを俺は見たくないわけ。かといって俺がそのまま行けばまたデキてるからとか言われてややこしいことになるでしょ?だから俺が不二の影武者になって断ってあげる!」

「何言ってるの。すぐバレるって。大体告白が嫌だからって英二に代行してもらおうなんて英二に迷惑かけちゃうじゃない」

「だってほぼ毎日だよ!?不二だって疲れちゃうし。じゃあいっそのこと女の子から呼び出されても行かなきゃいいよ!」

「それだと今度は相手に悪いだろ?断って何を言われても、やっぱり相手のことも考えてあげなきゃ。ね?」

「そんないい人ぶってるから不二は疲れちゃうんだよ!俺にまかせろ。なんとかしてやる」






優しすぎも問題があるなぁ。
いい奴すぎだから女が寄ってたかってくるんだ。
それでいて酷い言われようなんだからもっと冷たくしてもいいのに、なんて思いながらも俺はこんな優しい不二が好きだ。
安心しろ!なんとかしてやるからな!






なんて大口を叩いたけれど、いざ不二になりきるってどうすればいいんだ?
身長はそれほど差があるわけではないからいいとして、まず絆創膏を取らなきゃいけないし…
あと髪はストレートの茶色の…そうだ、おお姉ちゃんにウィッグ借りればいいな。
確か持ってたはず。






準備して鏡の前に立ってみる。
不二かと聞かれたら不二っぽいかもしれない。
でもやはり違う人物がフリをしているだけ、といった方が正しいかもしれない。
こんなことしてバレる方が恥ずかしいけれど、なんとか前髪で目元を隠して俯き加減で話せばわりと不二に見えるんじゃないか。

と勝手に自己解決。
問題ないさ、大丈夫!
…たぶん。






翌日。
やっぱり今日も不二の靴箱には手紙2通が入っていた。
1通はアドレスが書いてあるだけで、下の方に「よかったらメール友達になってくれませんか」と書いてあった。






「アドレスだけ書いて友達になれたらスゴイよな」

「こういうの…一番困るんだよね。返事したくてもメールしかできないし、僕のアドレスが相手に送られると今度は頻繁にメールが来るからさ…仕方ないけど廃棄だな」

「全部…捨てちゃえばいいのに…」

「ん?何?」

「ん…なんでもない!じゃあさ、もう1通の方さ、俺が行くね!」

「本当に大丈夫?無理してるでしょ?英二まで巻き込みたくないから…」

「いいよ!俺にまかせてちょ!巻き込んでくれた方が嬉しいから」






手紙に書いてあった場所、用具室に向かう。
でもその前に不二になるための変装道具を持ち、トイレでお着替え。

俺は今から君の影になる!なんてカッコいいことを言ってみたり。

見事不二になりきれた?俺は用具室へ。

そこには女の子二人がいた。
一人は手紙の差出人、もう一人はその友達だった。






「不二くん遅い!早く来てよ」

「(早速文句かよ、これじゃ不二だって嫌気が差すよな)うん、で、用件は何かな」






わざと不二みたいなやや低い声を出す。
でも女の子達は怪訝な顔をしていた。
やっぱりバレるか。
変装も完璧じゃないもん。






「絆創膏の跡…あなた菊丸くんでしょ。何カツラなんかつけてんのよ」

「あ、やっぱバレちった?うんうん、なんで俺がこんなことしてるかわかる?不二が嫌がってんの知らないで呼び出してる頭のわるーい人達のために俺が代わって…」

「頭悪いとか、どっちがだよって話。やっぱ付き合ってんじゃん、もう行こA子。こんな気持ち悪い人達付き合ってらんないって」

「おま…っ…気持ち悪いってどういうことだよ!」

「あんた達まだ隠す気?皆知ってんのよ、不二くんと菊丸くんが付き合ってるの。男同士でよくやるわ。私帰るから…A子、後は勝手にして」

「ま、待ってよB子!あっ…私は菊丸くん達を気持ち悪いなんて思わないけど…でも……」






「…でも、何かな?」






「ふ、不二!?なんで来たの!?」

「うん、英二が僕の影武者になって断るって言ってくれたけれど難しいんじゃないかなってね。でもいい機会だから証明するよ」






不二は何を考えたか、突然俺に深いキスをした。
濃厚で、密着して、酸素不足になるような熱いキス。
びっくりしたのは俺だけじゃなくて女の子もみたいだけど。

気付けば用具室に不二の格好をした俺と不二の二人だけ。
不二に抗議しようと思ったけれど案外正直に言ってよかったのかもしれない。






「ご苦労様、僕の影武者さん」

「ご苦労様、って…なんかこんな格好した俺って馬鹿みたい」

「そんなことないよ、僕は愛されてるなぁって思ったし、何よりこれで告白もなくなるさ。何を言われたって僕は平気だし、英二は守ってあげるからね」

「不二…。俺だって平気だよ!不二と一緒ならどんな苦難も乗り越えられるもん!」






俺ははにかみながら不二にキスをした。
影武者作戦は失敗しちゃったけど…俺は不二を守って守られたい。
だから今日やったことだって間違ってないよ。






「だけど僕の姿になってる英二って面白いね…僕達双子みたいだよ」

「う…うん。でももっと不二はかっこいーよ。こんなんじゃない」

「そう?まぁ…僕としては早く英二の元の姿に戻って欲しいかな」

「不二…」

「英二のね、そのままの姿が僕は大好きだから。…さ、着替えよう?」






不二に促されて、俺はウィッグを取って元の姿に戻る。
ただ俺は油断した。
着替えている際に不二も一緒に部屋に入ってきて、そのまま襲われるハメになるとは…。

やっぱりコイツ確信犯だよ…はぁ。