こんなにも暑い日が続くと体調を崩してしまいそうだ。
部活を引退してからというもの、エスカレーター式の学校では成績さえ落とさな きゃ受験勉強のようにやみくもにやる必要がない。
だからすることも特になくて、僕はメールをした。
誰にメールをしたかって?
もちろん、英二にだよ。
僕の恋人なんだもの。








返信は早かった。
ちょうど英二も暇だったらしい。
僕の家に来てくれるらしいよ、よかった。








英二がベルを鳴らした。
僕はすぐに玄関へ行く。








「不二〜!えへへーお邪魔しまぁす♪」

「どうぞ、上がって!」







英二は満面の笑みだった。
こんなに喜んでもらえるならメールしてよかったって本当に思った。

僕は英二にお茶を出すためにキッチンに向かった。
そのときにふとひらめいてしまった。
こんなときにふさわしい、特別な…クスリが。
これを飲ませて英二を…






「ね〜ね〜不二ぃ、外でテニスしよ?」

「え!?テニス!?」

「そ、そんな驚かなくてもいいじゃんか、だって部活がないからつまんないんだ もん!体動かしたいし」

「動かしたいなら…別なことして身体動かそうよ?」

「別なことって何?」







決まってるじゃない、恋人同士じゃなきゃできないこと…英二にはわかるでしょ ?








「あーカーリングとかスケートとかってこと?やだやだ、冬スポーツは不二強い もん!ってか今夏だし!できないじゃん、テニス決定ね!」







急遽テニスをやることになった。
僕は確かに冬スポーツ好きだけど…今のはスポーツじゃなくて…恋人でしかでき ないことがしたかっ…







「不二〜行くよ〜!!」







英二からのサーブ。
強い打球だった。
でも僕がしたいのはテニスじゃなくて…!

よそ見をしたせいで打球を顔で受け止めてしまった…痛い…







「不二〜?!ちょっと〜もう身体なまったとか?ちゃんと返してよね!」

「う…」

「次行くよー」







ダメだ…英二はわかってくれない。
テニスだって好きだし、嫌なわけじゃないけどさ…。
頭がクラクラしてきた。
暑いせいかな。
視界も歪んでる気がする。
あぁ…わかった、陽炎が見えて視界が歪むんだね。
またよそ見をして、打球を頭に受けた。
気を失って地面に倒れた。







意識が戻り、自分がどこにいたのかわからなかった。
あぁ、自分の部屋…ここはベッドの上だね。
僕倒れたんだっけ。
英二が覗き込んでる。
僕は…







「や、やりたくないこと無理してやらせちゃって…ご、ごめん」

「英二…別に僕は…」









不思議だ。
部屋の中でも陽炎って起こるんだね。
英二の周り…空間が歪んでるよ。
それとも僕がおかしいのかな?







「不二…泣かないでよ…」

「泣いてなんかいな…あ…」







英二に言われるまで気付かなかった。
僕は涙を流していた。
歪んで見える視界は陽炎じゃなかったんだね。
でも…これじゃあ僕が我儘を言ってるようなものだ。
ダメだ…こんな子供な僕じゃ…







「不二がしたいこと…実はわかってた。でも今はしたくなくてわざと話をそらし たの。ひどいことしたって思ってる」

「英二…」

「でも…せっかく恋人同士になって、不二だってしたいと思ってるのに俺がスル ーしたら…やっぱり俺悪いし」

「英二はなんにも悪くなんかないよ、僕の我儘だよ。英二のことを考えてあげな かった僕は…」

「俺だってしたいし!!!」







その言葉を聞いて胸を撫で下ろす気持ちになった。
よかった…僕だけじゃないんだね。








「不二、お願いがあるの。今度は自分の気持ち、ちゃんとさらけ出していこうよ ?俺もハッキリしない態度が悪かったし、不二もちゃんと主張して?具体的に、 さ」

「そうだね…」

「で、早速不二に言いたいことがあるんだけど」







僕は生唾を飲み込んだ。
一体何を言われるのかとても心配だったからだ。
でも僕の心配なんていらなかった。
英二が頬を赤らめているから何を言うんだろうと気になっていた。

英二から発された言葉は───















「お、俺のこと…抱いてくんない?」







もちろん僕は頷いた。
ニッコリ微笑んで英二にキスをした。

今日の夜は僕の家に泊まっていけばいい…