パンを食べれば口の端と頬にイチゴジャムを付け、パジャマを着ればボタンを掛け違い、外出すれば靴を左右逆に履いてしまっている。
そんな英二が大好きだけど、気が付けば僕は英二の面倒を見ている保護者のようになっていた。
「にゃはは〜」
「英二!口に食べ物が入ってるのにおっきな口開けて笑わないの!」
「へ?あ、ごめんごめん」
僕達は社会人になり、ルームシェアをしている。
と表向きは言っているが、実際は同棲だ。
いわゆる恋人同士なわけだが、最近はこの生活にも慣れてしまった。
だから英二は僕をたまにお母さんと呼ぶことがある。
ふざけて言ってるだけなんだけど、なんとなく“お母さん”という響きは好きじゃない。
せめてお兄さんにしてくれない?と言ったら、俺より誕生日遅いのにお兄さんはないよ、と言われた。
だったらお母さんも同じじゃないか、大体女になっちゃってるし。
「不二〜!次の日曜日休みだよね!同僚が行けなくなっちゃったみたいで遊園地のチケットもらったんだけど、ちょうど2枚あるんだよ〜」
「いいね。でもいいのかい?もらって」
「いーんだって!前俺が仕事変わってあげた代わりのお礼だって」
遊園地かぁ…最近、いや、もう何年も前から行ってない。
最後に行ったのは高校のときだっけ。
皆で行ったんだ。
だから英二と二人きりってのは初めてになる。
社会人になるとなかなか時間も作れないからデートも大したところに行ってないし、ちょうどいい。
来週の日曜日が楽しみだ。
日曜日―――
白と黒のキャップを被った英二は、いたって普通の男の子だった。
とても社会に出て働いてる人のようには見えない。
…と言うと英二はいつまでも子供扱いするなって怒るから言えないんだけどね。
赤いTシャツにグレーのパーカー、水色に近いデニムを履き、僕があげたスニーカーを履いてくれている。
英二は大人になった今も可愛いんだ。
あっ、英二ってば腰パンしすぎてパンツが見えてる。
僕がこっそりデニムを治すと英二は咄嗟にまた腰パンに戻した。
「これはファッションなの〜!」
「え〜やりすぎだよ、それ。パンツ見えてるじゃないか。はっ!まさか英二は自分のパンツを見せたいの?」
「だ〜か〜ら〜!ファッションだって言ってんじゃんか!見せたいわけないだろ〜!」
「だけどっ…」
「過保護!」
「…え?」
「お前過保護なんだって!親でもやんないし、そんなこと。パンツが見えようがなんだろうがどうでもいいじゃん!!」
これにはさすがの僕も腹が立った。
人が心配しているのに何故英二は怒るんだ?
大体英二が可愛すぎて襲われたりしたら大変だと思って言ったのに。
下着を見て興奮した輩が英二を襲うタイミングなんていつかわからない。
だから過保護だなんて言われる覚えはない。
怒りが表情に出ていたのかわからないけど、英二は慌てて謝ってきた。
「ごめんね不二…怒ってる?」
「少しね…。僕は余計なことをしたみたいだから」
「そんなことないよ!俺のこと心配してくれたんだもん…酷いこと言ってごめんね」
英二が謝るときは本当に申し訳なさそうに、そして綺麗な目で僕を見たり伏せたり。
そんな仕草が可愛くてつい許してしまう。
これも過保護なのかな?
いやいや、これは甘やかしてるんだな。
って結局過保護ってことか。
「不二〜!ジェットコースター乗ろ〜!」
「うん」
「ソフトクリーム食べよ〜!」
「うん」
「ジュース飲みたい〜」
「うん」
気が付けば英二はまたしても…。
仕方ないな。
「英二、ジェットコースター乗ったから髪がボサボサだよ?それとソフトクリームがTシャツに付いてる。それからジュース溢したせいでデニムに染みができてるよ」
「えぇ!!」
「英二、まず落ち着こうか」
英二、僕は確かに過保護なのかもしれない。
でもその原因を作ってるのは英二自身だってこと、よく覚えておいてね。
