※近未来の話です。
一度人間としての生涯を終えた設定ですので、一部死んだ、生き返った等の会話があります。
苦手な方はお戻り下さい。














ここは二十三世紀。
人間とアンドロイドが共存する世界。
僕はアンドロイドの立場だ。
既に人間としての生涯に幕を閉じていたが、身体に活力となる機械のパーツを埋め込むことで、再び生きることができた。
この技術は二十一世紀に開発され、アンドロイドとして二度目の人生を歩みたいと生前に希望した人間のみが適用される。
この人間アンドロイド化サービスには沢山の応募者がおり、予約待ちになっている状況だった。
僕も最近になってアンドロイド化されたばかりだ。
僕は82歳で死んだのに、それから百年以上も保存された状態だった。
生き返るにはだいぶ時間が経ってしまった。

アンドロイド化には様々なプランがあり、事前に前払いすることでオプションを付けられる。
たとえば若返り。
大抵亡くなるのは高齢者が多いので、そのまま生き返ると老人のままとなる。
若かったあのときに戻りたいと願う人が、若返りオプションを付けている。
僕もその一人で、今の年齢は22歳だ。
体を動かすのも不自由ない。
テニスもこんなに楽しくできる。


ただ困るのは電池のバッテリーが切れることだ。
パソコンから操作し、コードに繋いで身体に電力を溜めるのである。
人間が眠る代わりに、僕達アンドロイドは充電をしなくちゃいけない。
そこは不便で残念なところだ。



ところで話は変わるけれど、僕には同棲していた恋人がいた。
それが英二だ。
お互い年をとってお爺ちゃんになっても、ずっと仲良く暮らしていた。
そんな中僕が先に死んで、残された英二はしばらく独り暮らしをしていた。
しかし数ヶ月後には亡くなり、英二もアンドロイド化されることに。
そして今日、英二が蘇る日なのだ。






案内された部屋へ行くと22歳の英二がいた。
薄くなっていた髪はもっさりとしてはねており、皺々だった皮膚もハリのある皮膚になっていた。
僕達が付き合い始めた、あのときの英二そのものだった。






「英二!生き返った…生き返ったんじゃ…!!」

「ふ、不二?!す…すごい…近代の技術は素晴らしいのぅ!!」








僕は違和感がありすぎて吹き出した。
だって22歳の若者が“素晴らしいのぅ!”って…






「不二、その若い姿で“生き返ったんじゃ!”はないじゃろ」

「そういう英二だって“素晴らしいのぅ!”はないじゃろ」






見た目が若いのに僕達の言葉遣いは完全に老人だった。
それは僕も同じだったわけだ。
二人して笑い飛ばした。



僕達は外の空気に触れた。
アンドロイド専門病院から英二が退院して、本当に久々だった。
アンドロイドの感覚は人間とほとんど変わらず、痛みも感じるし、感情・性格も生前と同じ。
ただ唯一違うのは水や食べ物を口にできないことだ。
電力で動いているから食欲も湧かない。
ケイジャン料理や辛いラーメンも、林檎も食べられない。
空腹にはならないからいいけど、食の楽しみがなくなってしまったことは非常に残念だ。
英二も人間がかき氷を食べているのを見て、思わずおいしそうと言ってしまっている。







「俺達さ、生き返ったけど結局はロボットなんだよね…人間がちょっと羨ましいかも」

「僕達は人間としての人生を終えたんだ。贅沢言っちゃダメだよ」






生き返ったおかげで英二と暮らせるんだから僕はこれでいいと思うけどね。
でも英二はあんまり納得できていないみたいだ。






僕達はテニスをしたり、昔にはなかった新機種のゲームをしたり、毎日を満喫していた。
つもりだった。
でも僕達がアンドロイドとして生きて一年が経った頃に、英二が言った。







「俺達ってさ、機械なわけじゃん」

「うん」

「年とらないし、電気が完全になくならない限りは死なないでしょ?」

「まぁ…そうだね」

「不老不死ってね、憧れてたの…俺。毎日楽しく怪我にも病気にも脅えずに済むからさ。でもね、これが永遠に続くのって幸せなのかな」

「幸せではない…と英二は思うのかい?」

「俺…不二とまたこうして過ごせるの…すごく嬉しかったよ?でもさ、ずっとこのまま生きて…他に何しようかって考えると何も思い付かない。俺が思うに、人間って決められた年数の中で何ができるかが大事だって…思ったんだよね。不二もそう思わない?」






僕は深く考えさせられた。
確かに英二の意見は正しいだろうと思った。
ジャーナリストの人が人間アンドロイド化サービスに猛反対していた理由がわかった気がする。
僕自身も英二と同じように考えていたときもあったけど、深く考えようとしなかった。
英二と一緒にいたいと思ったのと、せっかくアンドロイド化したのにもったいないと思ったからだ。






「不二、俺達はあの世に行ったってまた一緒にいられるよ。もう二人だけの世界さ。…ここは人間とアンドロイドの共生。これって…つらいんだもん。人間がおいしそうにエビフライを頬張ってると…殴りたくなる」






この間も人間とアンドロイドがもめた事件があった。
生前は人間といえどもアンドロイドはやはり別種の生物…いや単なる機械なんだ。
共生するのは難しい。























「規約に従い、回線コードを抜きます」






人間アンドロイド化サービス、規約36条。
“アンドロイドとしての生活に疲労を感ずる、あるいは嫌悪感を抱いた場合、本人の署名と捺印によりアンドロイドサービスを停止することができる。その際は自己責任で行ってもらう。書類作成後の取り消しは認めない。”
この規約に僕と英二は同意し、電力を補っていたコードを抜いてもらった。
こうして僕達はアンドロイドとしての生涯を終えたのだった。














僕達は桜が咲き、ひまわりが咲き、コスモスが咲き、山茶花が咲く世界に来た。
四季おりおりの花が楽しめるこの世界は僕らにふさわしかった。
姿も死んだときのお爺ちゃんのまま。
そうだ、神様に逆らってはいけない。
あるべき姿だからこうして君といられる。
これが一番素敵なエンディングだと思わないかい?