※不二菊な場面はほぼなく、どちらかというと大菊です。
暗すぎる、悪すぎる話なので苦手な方は読まれないようにお願いします。






お願い…
どうか、チャンスを下さい。
僕はまだ諦めたくない…。
人間はこういうときだけ都合よく祈る生き物だということは百も承知。
お願いです。

神様もう一度だけ…もう一度だけ…






英二を下さい…













ある日僕は告白をした。
前から気になっていた人…それは英二だった。
もちろん、断られる覚悟はできていた。

だけどその断られ方に、僕は納得がいかなかった。
何故なら英二には既に恋人がいたからだ。
僕の予想では男同士なんて無理、と言われると思っていたのだった。
しかしあろうことか、男は受け入れられるのに先約がいたんだ。
この事態に僕は初めて息が止まるということを実感したかもしれない。
しかし僕だって子供ではない。
事情がわかればあっさり身を引いた。
下手にネチネチと相手を追い回すような、ストーカー的なことはしない。
じっくり腰を据えて恋人とやらと別れることを待った。

しかしそんなことをしていて半年が経ってしまった。
まだ二人は現在進行形なのだという。
許せなかった。
いつまで僕は待てばいい?
待っているのが徐々に馬鹿らしくなってきた。
僕は男だ。
恋敵がいるならば、そいつから英二を奪えばいい。
計画は容易に思い付いた。

英二をさらえばいい。

呼び出すといつも通り笑顔の英二がいた。
英二は僕が告白した後も気まずさを装うことなく、普通に話しかけてくれる。
英二はいい子だ。

何の疑いもなく僕についてきて、笑っていた。
この笑顔を男が独占しているのかと思うと男を殺したいくらい憎々しい。
英二からそんな男を引き剥がしてやる。






僕の思い出のある場所だからと無理矢理連れてきたのは古ぼけたビル、しかも何も使われていない階の廃れた場所。
蜘蛛の巣が張って床も腐りかけており、明らかに人が入った形跡のないこの場所に、英二は今日初めて躊躇をした。

大丈夫だから僕と一緒に来て、と言うと僕は英二の腕を引っ張り床へと押し倒した。
英二はひたすら悲鳴を挙げていた。

その間に英二の携帯電話を奪い取り、電話をかける。
携帯電話の画面に表示されたのは現在進行形の恋人、“大石秀一郎”だ。

彼にもしっかり聞こえるように、電話口を英二の口元へ持って行った。
ぐちゃぐちゃに英二を掻き回す音も聞かせた。
なんて官能的な響きだろう。
目眩がする程の快感だった。






しばらくして大石が到着した。
何故場所がわかったのか。
それは英二がGPS付き携帯を大石に持たされていたからだった。
しかも僕の隣でわからないように、英二は大石に今日1日メールをしていたのだった。

僕に呼び出された英二は表向きは笑っていたが、裏では大石と密かに連絡を取り、何かあったら呼ぶと予め話していたんだ。
そんなやりとりがされていたなんて…馬鹿な…

僕はもう一度英二に手を伸ばそうとした。


でもその手は届かない。
足元の床が腐っていたことに気付かなかった僕は真っ逆さまに落下する。






あぁ…これが神様の答えなのか。
もう一度だけ…そう何度も祈ったけれど、僕の犯した罪は深くて許されないものだったんだ。

今さら気付いても遅い。

僕が最後に見たのは抱き合う英二と大石だった…