好きという気持ちを伝えるのはそう容易い事とは思わない。
緊張したり、上手く言葉にならなかったり。
または相手が誤解してしまう可能性だってある。
少なくとも僕の場合はそれが当て嵌まってしまうわけで。
人生とは何が起こるかわからない賭けのようなものだ。
肉まんを美味しそうに頬張る英二は僕の気持ちを本気にしなかった。
実は既に僕は彼に告白をしていたのだ。
しかし。
取り合ってはくれなかった。
冗談か、あるいは友達として好き、としか考えてくれなかった。
わかってはいた。
気持ちを伝えるのは容易いことではない。
けれど僕はずっと、永遠に友達としてしか接することができないなら…この恋は一生実らない。
そのときには僕は腐って…生きるのが苦しくなる。
既に今現在苦しいのに。
手は届く距離にあるのに。
触れることも、撫でることも、感じることも出来ない。
だったらいっそのこと距離を置いてしまえばいいのだろうか。
英二は半分肉まんを残して僕に渡してきた。
君の食べかけをどんな気持ちで食べればいいのかわからなかった。
英二と別れ、家に帰る。
誰もいない静かな場所は僕をさらに苦しませた。
なんでもいいから音が欲しくてテレビを付ける。
新作スイーツの紹介をしていたテレビはアイドルや芸人が美味しそうに、または笑いを取りながら食している。
英二が食べたらどんな顔をするだろう。
きっと可愛い表情で頬張るのだろうね…
…駄目だ。
テレビを見ていても英二のことが頭から離れない。
つらい。
背負っていた鞄を床に置き、ソファーに横になった。
僅かに眠い。
寝てしまおう。
つらいときは寝るに限る。
『不二』
『英二…!?』
『えへへ…不二に会いたくてさ、来ちゃった』
『英二…会いに来てくれたの?僕に会いに来てくれたの?』
『うん!不二…苦しみは半分俺が引き取ってあげるよ。だからさ…悩まないでちゃんと俺に話して。ね?』
『でも…英二…』
『喜びも怒りも哀しみも楽しみも…みんな不二とはんぶんこしたい。俺…不二からの言葉…待ってるから』
『英二?!待って!!行かないで!英二っ…!』
「英二ーッ!!!!!!!」
目を覚ました。
ソファーで空気を掴む仕草をしていた僕は頬に冷たいものを感じ、英二の名前をただ叫んでいた。
手で頬を触ってみれば雫が一滴。
僕は夢を見て泣いていたのだ。
ここまで自分が重症だとは思わなかった。
英二がいなくなったら…僕は考えただけで身震いがした。
そんなのは嫌だ。
英二とは離れたくない。
離れるものか。
たとえ運命に逆らうことになったって…英二を離さない。
英二と一緒にいたい。
僕は家の鍵も掛けずに外を飛び出した。
英二がどこにいるか、もう考えている余裕だってない。
ただひたすら探すだけだ。
ストリートテニスコートか。
公園か。
英二の家か。
あるいは…
僕は夢を思い出す。
夢に出てきた英二の背景は部室だった。
ただの夢なんだから部室にいるとは限らない。
もしかしたらもう居場所はわからないかもしれない。
明日の朝まで、また学校が始まるまで会えないかもしれない。
でも…可能性を掛けて僕は部室に向かった。
鍵が掛かっていない。
つまりは誰かが中にいるということ。
鍵当番の大石が忘れるはずないからだ。
ゆっくりとドアノブを回す。
中にいたのは…まさしく英二だった。
「不二…」
「英二…!」
気付けば僕は英二を抱き締めていた。
ベンチにちょこんと座っていた英二は泣いていた。
僕と同じように一粒の涙を頬に乗せて。
「君も…英二も同じ夢を見ていたのかい」
「不二が…全てを半分にしてくれるって…だから一緒になろうって言ってくれるのに…俺は誤魔化すことに一生懸命になって…不二を傷付けて…」
「いいんだ英二…もういいんだよ…」
間髪を入れずに僕は英二に口付けた。
消えてしまわないように、それはとてもとても儚くて簡単に壊れそうだから。
静かに目を開けると恥ずかしそうに微笑む英二がいた。
「不二…今まで自分に…それから不二にも嘘付いてた…ごめんね…っ………」
「うん…いいんだよ…英二。僕と…付き合ってくれる?」
「…うん!」
「ありがとう…英二。愛してるよ…」
気持ちを伝えることは簡単なようで難しい。
それを実らせるのはもっと…簡単で難しい。
でも英二は僕を受け入れてくれた。
英二…ありがとう。
そして…好きだよ。
