そこには食べてはいけない林檎という果物があった。
でもこっそりアダムは食べてしまった。
…それが君と僕の関係、だって?
何言ってんだか。


俺は裸一貫で不二の部屋をうろちょろしていた。
もう慣れてしまっているから注意を受けることはないけど、タオルくらい巻けば?と言われる。
そのくらい恥じらいというものがなくなってしまった。
最初はちょっと指先が当たったりするのがドキドキしたり、キスするときは歯がぶつかったりしないかとか、不二の瞳を見続けることができなくて目が泳いでるって言われたりした。
新鮮というか、初々しさいっぱいだったあの頃も今となっては思い出になってしまっていて、あの頃の俺達が今の俺達を見たら呆れてしまうだろうと思った。
不二は自分だけ下着を身に付けて俺に近寄ると後ろから俺を抱き締めた。
お互い上半身は裸だから身体を密着させるとペタペタしてしまう。
最近の気候も暑いから汗ばんでしまって余計ペタペタする。
俺はこのときのペタペタ感が実は堪らなく好きなんだ。
不二と一つになれている気がして。






「ねぇ英二、今日はどこに行く?」

「ん…不二はどこ行きたい?」

「僕は…このままがいい」

「俺が身体持たないよ〜」

「じゃあ少しずつ休ませてあげるから」

「ドスケベ、ドエロ、ドヘンタイ!!」

「あっ、そんなこと言うの。だったらもう休ませない!えいっ!」






まさしく二人だけの世界。
邪魔する者などどこにもいない。
俺は不二に持ち上げられるとまたしてもベッドへと投げつけられる。
俺の上に被さるように不二は俺を見下ろすと柔らかなキスをした。
落ちてきたキスは甘く切ない味がする。






「ン…んっ!…結局ヤってばっかり!不二ってばそういう依存性なんじゃない?」

「じゃあ僕が依存性ならそれに応える英二も依存性だよ」

「む…俺は違うもん!」






本来だったら結ばれずに終わってしまう恋だった。
俺にとって不二が特別な存在だったから諦めることなどできなくて。

当時の不二には彼女がいた。
左薬指に指輪までしていた。
その人が不二にとっての初めての恋人だったらしいけれど、俺は当時から不二が大好きだったからショックを受けた。

この間撮ったシールをあげると言われ、見ればキスプリにコスプリに彼女とベタベタしたものばかり寄越してきて、俺は頭にきたからすぐゴミ箱に捨てた。

あと、不二は服のジャンルが変わってしまった。
不二が自分で選んでいるんじゃない。
彼女が選んでくれた服を着ているんだよ、と言っていたけれどどう見てもセンスがないファッションで俺はもったいないと思った。
不二はかっこよくて、カッターシャツにネクタイといったファッションが似合うのに。
今じゃストリート系でキャップまで被っている。
似合うか似合わないかなんて常に一緒にいる恋人ならわかるはずなのに、彼女はなんもわかってなどいなかった。

しかし時間が経つに連れ、彼女とすれ違いが起きるようになり、結局別れた。
俺は心の中で両手を上げて喜んだ。

彼女はテニスについて何一つ知識がない上、一生懸命話している不二に向かって“つまんない”と言い放ったらしい。
不二は別れた直後は引きずっていたみたいだけれど、そんな理解のない女と別れられたことは逆に幸せだと言うと、不二も落ち着いたようだった。

それから俺は不二に告白して今不二と付き合っている。
女じゃないからてっきり断られると思っていたのに、意外にもあっさりと付き合うようになって、今ではこんな裸の関係になったわけだ。

だから不二は言う。
俺という名の禁断の果実を食べてしまったからにはもう後にはひけない、と。
周りからなんと言われようとも自分らしく生きることは悪いことではない、と。






「ところで禁断の果実は美味しい?」

「うん、甘くてとても美味しいよ、だからまた食べさせてくれるかい?」

「…この食いしん坊」

「誉め言葉として受け取っておくよ」






不二はにっこり笑うと再び果実に手を出した。