僕らは大人になんかなれていない。
よく外見だけで精神年齢とか高く見られがちだけどまだ純粋な学生であることは 間違いない。


だから…焦っちゃダメなんだ。


ダメなんだ。

























1限の授業が終わりもう疲れてしまった。
もう…学校になんていなくていい。

いや、いたい。

僕は一人になったところで苦しくなるだけだ。
1秒でも長く一緒にいたいと思う僕は可笑しいのだろうか。

僕は変なのかな。











付き合って1ヶ月が経った。
僕らは手を繋ぐだけ。
それが不満とは言わない。

むしろ僕の想いが彼に届いたのだから喜ばなくてはいけないのに。
ねぇ…僕らはこのまま…年を取っていくのかな。






気が付けば僕らは二十歳になっていた。



























「長いよなー、お前ら。なんかさ、このまま結婚とかしちゃうんじゃね?」

「はぁ?海外に行かなきゃ結婚なんて無理だろー!酔ってるからって テキトーなこと言うなってーの!!」


















確かに英二の言うとおりだ。
日本では結婚は認められない。

だけど待って。
僕らが海外に行ったところで結婚になんて辿り着くのかな?
どうしてそんなことが言えるの?
僕らの関係なんてちゃんと知ってるわけじゃない。

僕の悩みだって誰も知らない。
英二ですら知らないんだから。


勝手な事言わないでよ。
















お酒の量は増えるばかりだ。
生を頼んだばかりなのにもう焼酎、日本酒、とアルコール分の多い ものを頼んでいる。
自分が自分でなくなる、この感覚が堪らなく好きで毎回飲み会では 酔っ払いの称号をもらう。

僕が酔うと英二は困ったように僕を見る。
英二は僕が酔うのを激しく嫌う。

自覚はないけれど少し暴力的になるからだ。

















「ねぇ!ねぇってば!飲みすぎだよ!!」

「うるさいよ…黙ってて」

「体壊すような飲み方しないでって前も言ったじゃんか! やめてよ!!」

「…僕に指図なんかするな!!」















場の空気がしらけた。
一瞬にして時間が止まったように皆静かになる。
英二はこの空気を作られるのが嫌いなんだ。
僕だってこんな酔い方したくない。
したくないけど…辛いんだよ。

僕の気持ちなんて誰も理解してくれない。
グラスをテーブルにガチャンと煩く置いてみる。

これが本当のKYなんだろう。













雰囲気が悪くなりすぎて英二は耐え切れなくなったのか僕を連れて 店を出た。
僕は腕を引っ張られるままに歩く。

























「サイテーだよ!お前!!なんでこんなことするんだよ!!」

「最低?…君に言われたくないよ」



























手を繋ぐ。という行為だけで5年。





これが付き合うってことなのかい?
英二が恥ずかしがっているから僕からリードしていけば いいんだろうって思っていたんだ。
でも君は何も知らないと言った感じで僕がベッドに押し倒しても 平然としていたね。

なんなの、これ。


























「君は…」

「え…?」

「君は僕と何がしたいの?毎日一緒に学校へ行くだけ? 授業でわからなかった所を教え合うだけ? テニスをする仲間だっただけ?」

























僕が一人でドキドキしていたのかと思うと馬鹿らしいと感じる。
この5年間はなんだったの。
君は僕をどう思っていたの。

子供のような恋にもう終止符を打つべきだった。
もっと早くてもよかったかもしれない。























「俺は…不二と一緒にいたい。ただそれだけ」

























誰もいない駐車場。
少し風が吹いていた。
髪をなびかせて僕に抱きついてきた。

わかってる。
君は僕が嫌いじゃない。
でも…

























好きでもない。
それは僕にも伝わった。

僕は暖かい液体が目から流れるのを必死に堪えて上を向く。
空は真っ暗で星が輝いていた。




















「終わりにしよう。僕らが恋人なんてふざけた話だよ」

「どうして…って不二?もしかして…泣いてる?」

「泣いてなんかいないよ。君とは違うからね」
















英二の服に僕の液体が付いた。
じんわりと広がっていく染みは英二の心を動かしたのか、英二も 目を潤わせた。





















「ごめ…俺…ずっとずっと…疑問だったの。恋人って一体何をすればいいんだろうって。 わかんなくて…マニュアル本見たりしたけど…なんだかしていることが怖くて…身体 がヘンになっちゃうんじゃないかって…そう考えたら…すごくわかんなくなって…」

「もういいよ…英二。僕が望みすぎたんだ。僕は君と…」

「ふ…じ…」

「君となんて…出会うんじゃなかった!」


























さようなら…英二。
仲間だった頃が懐かしいね。
あの頃は二人でふざけあったりして…お互いを意識することもなく 楽しい思い出しかなかった。
それなのに…僕は君に告白してから状況が変わっちゃって… 恋人らしいことを自然に求めようとしたけど…英二には負担を かけるだけだった。

自分の愚かさに失笑した。

所詮、僕は本能のままだけ…英二を見ていたのだと。




むしろ…悪いのは僕だったってこと。





















「英二…」

「はぁ…っ…っ…はぁ…お願いだから… お願いだから…もう勝手に何処かに行っちゃうのはやめて」























英二は息を切らして言った。
全速力で追いかけて…服も汗でびっしょりじゃない。

どうして…?
僕のことは恋人としては見れないんじゃなかったの?

僕は…テニス仲間じゃないの?
































「好きなんだよ!わかって!!俺は単に不器用なだけなの!! わからなかったの!!!お願い!俺ともう一度!もう一度!!」

「英二…」

「付き合って!!!!!!」





























子供みたいな付き合いだっていいんだ。
僕に足りないのはそういうことじゃない。

英二、そのものが僕の側にいるということ。
一緒にいるだけで幸せだということに気付けなかった。
僕は不幸な奴だ。

それ以上を求めたりなんてしない。
僕にも英二にもペースというものがある。

だから焦ったってしょうがないんだ。
まだ僕らには時間がある。
ゆっくりでいい。

ゆっくり僕に心を開いてくれればいいんだ。

英二…君の言葉のおかげで…もっと君を愛することができそうだ。