昨日の俺が今日の俺になってから。
何かが変だ。
何が変なのかって言うと、ある人物に対して今までと同じように接することがで
きない。
その人の前だとなんだか心がドキドキしてしまう。
恐らくこれを恋っていうんだろうけど…実は相手が女の子じゃない。
だから誰かに相談したくてもできないでいる。
困ったな…。
「どうしたの英二」
「んにゃ…なんでもないよ〜」
その人ってのは不二のこと。
不二はかっこよくて、髪もサラサラで、優しくて、でも俺のためって言って厳し
くもあって、いいやつで、頭良くて、スポーツもできて…不二のいい所ありすぎ
て言い切れないや。
だから不二のこと好きっていう女子の気持ちはすごくわかる。
でも…不二は何故か誰とも付き合わないんだよね。
今までたくさん告られてるはずなのにさ。
女の子との噂が全く聞こえないから不思議に思った。
「なぁ不二、なんで彼女作らないの?この間も可愛い女の子に告られてたじゃん
」
「僕は外見だけじゃその人を判断することなんて出来ないよ。どんな人かもわか
らないのに付き合えるわけないじゃない」
確かにそうかもしれない。
でも誰とも付き合わないのはやっぱり不思議。
なんか不二って損してるんじゃないのって思う。
…だから諦められない原因になってる。
誰かと付き合ってくれれば俺の想いも自然消滅してくれるんだろうけど…。
もしかしたら俺…このまま不二が誰とも付き合わないなら、本気で不二に告るか
もしんない。
放課後───
また不二は女の子に呼び出されていた。
モテる男はツライんだなぁって思ったけど…やっぱり付き合わなかった。
断られた女の子は最後にとんでもない言葉を吐き捨てていった。
「英二?…見てたのかい」
「う…ごめん…女の子の声が聞こえたからつい…」
不二を見ると頭をくしゃって掴んで困った様子で溜め息をついていた。
俺にはすごく不二の姿がさまになっていて、心臓が飛び出るくらいドキリっとし
た。
「困るんだよね…あぁいうの。優しく言っても友達からでいいからとか言うし、
厳しく言っても泣かれたり逆上したりするから…女の子ってどう扱えばいいかわ
からないや」
「…うん」
「あげく女の子と誰とも付き合わないのは変だ、気持ち悪い、ゲイ野郎なんて…
女の子が吐くセリフじゃないよね」
俺は頷きながらも女の子の言っていたことが本当なら、俺にも望みがあると思っ
ていた。
できればそうであってほしかった。
でも人生なんてそう上手くいくもんじゃないのはわかってるけどね。
「だから何?って話だよね。男が男好きになって何が悪いの、君には関係ない話
だよって言ってやりたかったんだけどね…走って行っちゃったから…言えなくて
とても残念」
俺は不二の言葉を聞いて目を見開いた。
ってことは俺にも望みがあるってこと…!?
でもでも…不二はダブルスでタカさんといつも組んでるから俺なんかより、情熱
に溢れた優しいけど激しい男が好きなのかもしれない。
いや、それとも手塚かも?!
よく一緒に帰ってて雨が降ったら相合い傘してたし、なんか知らないけど歌のデ
ュエット出してるし…。
それかおチビ?!
大雨でもずっと試合してたのはおチビと少しでも長く接していたかったから…
だとしたら俺に望みなんてなんもないじゃん…。
さっきまでの自信はどこかに消え去って、俺の心は曇り始めた。
「英二…もしかして僕が男が好きってことにひいたりした?」
「まさか!だって俺、不二のこと好きだもん」
「…え」
「あ」
俺のバカ。
うっかり口を滑らせて言っちゃったよ…。
何やってんだよ…俺。
でもどうせフラれるのわかってるんだし、これで俺の片想いに終止符が打てる。
残念無念また来週〜…
「どうして泣くの…」
「ひっく…だだっ…だって…うっ…俺の気持ち…不二に…届かないって…」
「いつ僕が君をフったの?まだ僕、返事してないんだけど。勝手に決めつけない
でほしいな」
そういうと不二は俺にキスをした。
え…これって…
「…英二の気持ちが聞けてよかった。これが僕の返事」
「う…そ……」
「僕も好きだよ…英二が告白してくれたらいいのにって思いながら毎日過ごして
た」
俺の想い…通じちゃったよ…信じられない…
まさかこんな展開になるなんて思いもしなかったし!
「付き合ってもらえますか?英二」
「もも、も…もちろん!!」
俺の今の心は曇り時々晴れ、じゃなくて曇りのち晴れ!
不二はにっこり微笑んで手を繋いでくれた。
