ずごーんという音がした。
気が付けば俺と不二は血塗れだった。













ペーパーという汚名を返上するために2年ぶりに車に乗った俺は、助手席に不二を乗せて運転した。
軽いリハビリのつもりだった。
オートマだし、自分のよく知っている道だったから大丈夫だろうと余裕かましてたら事故った。
しかも追突。
車は前部がぺしゃんこ、不二は一時心停止という危機的状況だった。
なんとか大事には至らなかったので俺は本当によかったと思った。
けれど、もう俺が車に乗ることはない。

入院中の不二と話していたときだった。






「英二は車乗らないの?今回誰も死人は出なかったんだ。次は安心して乗れるだろ?」

「乗れないよ!家族にだって反対されたんだ。もうお前は乗るなって。まだ俺だけが怪我してるならまだしも、不二がこんな重体になったんだよ!?一回死にかけたんだよ!?俺、間違ったら人殺しになってたかもしれないのに…不二…不二…本当に…ごめんね…」

「英二…いいよ。僕は療養していれば治るんだ。だから大丈夫」






大丈夫だなんて言われても不二は包帯でぐるぐる巻きになっていて、大丈夫そうには見えない。
せっかく不二は綺麗な身体で綺麗な顔だったのに…もしこれで傷が残ったりしたらどうしよう、と泣きながら言うと不二は“英二からもらった愛のプレゼントだ”なんて言う。
そんなふざけて言ってる場合じゃないのに。

他には“こんな身体じゃエッチができない”とか下ネタな話もしていて、一見元気そうには見えるけれど俺は心配で仕方なかった。
と言ったら英二は心配性だと言われた。













ある日見舞いに行くと顔の包帯を取った不二がいた。
どうやら傷は治ったようだった。
跡も残っていない。
本当によかった。






「だから大丈夫って言ったじゃない、英二の心配性」

「だって…」

「英二は僕の側にいてくれればいいんだよ。…ところで英二、その花束…すごく綺麗だね。まさか僕のために用意してくれたのかい?」

「うん!今生けるから待ってて。花屋さんと話したらおまけしてもらって大きい花束になっちゃった」






俺は近くにあった花瓶の水を入れ換えたりして、新しい花を生けた。
生き生きした花達はこの部屋を明るく照らすように大きく花弁を広げている。
花を見てほっこりしている不二の横にそっと移動し、軽く手を握った。
手はまだ包帯がしてあった。

俺が四天宝寺の白石みたいって言ったら、一緒にしないでよって笑いながら言われた。
そうそう、毒手って言うんだっけ?
でもそもそも毒手ってなんだっけ。

などと話していると看護師のお兄さんがやってきた。
最近病院にお世話になることがなかったから忘れていたけれど、看護師って今は男性もいるんだった。
薬を飲む時間らしいので俺は一度不二から離れた。













不二はもうじき回復できるらしいので、退院の日を待ちわびた。
しかし予定よりも長引き、退院日は延期されてしまった。
俺がまた心配になって慌てていたら、不二に大丈夫だって言われた。
大丈夫じゃないから延期になったんでしょ、と言うと病院と英二からもらった薬と花束があるから元気になれる、完治すると言われた。
俺は手を握り、不二にキスをした。
元気になりますように、とお願い事をしながら。













2週間後―――
不二は退院した。
まだ完全ではなくて、痛みがあったら薬を飲まなくてはいけないらしいけど、英二が側にいてくれれば早く完治すると言われた。






「怪我させたのは俺だけど…こんな俺とでも一緒にいてくれるの?」

「当たり前でしょ?英二のいない生活なんて考えられないんだから。こっち…来て?」

「うん!」