※最初、英二は女と付き合ってる設定です。
苦手な方は読まないでください。
僕には好きな人がいた。
世間一般には口にできない相手なのかもしれない。
言うことはとても勇気のいることだ。
言いたいけどそれは許されないことだ。
だって相手には…恋人がいるから…。
僕はいつものように朝、学校の支度をしていた。
学ランを着た際に昨年の学祭を思い出していた。
相手の恋人が学ランを貸してくれないかと僕に尋ねたんだ。
劇をやるために。
僕は快く承諾した。
断る理由が見つからなかったから。
本音を言えば貸したくなんてなかったよ。
だって僕の学ランを着て男装し、英二と友情物語を演じるなんて…いくら学校の催しだからって何故僕がそんなものの協力をしなきゃいけないんだろ。
だから顔はきっと笑っていなかった。
いや、作り笑いはしていたはずだ。
僕にはスマイルフェイスという仮面があったはずだから。
彼女はありがとうと言って僕に手を振った。
だから僕も振り返した。
そう…僕は英二が好き。
彼女さえいなければ、と何度思ったことだろう。
階段から突き落とそうとまで考えが及んだことがある。
…実際にはしていないけれど。
「不二!どったの?元気ないね」
「え?…あぁ、なんでもないよ」
どうしたら彼を手に入れられる?
無理矢理にでも二人を引き剥がし、身体を奪ってしまうか?
いや、僕はそんなことをしたくはない。
その後に残る虚しさは計り知れないものがある。
きっと強引なやり方では上手くいかない。
…じゃあどうする?
では…こうしよう。
僕はまず英二と話をした。
彼女を、呼んでもらうことにしたんだ。
それはおかしなことだと人は言うかもしれない。
でも僕にできることは今思い付いた、このやり方しかないわけだ。
英二はよくわかっていなかったみたいだけど、呼んでもらった。
「こんにちは、不二周助です…って覚えてくれてたらこんな自己紹介は必要ないんだけどね」
彼女はぺこりと頭を下げた。
彼女もびっくりしているだろう。
突然彼氏の友人が尋ねたんだから。
しかも話したいことがあるなんて言われたら堅くなるのも仕方ない。
僕は早めに用件を終わらせようと手短に話した。
「実はあなたに許可をもらいに来ていただいたんです」
「はい?」
「不二〜!言ってる意味がよくわかんないよ!どういうこと?」
「僕に、英二を下さい」
辺りは一瞬にして静まり返った。
わかっていた反応だった。
自分でもこんなこと言われたら理解できず、ただ困惑しているだけだろう。
「あの…言ってることが…」
「ですよね。じゃあわかりやすく言い直します、僕が英二と付き合う許可を下さい」
「おま…バカじゃないの?なに勝手なこと…」
「わかった…じゃあ不二くんに許可するね。英二とお付き合い、長く続くといいね」
やっぱそうか。
僕の読みは当たっていた。
彼女は僕の話を聞き終えるとさっさと立ち去ってしまった。
あまりにも早い展開に英二はついてこれなかった。
理解できなかったんだ。
「不二…いま…何が起きたの…?」
「英二、君はもうじき彼女と別れてもらうから。まぁ今日の発言で別れたようなものだと思うけどね」
「え…え…なに…意味わかんない…」
「彼女さ…英二だけじゃないんだよ、付き合ってる男」
「嘘っ?!」
「嘘じゃない。手塚とも付き合ってるし、荒井やカチローくんとも付き合ってる。…まさか本当に知らなかったの?」
魔性の女だとは思っていなかったようで、英二は目を見開いたまま動かなくなった。
そして床にぶっ倒れた。
まさか本当に知らなかったなんて…英二にはかなりショックだったみたい。
僕は保健室へ連れていった。
英二が目を覚ますと僕は今までの経過を話した。
だいぶ記憶が飛んでしまったと思われる。
「そう…あいついろんな奴と付き合ってたんだ…しかもテニス部ばっかり。騙されてた俺、超惨めなんだけど」
「悪評高いよ、彼女。英二みたいに知らない人も稀にいるみたいだけどね」
「信じらんない…。だから気付かせてくれるために、不二…俺を下さいとか言ったんだ」
「いや、あれは本気」
と言うとまた英二は固まった。
まぁなんとなくは予想していたけれどね。
「僕は焦らせたくないし、長く待つことなんて苦痛じゃないよ。でもいつか返事は聞きたいよね」
「…そ、そう……」
「あっ、言っておくけど断る理由に“自分が男だからダメ”っていうのはナシね。そんなことわかってるんだから」
英二があまりいい反応をしていないので不安がよぎった。
でも構わない…言いたいことが言えたので僕は満足だ。
