「俺ね、マフラーの二人巻き巻きしたい」






と言ったら不二は飲んでいたジュースを吹いた。
あ〜あ…せっかくカッコいいシャツがりんごジュースまみれ。






「ふーじ…汚っ」

「なっ!!何を言うんだ英二!君が突然変なことを言ったから…」

「あ〜っ!ひっでぇ不二。俺のせいにするんだ?乙女の憧れを否定するの〜?」






自分を乙女って…どんだけ自意識過剰だよって話だけど。
でも俺としてはすごく興味津々なわけ。
だって一つのマフラーを二人で巻き巻き♪
巻き巻き♪
…ちょっと恥ずかしいなぁ。






「あのね英二。マフラーってどんな季節にするものかわかるかな?」

「バカにすんなよな!冬だよ!ふーゆ!今は夏だからマフラーなんかしたら暑いってか?別に外でしなくたっていいんだよ。今みたいに家でちょっとさぁ…」

「家で?僕はごめんだね」






本当にこいつは可愛くない。
自分から折れることはまずない。
嫌なものははっきり嫌と言う。
だからここですかさず俺は言う。






「つまんな〜い男」

「…なに?」

「なんかさ、ロマンがないよね〜。せっかく可愛い恋人が巻き巻きしたいってお願いしてるのに…」

「やだよ、暑いし」






不二はコップを置くとりんごジュースまみれのシャツを脱ぎ、上半身裸で部屋をうろうろしている。
どうやら着替えを探しているらしい。
不二の部屋は綺麗に片付いていたのですぐに着替えは見つかった。
でも何故か服を着ない不二。
いつまでもそんな格好でうろうろされたらこっちも直視できないし、困るんだけど…。






「クスッ…英二なんでカーペットばかり見てるの?…僕のこと無視しないでよ?」

「(こいつわかっててやってる!むかつく!!)あ!?別に?!カーペットが不二っぽくてセンスいいなぁって思っただけだよ!」

「なんでそんなにピリピリしてるの?ねぇ英二…落ち着こうよ」






と言うと不二は何故か俺をベッドに連れていった。
待ってよ!
まだマフラー巻き巻きの話終わってない上に遊びに来て早々もうヤるの!?
って思ったらなんだかイラッとして俺は不二を蹴った。






「いたっ…な、なんで蹴るんだよ!ひどいじゃないか!」

「ひどくないよ!そっちの方がひどいじゃん!まだ話終わってない!」

「意固地にならないでよ。大体マフラーなんてしまってあるから今出せないし。なんでマフラー巻き巻きが英二にとってそんなに大事なんだ?」

「CMで昔やってたの思い出したから」






我ながら思う。
自分は単純すぎる…と。
でもきっかけなんてそんなに大事じゃないでしょ?
上目遣いを駆使し、キラキラした瞳で見つめれば不二なんてちょろいハズ!
と思っていた。
だけど全くちょろい様子はなく…いたって不二は冷静なのだ。
俺はやや不利な状況で押され気味だ。






「不二〜頼むよ〜!一生のお願い!!」

「君の一生はいくつあるんだい?」

「う…。やっぱりダメなの?」






最後の手段、泣き落とし。
実際泣いてないけど目に涙を溜めることができる。
俺ってばすごーい!なんてね。

嫌な奴って思う人もいるかもだけど、できることは今しておきたい。
ちらちら見れば不二はそろそろ堕ちるはずだ。






「英二、自らそれを武器にしちゃいけないだろ?それとも…」

「へ?」

「…シたいのかな?」

「だ、だから!」

「わかったよ…仕方ないな。待ってて、今マフラー探してくる」






不二は上半身裸のまま、クローゼットを開けて冬物が入っていると思われる場所を探した。
…なんで服を着ないまま探すかはなんとなく察しがつく。
マフラーを見つけ、二人で巻き巻きした際には“英二がしたいことを叶えたんだから、僕のしたいことも叶えてよ”、と言うつもりだ。
不二が何を考えてるかすぐわかっちゃうんだから!


クローゼットから不二はにょろんとマフラーを出した。
それは昨年俺が不二のために編んであげたマフラーだった。
不二にぴったりの、白とベージュのボーダー柄だ。
不二はベージュが好きだから。
だけどあんまりこのマフラーは長くなかった。
二人で巻き巻きして、果たして大丈夫だろうか?
少し心配だった。






「これで巻き巻きできるよ。さあ、おいで」

「ん…」

「あれ?なんでそんなにふて腐れてるの?巻き巻きしたいんじゃないの?」

「そう…そうなんだけどさ…二人…できるかな?」

「何、そんなこと?大丈夫だよ。巻けないなら…こうすればいいだろう?」






何をするんだろう?
不二は大きく腕を広げると俺を包み込んだ。
これ以上ないくらい、ぎゅっと抱き締めて。
不二の肌と俺の服が密着して、ってよりもう不二の身体の中に取り込まれてしまうんじゃないかと思うほど近くて。
心臓はバクバク言ってて。
その上からマフラーをくるくるっと巻く不二。
ちゃんと二人でマフラー巻き巻きできた。
長さはやや足りないように思えたけれど、これだけ二人が密着していればマフラーが少しくらい短くても大丈夫だ。
冷房を効かせた部屋なのに密着とマフラーのせいで汗がじっとりと出てきた。
そんな汗のにおいが心地よくて俺は身体を不二に吸収されそうになる。

すると不二はパッと俺から離れた。
あれ?
ここで不二は言うと思ったのに。
“次は僕の番だよ”って。






「ん?英二どうした?マフラー巻き巻きしたからもういいでしょ?暑くてさ、僕はもうギブアップだよ」

「あ…そうじゃなくて…」






なんだろ…この物足りない感は。
本来はこれでいいはずなのに俺が思っていたのと違う展開に戸惑う自分がいた。

そして俺は下半身に違和感を覚えた。

俺はしばらく考えてから漸くわかった。
欲しがっていたのはむしろ俺の方だったって。

そんな俺を見て不二はにやにや笑っている。


そうか、欲しいなら俺から言わなきゃダメってことね。
さすが不二。
今日は俺の完敗だね。






「愛しの不二様、俺を…あ〜!!!もう!!!!!」

「え?何?」

「〜〜〜!!!俺を…俺を抱いて下さい!!!」

「ふふっ…さすが英二。僕をよくわかっているね。忠実な君は大好きだよ」






こいつは絶対自分が主導権を握らないと気がすまない。
だから自分から折れたりなんて…ってあれ?
今日はそれでもマフラー巻き巻きできたじゃん!
あれは不二から折れてくれたわけだし…!
やった〜!
一歩前進したじゃん、俺!






「英二…笑ってられるのも今のうちだよ。今日は英二が息止まるまでやるからね」

「んにゃ、かかってこい!」