ある日俺達はゲームをしていた。
有名なゾンビもののやつ。
兄ちゃんから貸してもらったんだけど、あんまりする気がしなくて放置しといたのにさ。
不二がやりたいなんて言うから起動してみたけど…
銃で撃つとゾンビがうめいて倒れていく。
不二ってば普段ゲームしないとか言ってるけど、こーいうのになると面白そうにやるんだよね。
俺だったら対戦がいいのになぁ。
「英二ー、次どこ行けばいいのかな?弾が尽きそうだよ」
「も〜乱射しすぎなんだってば。次は…あ!不二!ゾンビ犬!!」
不二がよそ見していたとき、ゾンビ犬がプレイヤーを襲う。
体力があまりなかったせいかゲームオーバーになってしまった。
「あ〜あ…死んじゃった。よそ見するからだよー!」
「しょうがないよ、まだ始めたばかりだし。わりと上手い方だよ、僕は」
「そーやって調子乗るとよくないんだよ?もう違うのやろーよー」
俺が飽きたことに気付いたのか不二は俺の上に突然乗っかろうとした。
まさか、と思った。
「違うのって?英二はナニがしたいの?」
「な、そんな言い方やめてよ…///そんなんじゃないってばっ!」
「ん〜?おかしいなぁ…こういうことがしたいんじゃないのかな?」
もう!不二ってば…サイテー!
俺はただ別のゲームがしたかっただけなのに…!
ベッドに寝かされて不二にたくさん愛撫された。
こんなことばかりしてて…恥ずかしいよぅ。
たくさん抱かれて意識がなくなりそうになったとき…俺は目が虚ろになった。
気が付くと俺は雨で濡れた階段に倒れていた。
なんだか初めて来た気がしなかった。
どこか見覚えのある風景…でもどこだかわからないままとりあえず俺は歩いてみた。
ここは町みたいだけど…誰もいないのは夜だからかな?
…。
後ろで嫌な声がした。
生き物か何か…でも人間ではない感じ。
思いきって俺は振り返ってみた。
ゾンビだ。
嘘だと思いたかった。
でも嘘じゃない。
ゾンビは確実に俺を狙ってる。
やだ…まだ死にたくないよぉ…
そうだ!
確か持ち物に銃があったはずじゃ…!
ポケットの中を探した。
出てきたのはナイフだった。
「うわぁん!なんでナイフ!こんなの無傷で戦えるわけないじゃーん!!」
「ウ…ゥ…ッ………」
「ひぃ〜っ!!!もうダメ!!!」
逃げ出したい。
マジで逃げ出す5秒前、頭が真っ白になって腰が抜けた俺は噛まれることを覚悟した。
そのとき何かカチャリという金属音がした。
パァァァーンと大きい銃声とともにゾンビの頭は吹っ飛び、そのまま地面に落ちた。
俺はどうやら助かったらしい。
銃を構えてこちらにやってくる奴がいる。
あいつは一体…
まさか…
「大丈夫かな?」
「不二!!うそ…なんで…?!」
「いいのが落ちてたからね。これは便利だよ。さぁ英二もここから逃げよう」
不二は俺の腕を掴んで走る。
ってかそもそもここはどこなの?!
まるでゲームの中みたい。
俺は不二についていった。
外は危ないからと、どこか屋内に入ろうとした。
ちょうどよく開いているドアがあったので入ってみた。
不二は手慣れた様子でショットガンを構える。
まるで映画のワンシーンみたい。
すごく不二がかっこよかった。
「不二…かっこいー…」
「本当?フフッ…嬉しいな」
肩に腕を回された。
不二から火薬のにおいがする。
さっき銃弾を放ったせいだ。
「…英二、愛してるよ。だから脱出しよ……英二!!!!!!」
「うん…えっ?!」
俺を抱きかかえて不二は転がった。
すかさず不二は銃を放つ。
キャホンっといったのは…ゾンビ犬だった。
だけど不二…肩から血が流れてる…。
「はぁ…倒したみたいだね…ほらごらん、僕上手くなってるでしょ」
「ばかぁ!!噛まれちゃってんじゃん!!早く応急処置しなきゃ…」
「無駄だよ」
俺は手を止めた。
不二の言ってる意味がわからなかったから。
無駄って…
「英二…知ってると思うけどゾンビに噛まれたらもう…僕もゾンビになってしまうんだよ」
「ち、違うもん!噛まれたって…回復すれば…!」
「ここはゲームの世界じゃないんだよ英二…さぁ、僕を置いて早く逃げるんだ。この銃は自分の身を守るのに…使うんだよ…」
不二は意識を失った。
俺は世界中に響き渡るような声で叫んだ。
何度揺らしてもピクリとも動かない。
本当に死んじゃったんだ。
目の前の光景を受け入れられなくて、どうしたらいいかわからなかった。
腕を掴んでも固くて冷たかった。
どんどん青白くなっていく。
やだよ…こんなの…
やだあぁぁ──────っ!!!!!!!!!!!!
涙も枯れ果てて力も尽きて、俺は逃げようとする意思がなかった。
何もしたくない…いや何もできないんだ。
一人で逃げて何があるっていうの?
後悔するだけじゃん。
だったら俺はずっとここにいよう。
ずっと側に…。
手を握ったとき、何か動いた気がした。
俺はわずかな期待を持った。
やっぱり死んでなんかいなかった…?!
と思ったけど不二の顔色は変だった。
まるで生きていないような…
ゆっくり立ち上がると不二はフラフラしながら俺に手を伸ばした。
思わず俺は後退りした。
違う…不二なんかじゃない…これって…
「え…い……じ……」
「いやあ!やだ!嘘!!!」
よろけて歩く姿はまさにゾンビそのものだった。
嘘だ!
不二がゾンビになんてなるわけないじゃん!!
こんなの!!!!
一瞬不二が口を開きかけて何か言った。
“撃って”と言った。
気のせいかもしれない。
でもそう言った気がする。
俺は不二が持ってたショットガンを持っている。
じゃあこれを不二に撃つっていうの?
誰がそんなことするかぁ!
不二がゾンビなら…俺もゾンビになってやる!!!
銃を捨てて不二に抱きついた。
不二は困惑しながらも俺の首に噛みついて肉を喰らう。
俺…食べられてるけど…平気だもん。
不二と一緒になれるなら…どんな化け物になったって構わないよ。
「……じ…」
「ん…もういいんだぁ…」
「英二ってば!」
「一緒なら〜…いいのー……」
「起きて!!学校だよ!!!」
はっとして目が覚めた。
ガバッと布団を脱ぎ捨て、近くにいた誰かを見た。
ゾンビだ!
撃たなきゃ!!
あ、でも待って。
もう俺ってゾンビになってるんだよね。
ってことはもう大丈夫なんだ…ん?
近くにいるのって…不二?
しかも…顔色悪くないみたい…。
「はぁ…今日はとことん寝起きが悪かったね。しかも人に向かってゾンビだなんて…失礼だよ」
「あれ?じゃあじゃあもしかして…今の…夢!?」
どんな夢を見たのか全てを話した。
不二は笑って聞いていた。
「本当に怖かったんだから!俺達ゾンビになって…」
「あははっ!ゲームの影響受けすぎ!あ〜面白かったー!」
もう!人が真剣な話してるってのにさ!
バカにしてー。
でも…好きな人がゾンビになっちゃったらやっぱり銃で撃つなんてできないよね。
夢の通り、俺はきっと一緒にゾンビになる道を選ぶんだろうなぁ。
不二だったらどうするんだろー?
「僕も同じことするなぁ…だって英二のいない世界なんてありえないからね」
「本当?!…嬉しい!」
夢でよかった…。
あんな夢はもう、ぜぇーったい見ないんだから!!
これを機にゾンビゲームは封印することになりました、とさ。
