「何見てるの?」







英二に聞かれた僕は顔を覗き込まれた。

ただ空を見ていただけだった。
いや、正式には空のさらなる向こう…人間が辿り着けない領域を見ていた。







「…願い事していたんだ。僕の望みが叶いますようにって」

「え〜?こんな教室の窓んとこで?神社とか教会とか行かなきゃ駄目でしょー」

「そんなことないよ。いつも願い続けているんだ…そうしたら願いも叶うんじゃ ないかって」







また空を見る。
神様にお願いして何かあるかなんて…思わない。
でもこの気持ちは止められない。
…好きになってしまったら…誰にも止められない…止められないんだ。

ふと君に笑いかけてからまた空を見た。

この世の中は僕が生きるには窮屈すぎた。
狭い価値観に縛られ、自由を主張したくても出来ない。
何も自由なんかない。







「…授業ってまだ始まらないよね」

「え…うん。どこか行くの?」

「ちょっとね…」







特に行き先は伝えない…今は一人でいたい。
君が側にいたらまた破裂する。
僕の身体に入ってる風船が大きい音をたてて破裂してしまう。
破裂したら僕は死んでしまうよ。
だから今日はこのまま一人にして。







英二を置いて僕が向かった先は…図書館だ。
本が読みたいわけじゃない、静かに、一人で、籠りたい。

つらい。

伝えたいのに伝えられない。
意気地無しの僕、この気持ちに気付くまでは普段通りに過ごしていたのに。
ひどい有り様だ。
今の僕は何も出来ない人間…


君を見続けて、追い掛けて、堂々と君を見ることが出来ない。
いつから挙動不審になったんだろう。
前はこんなじゃなかったのに。


前みたいに話したいのに…!







“神の存在”

と書かれた本があった。
キリストの教えなどが書かれていて、黙示録には難しそうな言葉が連なっている 。
さっきから僕は何がしたいのかな…自分でもよくわからないよ…。

英二のことがこんなに好きになってしまうなら…いっそ告白でもしてしまった方 がいいのかもしれない。
あぁ…この本を読んでも恋愛について書いてあるわけじゃない。
神がいるなら…僕の味方をしてくれるんじゃなかったの?
なんだか…疲れた…もう考え込むのは嫌だ…







「不二?!まだ本読んでたの?!もう授業始まっちゃうよ」

「もうそんな時間?…なんだか授業受けたくないや…僕は休むよ」

「え…出ないの…?」

「うん…もういいや」









英二の顔が見れない…好きなのに、好きだから…じれったい…もう無理かも。







































「英二…好き」

















































その一言で空気が凍った気がした。
相手の表情だとか何かが変わった。
言わなきゃよかった。

言わない方が今の関係だって壊れなかった。
手を繋いだり、抱き合ったりできなくても…今まで通りに過ごせた。
僕はどうして先走ったんだろう…。
焦っちゃいけなかった。

怖い、英二の顔が見れない。








「え…あ、友達なんだから好きだってことでしょ?うんうん、わかってるって〜 そんなこと」

「ち…ちが…」

「ぼけっとしてないで行こうぜ!早く〜」

「だ、だから…」

「…おいてくよ〜」







僕の話は完全に流された。
聞く耳を持たず、とはこのことなんだと思った。
英二は関係を壊さないためにあえて僕の話を聞かなかったことにしたんだ。
流しちゃえば今まで通りに過ごせるしね。

…今まで通りに───







何故だろう…床に水溜まりができてる。
水道なんて近くにはないのに。


誰かが水筒の中身でもこぼしたのかな…



苦しさがこみあげてきた。
胸が痛くて、視界は涙でぐちゃぐちゃ。
床に手をついて…倒れかけた。
関係が壊れなかったんだからまだよかったのかもしれない。
でも…でも…今みたいにスルーされたってのは…やっぱり僕を友達としてしか見 てくれていなか…







「不二!!」

「え…?」

「…俺の方がもっと大好きだよ!!」

「う…そ…」

「だから!もう、泣くなよ!!!!」







もっと涙が溢れた。
今の言葉…嘘じゃないよね?
夢じゃないよね?







「お、お前イキナリ告るとか…びっくりするじゃんか!こ、こっちだって心の準 備が必要だっての!!」







信じられない…てっきりフラれたと思ったのに。
ダメだと思ったのに…!!!







「え…いじ…」

「そんなに大泣きするなっての〜!もう〜不二らしくないよん!!」







神様、味方をしてくれないと嘆いてごめんなさい。
僕はただ一人で空回りしていただけみたいだ。
ありがとう…神様。

でも一番に感謝しなきゃいけないのは…神様よりも英二だ。