※不二は既婚者、英二は未婚者です。
女がらみの話があるので不快に思う方は読まない方がいいかもしれません。






いけないとわかっていながら俺はあいつが好きだ。
あんなやつ本当は最低なのに、最悪なのに。
でも好きになっちゃったんだもん。
もうどうしようもないよ。






あいつは奥さんのいる男だ。
だからあっちは不倫してやんの。
まだ新婚なのにだよ?
信じらんない。
そういう俺だって妻がいるの知ってて不倫してんだから大きい口は叩けないけどさ。

でも…もうじきあいつはパパになるんだ。
だから俺とは縁を切れって何度も言ってんのに。
切りたがらない。
まぁ俺は所詮不倫相手だし、女じゃないから妻に脅しかけて奪い取ろうとか浅はかなことは考えない。
そういう面では都合がいいと不二も思ってるはずだ。

そんな不二に対して怒りを覚えないのかって?
怒りはない。
ただムカつくだけ。






「はい、もしもし…。うん、うん…アップルホテル?東口の…わかった。夜9時ね。じゃあね」






あいつは仕事で出張と言いながら俺と密会してる。
でも奥さんは不倫には全く気付いていない。
普通の不倫なら口紅とか下着とか長い髪とか…女の影が見え隠れするんだろうけど、残念ながら俺は化粧もしないし香水もつけない。
以前ふざけて口紅をつけようとしたら猛烈に不二に怒られて。
それ以来何もしない。
してない。
ただ会ってセックスするだけ。
たまに俺にネックレスくれたりするけど…。

昼間はデートできないし(互いに仕事してるからってのもあるけど)、時間を作るにはやっぱり夜しかないわけで。
こんな関係はあいつが結婚してわずか一週間で始まったんだ。
そして今日で三ヶ月になる。

俺は電話で話した通り、アップルホテルへ入った。






「やぁ英二。今日はスーツ?珍しいね」

「相変わらず不二はスーツだね〜。様になってて羨ましい。俺なんかがスーツ着てても似合わないだろ?」

「そうかな?新鮮でいいと思うけど…でもやっぱり僕は花屋のエプロン姿が英二らしくて好きだな」

「あ〜あの店もうやめたんだーってかやめさせられた。だから無職なの〜。今は就活中だよん」

「そっか。それでスーツなんだね。もしだったら僕が紹介するよ、仕事」

「…じゃあついでに婚活もしよっかな。不二、女紹介してよ」






不二が黙った。
今の俺の言い方、超嫌みっぽく言ったからね。
もちろんわざと言ったんだけど、不二は目が泳いでる。






「嘘だって!言ったじゃん、俺は結婚しないって。女に興味ないし。婚活なんてしないよ!」

「そうなのかい?でも…真剣に考えた方がいいよ、英二。こんな中途半端な関係を保ち続けている僕が言うことじゃないけど、世間は…」

「あーあー嫌だなー!結局、世間体気にしてんだもんな!何がバイだよ、都合よくね?妻がいて子供作ってとりあえず自分の人生は良くみせようみたいな。マジで最悪。不二にとって俺って何。来月になったら離婚する?そう言って三ヶ月経ったけど話なんか全然進展してないじゃんか!」






つい爆発してしまった。
言っちゃったよ…。
結局俺もその辺にいる女と変わらないや。
そうだよ、一刻も早く不二の目を覚ませてわからせてやろうだなんて考えてた。
奪い取って不二が俺のものになればいいと思った。
離婚してとさりげなく言ってばかりでさ。

…さっさと不倫なんてやめてしまえばよかったのにね。
俺が嵌まっちゃって。
やめられなくなってた。
恋は盲目って言うけどまさにそう。
家族を省みないなんて最悪だけど、不二が好き。
なんで好きなんだろ。
ルックスはもちろん、やっぱり日頃の悩みを聞いてあげてるうちに惹かれるんだと思う。






「ごめん不二…今の聞かなかったことにして。俺、やっぱり不二が好きだから不倫って関係はやめられないんだ…」

「それは僕も同じだよ。そして英二が不満に思っていることも知っていたよ。だからね…」






不二はカバンから何かを取り出した。
取り出されたのは破れた離婚届だった。






「結婚したばかりで受け入れられないと彼女が破ったんだ…でもだからって僕は諦めないよ。今度はもっと冷静に話す。…ちなみにパパにはならないよ、僕」

「え…だって奥さんが言ったって…不二頭抱えて悩んでたじゃん」

「気を引くための冗談さ。籍を入れた日に記念にやりたいって言って半ば彼女が襲ってきたんだ。一回ヤっただけで妊娠するとは思わなかったから焦ったけど、医者に診てもらったら違ったらしい」

「…やっぱお前サイテー」

「なんで!?ちゃんと避妊だってしたんだ。まだ子供作る余裕ないって。なのに妊娠したっていうから…」

「はぁ…聞きたくない」






ないわけないな、と思ってはいたけど不二は女も抱こうと思えば抱けるんだ。
ちょっとげんなりした。






「もう僕はホテル暮らしするつもりなんだ。家には帰らない」

「え?!いいの…?ってか大丈夫なの?」

「あれ、喜んでくれないの?口だけじゃ示しつかないから行動に移したまでだよ」

「そうなんだ!よかった…」






俺が安心すると不二は俺をぎゅっと抱き締めた。
吐息が耳にかかって恥ずかしかった。






「英二につらい思いをさせて悪かった。でももう大丈夫…僕は英二以外の人間と関係なんて…二度と持たないから。少し寄り道をしてしまったけれど、こんな僕でも一緒にいてくれる?」

「…もち!」






俺は不二に深くて甘いキスを落とされた。