俺は不二がいる図書室に向かっていた。
あんまり俺が授業中に居眠りばっかしてるから、先生に呼び出しくらっちゃって。
自分が悪いのは百も承知だけど、少しでも不二と長く一緒にいたいってのに先生も酷い!とブツブツ喋りながら図書室へ向かう俺。
不二が待ってるから急ぎ足で中に入った。
不二を見つけると、不二はさらさらの髪を緩やかな風になびかせながら、ゆっくりと本のページを捲っていた。
こちらに気付いて優しく微笑む不二。
俺はこの不二の微笑みがすごく好きだ。
「おまたへ不二!も〜ごめんねぇ!俺が先生に見つからなければ済んだ問題なのに…」
「そういう問題じゃないでしょ?英二が寝ちゃって授業を真面目に受けないのが問題なんだから」
「そうだけど…だって眠いんだもーん」
「フフッ…やれやれ…」
俺達が楽しく話をしている中、どこからか突き刺すような視線を感じる。
あまりに鋭い視線は背筋が凍る上に嫌な予感がした。
でもこれは事実で。
俺の視界に入ったのは、ずっと前から不二と付き合いたいと言っていたクラスの女の子で。
その子は右手に刃物を持っていた。
走る先は俺じゃない。
不二だ。
「ふ…不二ぃぃ!!!逃げてぇ!!!!!」
この子は突然俺に声を掛けてきた。
ほとんど喋ったことのない女の子だ。
理科の実験のときとかに一緒の班になったからちょっと喋ったりしたんだっけ、くらいにしか記憶にない。
でも身長が低く、可愛い容姿だから小学生みたいで好きなヤツは好きらしい。
まぁ俺は興味ないけど。
『なんか用?』
『私、不二君が好きなんだ』
『あぁ…そうなんだ』
『だからね…私、許せない。菊丸君が不二君と付き合ってるだなんて』
刺すような視線を覚えたのはこのときだ。
彼女はこんなにも表情を変えられるんだと思ったら、女の子って案外怖いんだって思った。
そのとき、女の子は俺に言い放った。
『あなたの大事なものを奪ってやる』
と。
俺は女の子が何をする気でいたのか知らなかったし、検討もつかなかった。
てっきり自分磨きでもやって、俺から不二を横取りするのかとか…その程度にしか考えなかった。
まさか…殺しに来るとは思わなかった。
不二はすぐさま交わし、なんとか彼女を取り押さえようとした。
だけど凶器は上手く手から外れなくて…女の子は不二の腹に刃物を突き刺した。
「い…いぃ…やあああああぁぁぁぁぁぁ───────────!!!!!!!!!!!!!!!」
「言ったでしょ。私から不二君を奪ったんだから同じ苦しみを味わえばいいんだよ…」
床に広がる深紅の液体は不二を取り巻くように流れていく。
わかっていたのに、あらかじめ不二に話しておけばこんなことにはならなかったかもしれないのに…!
「菊丸!!!廊下で立ってろ!!!」
「ヒィッ!な、なに…?」
「エージ…」
「ふ、ふ…不二ぃ?!!!!生きてたの!?」
「…は?」
「なーに訳わかんねぇこと言ってんだ菊丸!早く廊下に出ろ!!!」
どうも俺は夢を見ていたらしい。
しかも授業中。
それどころか寝言を叫んだらしく、授業にならなかったらしい。
もはや人に迷惑まで掛けているという…
さすがにマズイと不二も起こしてくれたみたいだけれど起きなかったとか。
どんだけ俺は起きないんだよ…
しかも罰として廊下に立たされるなんて!
まるで昔の漫画みたいな展開…しかもクラスの人達にまで笑われて恥ずかしいったらありゃしない!!
授業を終えてようやく教室に戻った俺。
クスクス笑いながら俺を見ていたのは、紛れもなくちゃんと生きている不二だ。
「不二ぃ〜…」
「お疲れ様。大変だったね…今までにないくらいの爆睡で僕も驚いたよ」
「だぁって…あんな夢…」
「酷くうなされてたね…英二が見た夢ってどんな夢?」
俺が話すと不二は腹を抱えて笑い出した。
深刻な夢なのに笑い出すから俺はムキになって言った。
すっごく怖い夢だったんだから!!って言ったら不二は今度真剣な眼差しになって俺の頭を撫でてくれた。
俺、不二に頭撫でてもらうの…大好きなんだ。
「僕がそんな簡単に殺られると思う?」
「う…」
「ね?英二が見た悪夢はもう喋ったから正夢にならないし、そもそもあっさり殺られるような僕じゃないからね」
「確かに…」
「そんな怖い夢見ちゃったなら今日とか寝るの怖いんじゃない?もしだったら僕の家に泊まりにおいでよ。僕と一緒なら怖くないでしょ?」
「なっ…!(まさかこれを口実にするとは!)」
「じゃあ決まりね!」
俺が見た夢なんかより、これから起こることの方がずっと悪夢かも…
なんて口に出せないので心の中で思ってみたり。
ナイトメア=悪夢
だそうなので、日本語に置き換えて書いてみました。
