※ちょっとグロなパラレルです。
嫌悪感を抱く方は読まない方がよいです。
ある深い森に可憐で綺麗な姫がいるという。
それはそれはとても美しい姫で、見た者は皆一目惚れをしてしまうらしい。
しかしその森に入った者はほぼ帰って来ないまま行方不明になっている。
唯一帰ってこれたのは手塚国光という男だけだった。
彼も多くの危険にさらされたようだが、誰もが戻って来ないと諦めかけていたので皆驚いていた。
しかし数日後、異変を感じた手塚は寝込むようになり、遂には眠りから覚めなくなった。
やはりあの森に入ったせいだ。
と、少なくとも僕はそう思っていた。
森に誰かがいた、とわかったのはある部隊の目撃によるものだった。
最近では近辺に多くの猛獣が現れ、人間に危機をもたらすとして恐れられていた。
民家にまで被害が出ているのに黙って見ていることはできない。
そこで僕達は猛獣の始末を任命され、見事命令を果たしたのだが。
今度は猛獣ではなく、人間がいると噂され始めた。
嘘を付いているんじゃないか、など言い争いが始まり、真実を確かめるべくして何部隊もの人間達が森に入ったというのに。
部隊はほぼ全滅という、前代未聞な事件となってしまった。
剣術を学んでいた僕は背後に立つ人物を鏡越しに見た。
越前リョーマだった。
「不二先輩…森には死体がごろごろと転がっているんすかね」
「わからないよ…だけど僕は真実を確かめたい。手塚も意識が戻らない状態のまま、この事件を放置なんてできない。必ず…皆を助けたい」
「…俺と行きます?」
「本気で言っているのかい?」
「俺はいつでも準備できてますから、用意ができたら声を掛けて下さい」
眈々と話す越前は部屋を出ていった。
何が起こるかなんてわからないのに…だが僕だって弱気になっている場合ではない。
そのためにも今剣術を磨いていたんだ。
たとえ、もうこの場所に戻って来れないかもしれない。
それでも構わない。
手塚が意識を失う前に言っていたこと。
姫は清らかに初めは眠っていた、しかし猛獣が現れたために一人が銃口を向けて猛獣を射殺した。
突然真っ暗になり、何が起きたのか認識出来ぬまま地面を見ると…
恐ろしくなり手塚はその場から離れようとしたが、何者かに首を絞められそうになったと話していた。
理解したくても逃げるのに必死で考えている暇はなかったとか。
僕は手塚が生きて帰ってきたことに喜んでいたけれど、周りの人間は裏切り者だとか、仲間を捨てたなど悪く言っていた。
同じ仲間でありながらそんな言葉しか放つことはできないのか、と僕は呆れ、そして悔しかった。
僕は準備をして越前と森に向かった。
この先に眠り姫がいるならば全てを知っているはずだろう。
脅してでも仲間のありかを話してもらうつもりだった。
それなのに僕としたことが。
越前とはぐれた。
これは帰れる見込みがなおいっそうなくなった。
所詮僕はあの町の一剣士に過ぎない。
命令外で勝手な行動をしたのだから罰が下るのもわかっている。
それでも…僕は行かなくてはならない。
迷いながら進む。
もう何処なのか全くわからない。
足に何かつっかえたので地面を見た。
これは…越前の剣…。
越前は何処にいるのだろう。
生きているかもわからないまま歩むと、うっそうとしている空間にただ一つだけオーラの違う空間があった。
そこには女のような姿の…男がいた。
一瞬女だと思った。
だけど違う。
彼には見覚えがあったから。
彼は…僕の旧友、菊丸英二だ。
姫のような姿で静かに眠る英二は僕がいるのも気付かないくらい、深く眠っていた。
しかしそのとき、僕の背後から全て始末したはずの猛獣が現れた。
もういるはずはなかったから剣を出すのが遅れ、腕に傷を負ったものの、猛獣を殺した。
僅かながらに英二が動く。
英二が目を覚ました。
「えい…じ…っ…!?」
「やっと会えた…不二、久しぶりだね」
眠り姫は英二、君のことだったのか。
どうして君がこんな姿でこんな森にいるんだ?
英二はしなる鞭を取り出すと僕の体を縛り付けた。
「英二…!なぜっ…!?」
「俺さ…ここで待ってた…不二がいつか来てくれるって思って。でも来るのは猛獣を撲滅しようとする輩ばかり。…あの猛獣達は俺の仲間だったんだよ?」
「英二…君は…」
「俺はこの森の猛獣使いなんだ。猛獣だって上手く扱えば人間に悪さなんてしないんだよ…でも人間は危険だからと全て射殺しようとする。剣で切る。斧で砕く。…俺は人間が大嫌い」
英二は涙を一粒溢した。
美しい姫だという噂は確かに間違いではなかった。
しかし。
人間が嫌いと言われたからってそれは認められない。
こっちだって命懸けでやっているのに…現に仲間は帰ってきていない。
「僕に会いたくて猛獣を放したのだろう?そのせいで何人が死んだと思っているんだ?君のやっていることは間違っているよ!」
「不二…」
「早く放せったら!いつまでこうして縛るつもりなんだ…うっ…!!」
僕を縛る鞭は時間が経過する度に締め付けが強くなっていく。
あまりの痛みに耐えられず、僕は地面に倒れた。
それまで気付かなかったが、視界に入ったのは越前の顔。
越前は既に動かなくなっていた。
「不二に見てもらいたくて、ずっとこの格好してたんだよ。昔より可愛くなったでしょ?薄汚れちゃったけどね」
「英二!!」
「苦しんでる不二って昔からあんまり見たことなかった」
「英二…っ!!はなして…っ!」
「俺、欲しいのは不二だけなの。不二…愛してる」
「えいっ…!?」
唇に柔らかい感触があった。
それと同時に僕の体からバキバキッと折れる音がして、気を失った。
それからこの森に近付く者はいなくなった。
