時は30世紀末。
本来なら僕は死んでいるはず。
でも僕は生きている。

生きている。















10世紀前までは普通の人間だった。
中学生だった僕は、ある帰り道に赤装束の怪しい軍団に取り囲まれて変な薬品を かがされて…。

気が付いたときに足がフラフラして切り傷をつくってしまった。
そのとき、傷から血が流れなかったのを見て僕は非人間になったのだと知った。
それでも痛みは感じるから嫌ではあったけれどナイフで自分の皮膚を切って中を 開いてみた。

肉や血、骨もなく…存在していたのは配線コードらしきものだった。
僕はアンドロイドになってしまっていた───







当然の如く僕の知っている人物は誰一人いない。
皆死んでしまったのだ。
こんなことならさっさと死んでしまいたかった。
自分の知らない世界───世の中全てが変わってしまったんだ。
愛していた人もいない。
自分だけが永遠に生かされる運命…酷くて辛いだけだ。
僕の生きる世界はこんな場所ではないと何度も命を投げ出そうとしたけれど、そ の度に修理されては完全に直されてしまう。
研究材料として僕はずっと生かされていくんだと思ったら…泣きたくなった。

でも僕に涙なんて流せない。
水分なんてないし、僕は食事も風呂もいらない完全なるロボット。
もはや感情もなくなってしまえばいいのに。







毎日人が変わり、研究員が僕を調べに来る。
逃げたい…誰か…ここから出して!!















乱雑な部屋に入れられてやらされたことは整理整頓・掃除だった。
人間でなくなってから身動きが上手くとれなくて日常生活にある当たり前のよう なことができないときがある。

それを研究員達は調べようとしているみたいだ。
僕は永遠にこのままなのだろうか。







部屋の片付けを終えると休憩に入る。
研究員達の目を盗んで、前から気になっていた隣の部屋を覗きに行った。
誰もいなかった。

部屋の奥は棚があって書類やらファイルやらがあった。
ロボットかなんかの資料として保管されているんだろう。

一枚だけふせんが付いていた紙を手に取った。



僕は自分の目を疑った。


そこに書いてあった名前は───菊丸英二だった…。
でも資料ナンバーの隣にある写真は何故か僕の写真になっていた。
間違えたのだろうか…ということは英二も僕と同じように研究材料にされている のかもしれない。
だとしたら…早く見つけだして一緒に逃げなきゃ!!

だけど変に思ったのがその資料の右上に赤ペンで×と書いてあるのが気になった 。
意味がわからないまま、その資料を元の場所に戻しておいた。
















わからない…確信は持てないけれど探してみる価値はきっとある。
上手く見つからないように行かないと。







今度やらされた項目は割れたガラスの始末だった。
手を切らないようにして片付けられるかチェックをするようだ。
細かいガラスがほとんどで拾うのが大変だけれど…大きいガラスを拾ったときに 僕は驚愕した。

ガラスに映った自分は英二だった。
どうして?!
僕は不二周助のはず…さっきの資料だってそうだ。


まさか───

僕達は体が入れ替わって…いや、記憶が入れ替わっているってこと…

もう何がなんだかわからない!
聞いてやる。
あいつらに真実を吐かせてやる!















「僕は誰なの?!英二は何処にいるの?!」







無言のまま時が過ぎる。
何故何も答えないんだ…英二は…







「資料室のケースが開いていた…やはり盗み見たのか。ロボットのくせに勝手な 真似はするな」

「教えて…英二は…」

「×の付いたものは失敗作…廃棄処分した」















廃棄…しょ…ぶん…
廃棄…







「人間としての記憶は消したはずだろう?…どうなっているんだ」







研究員が口にした言葉…僕と英二の脳を入れ替えたけれど失敗だったって?
一人は廃棄処分したけれど失敗作ならもう一人も処分すべきだった…?
こいつらは…何がしたいんだ…

僕は怒りにまかせ研究室を破壊した。
止めようとするものも全て潰してやる。

よくもこんな非人道的なことを…許せない…!

















ドサッ







「…もっと早く電源を切ればよかったんだ。次は失敗するな」

「すみませんでした、研究長」















所詮機械は人間に支配される運命なのか…

写真が英二で名前が“No.0229 不二周助”の資料の右上に×が加えられたのは言 うまでもない…