君が泣いた理由。
それは気持ちが一方通行だったから。
僕は隣で泣いている英二にそっと肩を寄せ、抱き締めた。
僕の胸で泣いていいよ、なんて気持ちの悪いセリフを吐いたりして。
英二は涙が枯れるまで泣き続けていた。
でも正直な話、僕は心の中で喜んでいた。
英二の好きな人を知ったのはかなり前。
一緒にテニスをしているのだから流れでそうなるのはわかっていた。
でもあっちは断った。
だから今英二は透明な雫をポタポタと流している。
僕なら間髪を入れずに付き合うと答えるのに。
何故あいつは断ったんだろう。
英二が男だからだろうか。
それともパートナーとしか見れないからだろうか。
僕は羨ましすぎてあいつを憎みたくなる。
暫くして英二は落ち着いた。
だけどその表情は枯れ果てた植物のように元気がなく、涙は止まっていても目に輝きはなかった。
元気で、天真爛漫な英二が今はその欠片もなく、静かで別人のようだった。
僕は何か声を掛けてあげたかったけれど、英二に何を言ってあげればいいのかわからなかった。
その時英二から口を開いた。
「不二はさ…フラれた事ある?」
「いや…ないよ。僕から告白する事がないから」
「そっか…そうだったね。不二ってずっと誰とも付き合わないよね。…好きな人とかいなかったの?」
好きな人はいたよ。
いや、いるよ。
でも言えるわけないだろう。
僕はずっと隠し通してきたんだ。
気付かれたら…僕の思いを知られたら僕達の関係はそこで終止符を打つことになる。
だから黙っていた。
君に知られないように、普通の友達みたいな付き合いを続けた。
僕は言葉を濁して英二を抱き締める。
こんなときでないとできないから。
僕はね、こんな下心を抱えて英二と接しているんだ。
最低な男だよ。
でもね、もう少しだけ抱き締めさせて。
もう少しだけ気付かないでいて。
軽く君の首に口付けるとビクッと英二が反応したのがわかる。
ねぇ英二。
僕じゃ…ダメ?
「不二…くすぐったいよ」
「…ごめん」
「うん…いいんだけど。あの、ところでさ…今日…不二ん家泊まってもいいかな。一人になると嫌なことばかり考えちゃうから」
「あぁ…いいよ」
理性を保てるだろうか。
傷心しているところを狙うなんて僕はフェアじゃない。
汚いやり方。
でも。
巡ってきたチャンスを捨てたくないから今日は英二を抱いてしまうと思う。
「不二」
「ん、なんだい?」
「…なんでもない」
「言いかけてやめたら気になるよ」
「うん…ごめん」
英二は俯いて涙を拭う仕草をした。
拭うと僕を見つめてくる。
泣いたせいで英二は目が赤く腫れている。
英二は僕の胸にそっと頭を預けて、まるで猫のように振る舞う。
どうしたらいいのかわからない。
英二は僕を試しているのだろうか。
それともただ甘えているのだろうか。
突如ガタッと音がした。
僕が英二を押し倒した音。
そして僕の理性が崩壊した音───
もうそんな雫は落とさなくていいから。
どうせなら…僕のために涙を流して。
