僕はもう手放せなくなっていた。
いつも持ち歩いている。
それは消毒スプレー。

もう嫌な思いはしたくない。

















誕生日やバレンタインデーの時期になると靴箱が恐ろしいことになる。
俗に言う、プレゼントだ。

始めは女の子からプレゼントなんてもらっていいのか困った。
でもせっかくくれたんだし、受け取らなきゃと思って家に持ち帰ったのだけれど…。

内容物に恐怖を覚えたのは今でも鮮明に記憶にある。


手作りのお菓子に髪の毛がごっそり入っていたり、明らかに使用したと思われる下着が入っていたり…
もっとすごいのは何百万するのかわからない腕時計が入っていたりして…体の震えが止まらなかった。


こんなの…もらえるわけないじゃないか。

しかも誰のだかわからないへその緒まで入っていた時は…思わず吐いてしまった。

プレゼントとというより嫌がらせにしか思えなかった。
こんなものもらって僕が本気で大切に保管するとでも思ったんだろうか。
気持ち悪くてほとんど捨ててしまった。
中には名前がちゃんと書いてあるものもあったから返せるのは返したけど…。


それからというもの、女の子は怖い対象になった。

突然腕を掴まれて「青学の不二さんですよね?!」なんて言われても何を話せばいいんだ。
僕は会話なんてしたくない。
だからすぐに手を振り払ってその場を後にした。

そして…掴まれた箇所に消毒スプレーを吹き付けた。

僕を…汚さないで。











ある日英二と話していた。
僕のスプレーに興味深々だった。
持ち歩いている理由は話してあるけど、英二には不思議に思えるらしい。





「そーゆーの強迫精神症っていうんじゃなかったっけ?」

「それをいうなら強迫神経症だよ」

「あれ?そーだった!」





英二に触られたって何も怖くない。
嫌だと思うどころか、もっと触って欲しいと思う。
嫌なのは女の子だけなんだ。











午後の授業は体育でバスケットボールだった。
ボール係だった僕はボールをしまうため用具室に向かった。

何か気配がした。


気付いたときには用具室のドアは閉められていた。
女の子が一人立っていた。
その子は以前僕に手紙を送ってきた、同じ女の子だった。
内容はまさしく告白したいから呼び出したというもので、関わる気のなかった僕はスルーしていた。
何度か手紙が入っていたけれど、僕が来る様子のないことを察知したのか直接話し合うつもりらしい。
僕はドアに手をかけた。
しかし外から押さえ付けられているのか開かなかった。





「不二くん…私の話聞いて」

「…いや、それよりドアが開かないんだけど。早く戻らなきゃ」

「好きなの!…私と付き合って」





ほら来た。
絶対言うと思った。
僕は英二と付き合ってるのに。
皆薄々気付いてるのに。






「僕は君に興味ないよ」

「一回だけでもいいから…抱いて!!」





上の体操着を脱いだ女の子はブラジャーのまま僕に抱きついて押し倒した。
抵抗したいけど下手に触りたくなかった。
触れたところから汚れていく気がして…。

なかなか僕が戻ってこないことに異変に思った教師が用具室を開けてきた。

女の子からやっと解放された。
その女の子は教師に叱られていた。
外でドアを押さえ付けていた女の子の友達も一緒に叱られていた。






「不二〜!大丈夫だった?もう!不二がいくらカッコいいからって授業中に襲うなっての!!」

「…今日、英二の家に行っていい?」

「へ?あ、うん…」





僕はまた消毒スプレーを全身に吹き付けた。
僕がさらに汚れていく…。










英二の家に行って、たくさん英二を抱いた。
もう英二と…ずっとこうしていたい…。





「あ…んっ…ふじ…ぃ…はぁ…っ…いたっ…!」

「ん…っ…英二…えい…じ…っ!」







いつもより荒々しいやり方になった。
イライラしていたのかもしれない。
英二に対してではなく、今日のことで。





「はぁ…今日の不二…激しかった」

「ごめん…痛かった?」

「だいじょーぶ…激しいのスキだもん」

「やらしいね、英二は」

「うっ…うるさいなぁ///」





英二にまたキスをする。
ベッドは僕らの汗とかでグチャグチャだった。
これを見たって汚いとは思わない。







「不二…今日のことは気にしない方がいいよ」

「わかってるよ…気にしない」





また僕らは抱き合った。

















翌日学校に行くと女の子達は他の女子から責められていた。






「あんた、相手にしてもらえるって本気で思ったの?バッカじゃない?」

「私は…好きだったの!相手にしてもらえないことぐらいわかってた。でも…あのくらいやらなきゃ近付くことだってできなかったし…」

「不二くんは皆のものなの!あんただけのものじゃない!!抜け駆けした罰だから!!!」





リーダー的存在の女子は黒板消しで女の子の頭を叩いていた。
チョークの粉が舞って真っ白になっていた。







「うわぁ…女子って怖いね。あの子確か…不二ファンクラブのリーダーだよ」

「英二!ファンクラブ…僕の?そんなものあったんだ…」





英二の話によると、ファンクラブの掟の一つとして抜け駆け禁止という項目があるらしい。
リーダーの女子だけでなく、他の女子も加勢していたために集団的ないじめに見えた。

大体ファンクラブって何なんだ。
僕はそんなもの知らないし、勝手に作らないで欲しい。
もうこんな思いはしたくない。

僕は消毒スプレーを粉の舞う女子の集団に撒いた。






「ゲホッ…ゴホッ!!!何するのよ!一体誰が…!!」

「ちょっ…不二?!な、何して…」







英二の制止を振り払い、ファンクラブの女子達のところへ行った。
リーダーの女子は慌てて粉を払った。





「ふ…不二くん!」

「あのさ…もうやめてくれないかな」

「…!この子をかばうの?!」

「かばってるんじゃない。そもそも僕は興味ないからね…女に」





一瞬沈黙になった。
僕の言っている意味がわからなかったんだろう。
じゃあわかりやすく説明してあげるよ。
英二の腕を掴んで肩に腕を回した。
英二は固まって動かない。









「紹介するよ。僕の恋人」

「え…?えっ?わ、わ…やめて…よ…恥ずかしい……」







開いた口が塞がらないようで女子達は呆然としている。
英二はどうしたらいいかわからなくて困っている。
僕は真実であることを示すために英二の唇にキスをした。





「きゃあぁぁぁぁーっ!!」

「嘘…」

「うげっ…マジだったのかよ、あいつら」





周りの反応なんて気にするものか。
英二に絡み付くように僕は抱き締める。
失神して倒れた女子もいた。

そうだ。
これでいい。
いつまでも事実を隠すから面倒なことになるんだ。
急に思いついてやったから英二には後で謝らなきゃ。

















「もうっ!不二のばかぁ!言うつもりなら最初から言ってよ!」

「ごめんごめん。もう頭にきちゃって考える余裕なかったんだ。でも…これで女子達はファンクラブを解散するみたいだし、僕が英二を好きってわかってるから近付く奴はいないさ」

「それはそれで安心だけどさぁ〜」





僕は鞄に入っていた消毒スプレーを手にするとゴミ箱に捨てた。






「あれ?もう捨てちゃうの?」

「うん、もういらないよ」





僕は英二に微笑んだ。
安心した毎日が送れるように祈っておこう。