季節がどう、とか俺には関係なかった。
不二がいなきゃなんの意味もない。
春は出会いと別れの季節。
でも俺には別れしかない。
夏は思い出作りの季節。
不二がいなきゃ思い出は作れない。
秋は自然や文化に触れる季節。
一人じゃ何をしても楽しくなんかない。
冬は暖かい部屋で新しい年が来るのを待つ季節。
新しい年が来たって俺の身辺に変わることなどない。
さよなら、なんて簡単に言ってアイツは知らない土地に引っ越した。
俺はずっと東京にいてくれるものだと思ったし、青学の大学に行くと思っていたから。
悲しすぎて涙も出ない。
連絡だって寄越さない。
俺のアドレスだって知ってるくせに。
いつでもメールも電話もしていいからって言ったのに。
…なんで音沙汰無しなんだよ!
お前にとって俺は…どうでもいい奴だったってことかよ…!
それとも…俺が嫌いなの…?
不二が突然引っ越した日から一年が経った。
相変わらず俺とは連絡をとってくれない。
メールも、電話もしているのに。
もちろん俺は不二の彼女とかなわけじゃないから連絡を毎時間、毎分、毎秒して欲しいなんて言わない。
出来ればして欲しいけれど、そんな無理を言いたくない。
俺はただメールくらい返してくれてもいいのに、と思ったんだ。
でも何一つ返信はなくて。
最初は忙しいのかなって思ったけれど…たぶん俺のことがうざくなったんだと思う。
不二は過去を振り返りたくないんだと思っていたのに、あるとき手塚や大石から不二のメールが届いたと聞いた。
なんで。
どうして俺のときはメールを返してくれなかったのに、手塚達には返すの。
やっぱり…俺が嫌いになったんだ。
俺はまともな返事をしないままに手塚と大石から離れて家に帰る。
とても授業なんて出られない。
「うわあぁぁぁ―――――!!!!!!!」
家に帰って叫んだ。
近所からすればいい迷惑だと思う。
不二を好きになって、でも自分ではその気持ちに気付かないフリをして。
…だって不二との友情が壊れたら、もう俺は生きていけない。
気持ちを知られないように必死に隠してきたんだ。
でも…いつの日にかバレたのかもしれない。
だから俺には連絡をしないの?
嫌いだから?
もう関わりたくないから?
涙は勝手に溢れ出す。
手の甲で涙を拭い、近くにあったクッションに顔を埋める。
顔を空気に晒しているといつか砂になって、脆く儚く崩れてしまうんじゃないかって思ったから。
そのとき、突然…俺の携帯が鳴り出した。
着信画面を見て自分の目を疑った。
不二からの電話だった。
おそるおそる通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた。
『もしもし…不二だけど。…英二だよね?』
「…不二っ!」
久々に聞いた不二の声。
綺麗な低めの声が俺の心臓に火を付けた。
以前よりも不二は声変わりをしていて、不二がしゃべる度に俺はドキドキした。
『まず…英二に謝りたかったんだ。ずっと連絡くれていたのに返さずにいて…本当にごめん。僕…悩んでいたんだ。君のことでね…』
「俺のこと…?もしかして…俺のことが嫌いだから?」
『な…何を言っているの…?!嫌いなわけないだろう?!僕は英二が大好きだよっ!!』
「え…?」
『僕はっ…ずっと…好きだった…何年も…ずっと…春も夏も秋も冬も…ずっと…ずっと君を見ていた…でも…本当の気持ちを伝えたら…英二に嫌われると思ったから…』
不二は電話口で泣いていた。
苦しんでいたのは俺だけじゃない。
不二もずっと悩んでいたんだ。
不二だって俺と同じように気持ちを隠し通してきたんだ。
俺も苦しくて次の言葉が思い付かなくて、どうしたらいいか悩んだ。
だから今の思いをそのまま伝えた。
「不二…今度…こっちに…こっちに戻ってきて…不二に会いたいよ…会いたい…」
『もう…戻ったよ』
「え…?」
玄関からチャイムのベル音がした。
まさか。
嘘だと思ったけれど玄関がタイミング良く鳴ったってことは…。
俺は玄関に行き、ドアを開けた。
ドアの向こうには…携帯を耳に当てた不二が立っていた。
不二はにこりと涙を浮かべながら笑う。
「英二…ただいま」
「不二っ…!」
「もう僕はどこにも行かないよ…ねぇ英二、僕は英二の側にいていいんだよね」
「当たり前じゃんっ…!!不二ぃ……おかえり!」
不二に飛び付くように俺は不二を抱き締めた。
もうどこにも行かないで。
ずっと俺の側にいて。
不二がいなきゃ生きていけないから。
どんな季節も不二と一緒にいたいから…!
