※ハッピーエンドしか認められない方にはお勧めできません。
不二菊以外のCPがあります。
嫌悪感を抱く可能性が高いので、不二菊のみのハッピーエンドしか認められない方は読まない方がいいです。
ちなみに最後は前向きな終わり方になっています。


























そんなバカな。
僕はもう助からないかもしれない…













春になり、ピクニック日和の今日はテニス部員皆で山登りに行くことにしていた。
山登り好きの手塚は、表情からは読み取れないけど相当喜んでいるはずだ。

この企画をしたのは英二だった。






「だってさぁ、皆で遊びに行くのってなかなかできないじゃん?俺達だって高校生になっちゃってあんまり会えないしさ」

「でも山登りって…嬉しいの部長だけでしょ」

「…何だ、越前。不満か?」

「別に…」






ぽかぽかな陽気で山登り。
僕は悪いとは思わないけどね。
こうしていると関東大会決勝前の合宿の時を思い出す。
あの時は1年生もいたし、氷帝達と試合もしたんだっけ。
僕は忍足と試合していたんだ。
あの頃が懐かしい。







「ふーじっ!何考えてんのかにゃ?えいっ!」

「わぁっ?!ちょ…ちょっと英二!」

「へへーん!油断禁物〜♪」

「もう…英二ったら」






英二に背中を押された。
そんな英二が可愛くて仕方ない。
おちゃめで皆にも愛されて。
明るくて元気で僕とは対照的だ。
そんな英二を今すぐにでも僕のものにしたいのにできない理由がある。

英二は手塚が好き。
僕は知っている。
テニスの試合はいつも手塚に釘付け。
手塚が強いから、とかデータ収集したいから、とかじゃない。
あれは好意を持ったときの目だ。
他の人が試合をしているときはあんな恋した目で見ていない。
でも手塚は英二の気持ちに気付いていないみたい。
そこがまた憎らしい。
英二の気持ちに気付いてやればいいのに。
僕だったらすぐ気付けるのに。
そう思うと腹が立ってくる。
今回山登りの企画をしたのだって、手塚のことを思ってしたことなのに。






「俺の顔に…何か付いてるのか?不二」

「え?あっ…いや、何も」






思わず手塚を睨んでしまった。
いけない、いけない…敵意を剥き出しにしちゃ。
仮にも英二が好きになった人なんだから。
これじゃ僕が嫌な人だ。
僕はそこまで心の狭い人間なんかじゃないさ。






山登りで一体何をするのか?
ただひたすら山に登るだけだ。
おいしい空気が吸えていい景色が満喫できるのはすごくいい。
でもこれが楽しめないと思っている人達もいるわけだ。
それが桃と越前だった。






「あ〜…どこまで歩くんすかぁ〜…歩いても歩いても同じ景色でつまらねぇなぁ…つまらねぇよ…」

「てめぇは根性がねぇんだよ…ったく」

「なんだって?マムシ野郎が!」

「今何っつった…あぁ?!」

「「やんのかコラァ!!」」

「俺、テニスしたいっす」

「も〜!桃に海堂、落ち着いて!おチビもそんなこと言うなよ〜!山登るの楽しいじゃんか!テニスなんて家帰ってからやれよー!おチビん家立派なコートがあるんだし」






本来なら英二も山登りを楽しいとは思わないはずだ。
でも言わないのは手塚のためなんだろう。
僕はそんな英二を見て面白くはなかった。













山の頂上まで来ると、それは素晴らしい眺めだった。
この景色を見てさすがの桃達も感激していた。

山登りは楽しいと話していたところで、時間帯も夜になりつつあった。
頂上には小さな民宿があり、既に予約をしていた僕達はここで泊まることにした。







「今日は楽しかったね!手塚、また登ろうね」

「…あぁ。また皆で行きたいな」

「み、みんな?あっ…うん、そだね…」






英二は手塚だけを誘いたいんだろうね。
全くあのカタブツは何もわかっちゃいない。
英二がだんだん可哀想になってきた。
英二が枕を抱き締めてうつ向いていたとき、手塚は英二を気にせず僕に話しかけてきた。

僕じゃなくて英二に話しかけてあげればいいのに。






「不二、ちょっと月を見ながら散歩に行かないか」

「え?僕と?…うーん」

「月?俺も見たい〜。ねぇ手塚…俺も一緒に」

「すまない、菊丸。不二に話があるんだ。また後にしてくれないか」








うっわ…手塚サイテー。
空気読めないどころの話じゃないや。
英二はそう、と言って布団にもぐった。
耐えかねて僕は手塚に言った。






「英二も連れていけば…」

「いや…お前と話がしたいんだ。来てくれ」






そこまでして僕に何の話が?
わけもわからず僕は手塚と外に出た。

























散歩なんかじゃない。
僕は追い詰められていた。
逃げたい。
今の状況が信じられない。
手塚…君は…






「…俺はお前が好きなんだ」

「し、知らないよ!なんでそうなるの!」






まさかまさかまさか…手塚が僕を好き?!
勘弁して!夢なら覚めて!!






「お前を抱きたい」

「いやいやいや!やめて、僕は君に興味はな…」

「俺は…好きだ」

「僕は好きじゃない!…っ!?」






う…キスされた。

手塚ってこんなに熱い男だった?
昼間のときとは似てもにつかなくて…手塚の違う一面を垣間見た。

なんて言ってる場合じゃなくて。
助けを呼びたくてもこんな夜中じゃ誰も来てくれるはずないし…。







「抵抗しないでくれ…痛くはしない」

「…!!だからっ!僕は受け入れられないって!!」

「にゃにしてんの…」






う、うわぁ…英二に見られた…
もうおしまいだ…






「不二嫌がってんじゃん。手塚らしくない。離してあげろよ」

「…っ…わかった。すまない不二…今日のことはなかったことにしてくれ…」






手塚は去っていった。
英二が来てくれたおかげで助かった。
でも…英二は笑っていなかった。
それどころか泣いてしまっていた。
きっと…ショックを受けたんだろう。
僕はどうしたらいいかわからず、ただ呆然と立ちすくんでいた。






「手塚…やっぱり…不二のこと…好きだったんだ…」

「英二…」






手塚が僕を好きだと知っていたのか…。
僕は全く気付かなかったのに。
散々手塚のこと悪く言ってしまったけど、僕も手塚と変わらなかったんだね…。

心の中にあった灯火がフッと消えたようだった。
それは手塚も、英二も、僕も同じだ。
僕らは一方通行だった。






「英二…泣かないでよ…僕だって…僕だって…泣きたいのに…」

「え…?」

「…なんでもないよ。もう寝よう…ほら、戻ろう」






本当の気持ちを言おうとしたけどやめた。
それはさっき手塚がやったことと同じだから。
今の関係を壊したくないから僕はこれからも友達として英二と一緒にいようと思う。







「……っ……はやく…おいでよ…英二…」

「ふ…不二…?泣いてるの?」

「はやく…」






英二に顔を向けることはできなかった。
頬を伝う涙が英二に見られないように下を向いた。






でも僕は諦めたくない。
いつか英二に…この気持ちを伝えられる日が来ることを───
英二が僕を好きになってくれる日を───
僕は待ち望んでいる…