僕達は付き合って一年が経った。
始めは付き合うってこともよくわからないまま付き合って、手を繋ぐにも時間が
かかってしまったけれど…
最近じゃ慣れてしまったからか、お互いがお互いを想い合うような感情が薄れて
しまっている気がした。
もう一緒にいることが当たり前な状態。
空気のようだった。
干渉することもなくなって、英二が帰ってくるのが遅くても連絡することもなく
なった。
会議が延びたなんてわかりやすい嘘をついたって追求しなかった。
煙草を吸わない英二のスーツから煙草が出てきたり、最近僕らはしていないのに
ゴムがポケットから出てきたり…もう新しい恋人がいることはわかりきっていた
。
それでも君に仕置をしないのは諦めているからだろうか。
僕の鬼畜なやり方を嫌う、英二の気持ちを知っているからかもしれない。
僕から逃れたいのか。
いいよ、逃げても。
知らない男の家でもラブホテルでも何処でも行けばいい。
汚された君の身体は僕が綺麗にしてあげればいいのだから。
構わないさ。
だから今晩は僕の言う通りにしようね。
「イヤ…」
涙を溜めた潤いに満ちた瞳は、脅えた猫の目にしか見えなかった。
僕から逃げる。
正しい行動だよ。
間違ってなんかいない。
君は震え上がってドアノブに手をかけたね。
そこにはカッターの刃を仕込んでおいたから痛いでしょ?
ほら、血が流れてるよ。
早く血を止めないと。
僕を血まみれの手で突き飛ばしたからって助かると思った?
あ〜あ、まだ新品だったのに…シャツ汚れちゃったよ。
真っ赤じゃない…
泣かないでよ、床にしゃがみこんでどうするつもり?
僕は英二を怒ってるわけじゃないんだよ?
英二に素直になって欲しいんだ。
君はただ反抗期になった子供みたいにしか見えない。
噛みついた僕の腕は美味しいかい?
苦しみに耐えた汗の味しかしないだろ。
苦くて、しょっぱくて、辛くて───
馬鹿、気持ち悪いと罵った気分はどうだい?
スッキリした?
しないだろ、そんなんじゃ。
だからさっきから言ってるじゃない…
僕が…スッキリさせてあげる
「あぁ!!!!ンっ…ぁ…ひゃぁぁっっー!!!!」
悲鳴が聞こえる。
今、君の大事な所を握り潰しそうとしてる。
痛みだけが走るように。
僕の痛みが伝わりますように。
次は挿入されるべき所に折り畳み傘を突っ込んだ。
これね、軽量・薄型タイプだって。
この言葉…どこかで聞いたことあったよね。
ポケットに入ってたやつに書いてあった気がする。
英二の大好きなやつだよ。
これがないと嫌だって僕を拒み続けてたよね。
そんなに生が嫌だったの?
妊娠なんてするはずないのに、気にすることなんてないはずなのに。
これは僕に対する侮辱と受け取っていいよね。
だから今晩はこんなもの使わないよ。
いらない…いらないんだ、こんなもの。
英二の目の前で破り捨ててゴミ箱へ捨てた。
そのまま…僕をいれた。
痛がる君の声を思い出しながら作っておいたコーヒーを飲む。
それは酷い味で酸化した酸っぱいコーヒーだ。
コーヒーの持つべき本来の香りなんてものはなく、冷たくなった黒い液体にすぎ
なかった。
冷たいコーヒーは不味くて今の僕に唯一刺激を与えたものかもしれない。
最高の一日になったね。
素敵な毎日が過ごせるようにするから英二も協力してね。
…僕が憎いかい?
ならまだ大丈夫。
憎む気持ちがあるならまだ余力があるってことだろ?
じゃあ…もう一回やろうか。
僕がコーヒーを作って、湯気が残る間に君が帰ってくるかどうか見てみようと思
ったのが始まりだったんだよ。
知ってた?
でも…湯気がたつどころか冷えてしまっても帰らないことがあった。
でももういいよ。
君が何処に行っても必ず…
僕が連れ出すからね
僕はまた英二の上に乗り続きを始めた。
この空間に笑っていたのは僕一人だけだ。
あぁ…人生ってなんて楽しいんだろう!
