手を繋いだりキスをしたり、恋人らしいことをずっとしていたけれど周りの目を 気にしなさすぎて若干白い目で見られていることに気付いた。

僕は構わないと言っているのに英二は嫌がっている。
どうして僕よりも周囲の人間達の言葉に耳を傾けるの?
そんなこと気にしていたら恋人じゃなくなるような付き合い方しかできないじゃ ない。
そのことで腹を立てて今は喧嘩中だ。









「我慢できないとかおかしいよ」

「君が冷めすぎなんだよ」

「周りだって困るでしょ!イチャイチャされるほど嫌なことなんてないじゃんか !」







こういうのを価値観が合わないっていうのかもしれない。
僕は苛立ちを解消しようと外へ出かけた。







もう二十歳になっているんだし堂々と酒を飲んだって構わない。
普段は面白いことがないと酒場でアルコールを飲む。
でも今の僕は酒場には行かず、昔遊んでいた公園に向かった。
もうこの公園には何年も訪れていなかった。
久々に来たから思い出にふけってしまった。

少し歩いてブランコに乗る。
ブランコは子供の悪戯によって鎖部分が絡まっていた。
それでも構わずブランコに乗る。
すると誰かが僕に近付いてきた。

英二だった。







「あれ?家帰らないんだ」

「べ、別にいいじゃんっ!俺…不二に言いたくて…」









その時だった。
英二は何を思ったか僕がブランコをこいでいたのにも関わらず、近付いてきた。
すぐにブランコを止められず、英二と勢いよく衝突した。







「英二!!!!!!!!」























頭からの出血、強い衝撃による脳震盪を起こした英二は入院することになった。


傷はすぐに手術により閉じられたので大事には至らなかった。
だが医者の話によるとどうも英二は記憶喪失になっているらしい。








「あ…こんにちは…」







他人行儀な様子に僕はがっかりした。
もしかしたら医者の誤診かと希望を捨てずにいたのに。
何を話しても首を傾げる仕草ばかり。
医者は一時的なものだと言ったけど話が通じないから…僕は落ち込む一方だった 。








「あのときどうしてブランコを止められなかったんだろう…僕のせいなのに…」

「えっと…あなたって誰でしたっけ?」







「忘れないで!!!」







病院なのに思いきり大声を出してしまった。
何をやっているの…僕。
悪いのは僕なのに。
英二は何にも悪くないのに。
存在を忘れられたからって、怒鳴って、英二を怖がらせて…最低だ。







「僕は不二周助だ!君の恋人だった!いや“だった”じゃない!!今もだ!君が そう思ってなくても…僕は…!!」







「ごめんなさい…不二くん」

「(僕は…僕はただ当たり散らしてるだけだ…!!)」







病室を抜け出し、外の空気を吸った。
落ち着かなきゃ…





































「記憶を失ったのは一時的なものなら…焦って思い出させても意味はない」

「…手塚」







その後ろには大石やタカさん、乾もいた。







「早く思い出して欲しい気持ちもわからなくはない。だがお前は強引だ」

「わかってる…わかってるよ」

「菊丸に優しく接してやれ…必ず思い出すはずだ」

「…うん」







焦っても意味はない。
皆に言われなきゃわからないほど僕は強引で自分勝手だった。
気付かなかった…皆には感謝しなきゃ。








英二の病室に戻った。








「英二!今までごめん。僕は自分のことしか考えていなかった…簡単に許しても らえるとは思っていない…だから……あれ?」







英二は何故か元気に動いていた。







「げ!不二?!」

「…どうしたの?寝てなきゃ駄目じゃない」

「い、いや…ちょっと元気になったことだし…いいかな〜なんて」







僕はおかしいと思った。
さっきまで記憶がなかった人間がこんなに元気になるものだろうか、と。
しかも何度も聞き返すくらい、僕が誰だかわからなかったはずなのに…名前呼ん でるし…















話を聞いて真相がわかった。
僕を試すために記憶喪失のふりをしていたのだと言う。
確かに僕が悪いけれど…だからって試すようなことまでしなくてもよかったのに 。


大石の叔父さんに頼んだらしく、英二は怪我はしたものの何針も縫うような手術 はしていないそうだ。

なんだ…心配して損したよ。







「俺もこんな大掛りな嘘をついてやったのは反省してる…でも不二にわかっても らいたかったの」

「そうだよね…うん、ごめん」







僕は英二を抱き締めた。
今までのこと、ちゃんと反省するよ…英二。