いつも追いかけてる、俺。
気付けばまた目で追っている。
綺麗なお前が好きだ。
優しいお前が好きだ。
こんなに好きなのに思いはいつだって伝わらない。
放課後の約束。
いつも一緒に帰る相手はダブルスのパートナー。
付き合い始めた頃に作ったルール。
そのルールに従って今日も門の前で待つ。
来た。
手を振るから俺も振り返す。
自然に、勝手に、意識もせずに動く手。
特に深い意味はない。
帰り道は別れるところまで一緒に帰る。
他愛のない会話をしていつものように楽しく過ごす。
否、楽しそうに過ごす。
だから楽しいわけじゃない。
気遣うことは大事だから、苦痛でも顔に出さないように頑張った。
ふと横を見ると俺がいつも目で追うあいつが反対の歩道にいた。
その隣には眼鏡を掛けたあいつがいた。
心の中で睨んでやった。
帰り道、別れるところでまた手を振った。
いつまで俺はこんなことを続けるのだろう。
毎日毎日同じ毎日。
唯一楽しいのはクラスにいるときだ。
お前は俺に一番に挨拶してくれる。
その優しい笑顔で。
このときの笑顔だけは俺のものだ。
「そうだ、英二…今度旅行に行くことになったんだ。お土産何がいい?」
「旅行?…誰と行くの?」
「…手塚だよ。英二は大石と行かないの?」
不二はどこに行くのか聞くもんじゃないの?とクスクス笑っていた。
旅行…
不二はついに手塚と旅行に行っちゃうんだ。
胸が痛くなってきた。
締め付けられて気管が捻れるような、苦しい痛みが走り続ける。
よからぬ妄想までしてしまう。
俺の知っている不二が不二でなくなってしまう…。
「そ…そっか…ついに初旅行だね!よ、良かったじゃん!おめっと〜」
「………」
「あ、土産はいらないや!土産選ぶ時間あるなら手塚と一緒にいる時間大事にしなきゃダメだぞ〜!」
「…そうだね」
悲しそうな目で俺に微笑むと不二は本を読み始めた。
俺のことは視界に入ってないかのように完全にこちらを見ないまま、読書に没頭していた。
何か言いたそうにしていたのに何も言わずに読書をする不二にイライラした。
今日の放課後もまた門で待ち合わせをしていた。
手を振る仕草も別れるところでまた手を振るのも何ら昨日とは変わらない。
だけど手を下ろしたとき、大石は突然振り返った。
「なぁ…もうやめないか」
「え…?」
「英二はさ…その…やっぱり俺といない方がいいと思うんだ。一緒にいる相手を…間違えてるよな」
「大石…」
俺は大石を見た。
悲しそうに俯いていて、俺はこれ以上大石を見ていられなくて視線を外した。
互いにわかっていたんだ…始めから。
それなのに知らないフリをして付き合った大石も、気持ちを隠して付き合った俺も、どちらも中途半端だったんだ。
涙が自然と目に溜まる。
泣く権利など俺にはないはずなのに、最低なのに…大石はゆっくり俺に近付くと腫れ物を触るように優しく抱き締めてくれた。
「俺達が過ごした時間は無駄じゃないよな」
「うん…大石…ごめんね…」
「いいんだよ…英二…ありがとう…」
大石はゆっくり離れると爽やかな笑顔で俺を見ていた。
泣いてはいなかったけど目が真っ赤になっていた。
大石はそれじゃあと言って一度もこちらを振り向かないまま帰って行った。
翌朝。
学校の門で待ち合わせをしていた相手を見つける。
今日は日曜日。
授業はないけれどメールが来たからここに来た。
私服の不二はいつも以上にカッコ良かった。
「英二に伝えたいことがあってね」
「にゃんだよ〜わざわざ休日に学校に呼び出さなくても」
「好きだよ」
「…え」
ずっと秘めていた俺の思いを今、その相手に言われて戸惑う俺。
きっと夢か何かを見ているんだろうと頬を強くつねった。
不二は目を丸くして俺を見るなり、つねっていた俺の手を取ってぎゅうっと握り締めた。
不二が近い。
こんな側に寄られたことはたぶん今までにない。
透き通るアイランドブルーの瞳の中に戸惑う俺が映っている。
俺は目を逸らさずにじっと不二を見つめていた。
極度の緊張から何も身動き出来なかったんだ。
そのまま俺は不二に唇を塞がれた。
「手塚と別れたんだ」
「え…そうなの?でも旅行に行くって…」
「好きでもないのに何故行く必要があるの?もう自分の気持ちに嘘はつきたくなかったんだ。だからね…英二」
「うん…」
「僕と付き合ってくれる?」
時間が止まったんじゃないかと思った。
きっと都合のいい世界を自分で作っているだけなんじゃないのかとも思った。
でも違うんだ。
触ってくれる感触も、囁いてくれる言葉も…皆現実なんだ。
夢じゃない…!
俺はぼろぼろと涙を落とすと不二が指で掬ってくれた。
甘くて触れるだけのキスをもう一度してくれた。
不二の言葉…それだけで良かった。
もう何もいらない。
俺は不二の胸に飛び込む。
「もち…!不二…だいすき!」
「ありがとう…。たくさんいろんな所に行こうね。いっぱい遊んで、思い出もたくさん作ろうね」
「うん…!」
俺達の恋はこれから始まる。

お疲れ様でした!
数々のジャンルのお話を100個書きましたが、やっぱり最後は甘く切ない感じで締めさせていただきます!
そしてメジャーカプと思わせてのひっくり返し!
36ですからこんな感じもアリだよね、なんて思いながら書かせていただきました。
お題提供サイト様、読んで下さった方々、本当にありがとうございました!!
次回はまた新たなお題に挑戦していきたいと思っておりますー!