※U-17合宿中の内容です。
※不二一人称。
※不二菊、不二仁王、大菊の内容が含まれていますので苦手な方注意。
※ハッピーエンドじゃありません。あしからず(><)
一人でその部屋に向かうのが当たり前になっていた。
この時間帯はまだ皆就寝していない。
誰かが割り当てられていない部屋に入ったとしても、この合宿の参加人数の多さでは把握などはしていない。
だから迷わず僕はそこを目指した。
彼の元へと。
「お待たせ…英二」
元々この214号室は樺地君と一緒の二人部屋だったらしい。
だけど今は、というか僕が来るこの時間は空けておいてくれる。
彼の気遣いには心底感謝をせねばならない。
貴重な時間と貴重な空間を手に入れた僕はそのまま部屋へと入った。
そこには右の頬にばんそうこうを貼った"キミ"がいた。
勝ち組を表わす白をベースにしたU-17のジャージは青学ジャージのときと同様に首元までしっかりと上げている。
英二だ。
英二を激しく求めるために僕は部屋の扉に内鍵をかけるとすぐさま英二に駆け寄った。
今すぐに英二が欲しい。
そのまま食らいつくように彼を押し倒す。
「不二…っ…ベッドがいいよぉ…」
その声も全て英二そのものの声だ。
僕は気を良くして首筋にキスマークをつけた。
英二は悶え喘ぎながら、それでも隣の部屋には声が聞こえないようにと抑え気味にしてはぁはぁと吐息を漏らす。
可愛らしい。
英二が、すぐそばにいることに安堵している僕。
「待って…っ…こんな硬いところで…シたくないよぅ…」
「いいじゃない…もう僕我慢できないもの…ね?いいでしょ…ここでヤっても」
余裕のない僕は弱い力で抵抗する英二を無視してボトムジャージを一気に下げた。
そこも本物と同じように再現されているのだろうか。
実際に見たことはないから僕にはわからない。
だが確実に立派に育っていた。
「なんだ…英二ってば自分の方が我慢できてないじゃない…」
「イヤ…見ないでっ…」
「その姿…すごいそそるよ」
ソコに手をかけようとしたとき、ふと全てが現実に戻った。
僕の目の前には英二ではなく仁王の姿があった。
あれほど行為中にイリュージョンを解くなと言っていたにもかかわらず。
これで何度目だろう。
「どうして…どうして元に戻るのさ…」
「悪い…どうしても気を抜くと元に戻ってしまうんじゃ…。それに今日は疲れてて限界だった…」
「何が限界なんだよ…今までだってたくさん僕に尽くしてくれたじゃない。僕のこと好きって言ってくれたのに!どうして僕に夢を見せてくれないの?!」
そのとき僕は部屋を飛び出して201号室に戻った。
当然こんな気分では抱く気力もなく。
様子のおかしい僕を同室の白石や幸村はかかわらないようにしていた。
そのとき少しだけ聞こえた会話。
「仁王が可哀想だ」
あれは幸村の声。
僕が仁王に強いていることを知られているようだった。
深夜。
皆が寝静まっている中で僕は突然目が覚めてしまった。
喉が渇いてきたので水を飲みに行こうとこっそり部屋を抜け出した。
しかしその瞬間腕をがしりと掴まれて慌てて振り返った。
包帯の巻かれた手──白石の手だ。
「こんな時間にドコ行くんや」
「水を飲みに行くだけだよ…やだなぁ白石ってば…」
「また仁王のところに行くつもりだったんじゃないのかい?」
幸村も起きだして僕に言葉を投げた。
二人とも僕のしていることにやはり気付いていた。
だけど今は仁王のところに行こうだなんて思っていたわけじゃない。
白石の手を振りほどいて二人を睨みつけた。
「不二クン…そんな怖い顔したらあかんで。寝た方がええ」
「白石の言うとおりだよ。不二くん…もう休んだ方が──」
「何二人とも…僕が何をしようが勝手じゃない…放っておいてよ!」
そう吐き捨てると僕は部屋を出て行った。
二人と顔を合わせるのがつらい。
部屋にも戻る気はしなくなっていた。
水を飲んだら仁王のところに行こう。
慰めてもらいたい。
僕が廊下を歩いていると何か声が聞こえてきた。
こんな時間に出歩いているのは僕だけじゃなかったのかと驚き、そのまま声のする方へ行ってみた。
声を聞いていてなんだか嫌な予感がしてきた。
その予感は見事的中していた。
大石と英二だった。
その絡み合う姿に僕はすぐに身を隠した。
こんな場面に出くわすなど本当に今日はついていない。
噂だけが一人歩きしているのだと思っていたが、二人が付き合っていたのは本当だったのだ。
悲しくなり気がつけば泣いている自分がいた。
愚かだ。
喉が渇いていようがなんだろうが起きるんじゃなかった。
白石や幸村の言うとおり、やめておけばよかった。
すするように泣いて走っていると誰かとぶつかった。
仁王だった。
「こんなところで何してるんじゃ…」
「もういや…僕は…もう…」
耐えられないと言って仁王にすがりついた。
僕がただ一人で空回りをしているだけなのに。
それを寂しいと言っては仁王を求めるなんて最低だ。
しかも彼自身を求めているのではない。
幻を見せろ、と。
偽りの夢を見せろと強要したのは僕だ。
悪いのは僕なんだ。
「不二…」
「……」
「俺はお前が好きじゃ。だから…一緒にいてくれるなら俺はどんなことでもしたいと思う」
「…やめて」
「不二…俺として受け入れなくたっていいから…俺のそばに──」
「やめてよ!!どうしてそんなこと言うの?!僕は君を愛してないのにどうしてそんなこと言うの?!僕はずっと英二が欲しかった!でも手に入れることはできなかった!諦めればいいだけなのに僕はずっと諦めきれなかった!!それで代理として君を求めてた僕をどうして罵らないの!?」
ボタボタと零れ落ちた涙は廊下の床を汚した。
醜い僕の姿は今仁王にはどう映っているのだろう。
仁王が僕を好きだということは前から知っていた。
僕はそれを知っていながら彼を利用した。
悪いのは僕。
「…仁王。もう僕は無理強いをするのは嫌だ。君が散々傷付いていたのに無視していた自分も嫌になった。だからもうこの関係はやめよう」
さよならと言い残し僕は自分の部屋に戻った。
仁王はしばらくそのまま立ち尽くしていたけれどその後どうしたのかはわからない。
だが僕の声は静かな深夜にかなり響いていたらしく、このことは翌日になって皆に知られていた。
