※2011年10〜11月拍手小説





秋には様々な種類があるらしい。
スポーツの秋。
読書の秋。
食欲の秋。
そして芸術の秋。
この時期になると文化祭と騒がしくなり、実行委員会はほぼ毎日放課後残ることになっていて俺はその度に愚痴を聞かされる羽目になる。
それよりも俺にとっては自分の作品が締め切りまでに完成できるかどうかが大事であってそれどころではないのだが。
美術室に残りひたすら完成に向けて作業中の俺に対し、くすくす笑っている隣の席の奴。
よほど余裕らしい。
笑っている暇があるのならば手伝って欲しいものだ。

「格闘してるねー」
「お前…ホント嫌な奴だな」
「どうして?」
「もういいよ」

別に喧嘩をしているわけではない。
だが苛立ちがないわけではない。
俺は嫉妬していた。
この季節になると文化祭のために美術だとか家庭科だとかで作品作りが主流になる。
早い奴は既に完成していて人の作品にケチをつけられる程時間が余るらしいが俺にとって時間はギリギリ。
正直言って間に合うのかどうかさえ神のみぞ知る、と言ったところだ。
そこで大抵間に合いそうもない奴は既に完成してる奴に手伝ってもらって仕上げに取り掛かるのだが、何故か不二は俺の手伝いをしてくれることはなかった。
それが気に食わない。

「やっかんでるよね」
「別に」
「そういう英二の態度見てると僕って本当に好かれてるんだなぁって実感できるよ」
「勝手に自惚れてろ」
「…手伝ったら意味がないことくらいわかってるだろう?」
「でも女子のは手伝うのな」
「うん。暇だから」

むかついて銅板を叩いた。
作品はあと一歩でこっぱ微塵になるところだった。
ちなみに今俺が挑戦しているのは美術の作品の一つである、銅板の打ち付けだ。
豊富な種類の釘を使い、銅板に打ち付けることによって凹凸を出して表現するのである。
不二はゆうたと名付けたサボテンを表現したらしい。
既に現物は枯れてしまっているのでいつまでもとっておけるようにあえて作品にしたのだとか。

「これでお前は晴れて生徒の中から良質な作品として選ばれて廊下とかに飾られるんだよな。優秀、優秀」
「馬鹿にしてるね?別に僕は選ばれたいと思ってないけど」
「あーそうですか」
「今日の英二、絡みにくい」
「あったりまえだろ?!人が苦労してるのに黙って見てるだけでさっ!女子達ばっか手伝って俺のことなんかどうでもいいんじゃん!!」

こんなことを言うのも恥ずかしい。
子供みたいだ。
いつまでたっても成長を知らないようで不二に笑われているのも悔しかった。

「可愛い。英二」
「うるさいっ」
「僕はね、本当に好きな人にはきついことも言うし、手助けなんて簡単にはしないよって話。むしろ愛情表現?」
「俺、好きになる人を間違えたかも」
「それで後からやっぱ好きになってよかったってオチになる」
「俺はそんなこと口が裂けても絶対言わないかんな」

その後も美術室はトンテンカンと金属を叩く音が鳴り響いた。
どうやら未完成で焦っている最後の一人は俺だったらしい。
皆がいなくなっても不二はずっと最後まで俺の側で見守ってくれていた。
手伝わない理由も本当はわかっていた。
その方が長く一緒にいられるからだ。