※2011年10〜11月拍手小説
葉が色付き始め辺りは赤や黄色で埋め尽くされる。
もっともこの通りは秋らしさを一番感じ取れる場所だ。
僕は英二と一緒に下校していた。
「不二はさ、こういう風景をカメラで撮ったりしないの?」
「もちろん撮るよ」
「今度俺も連れてってよ」
「退屈かもよ?」
「だいじょーぶ」
DS持ってくから、と意気揚々に語る英二は道路の石の上に上がり、バランスを崩さないように歩き出す。
簡単すぎてつまらないのかすぐに“石の上歩行”はやめてしまい、僕の隣をくっついて歩く。
英二が側に来ると少しだけ温かい。
「でもさー、イチョウの木って嫌なニオイするよな」
「イチョウというより銀杏のニオイだね」
「俺、あのニオイ苦手」
「昔…銀杏鬼ごっこってやったなぁ」
僕が語ると英二は不思議そうに僕を見つめる。
「銀杏鬼ごっこ?何それ」
「銀杏を拾い集めて鬼が逃げる人にぶつけるのさ。ぶつけられたら鬼になる」
「うっわー、それ最悪だー」
「そう?けっこう楽しいよ」
「不二って見かけによらず変な遊びするのな」
急に英二は顔をしかめた。
銀杏のニオイが辺りに広がってきている。
イチョウの木の下には複数の銀杏が落ちているようだった。
潰れた銀杏の実はおそらく誰かが踏みつけたのだろう。
そのせいで鼻からそのニオイが取れずにいる。
「おぇー、やっぱダメだこのニオイ」
「そうかなぁ」
「お前鼻詰まってんじゃねぇの、かなりニオうぞ」
「失礼だね」
慣れていると言った方がいいのだろうか。
僕にとって銀杏のニオイはそれほど苦痛ではない。
よって、その鬼ごっこをしたときも銀杏を難なく拾い集めることができたので僕は長く鬼であったことはなかった。
皆逃げる速度も遅かったので僕が鬼になると嫌な顔をする子が多かった気がする。
「そりゃあ俺だって不二が鬼だったら全力で逃げまくるよ」
「大丈夫だよ、英二にはぶつけないから」
「そうやって油断した隙に当てるパターンだろ」
「あれ、バレちゃった?」
「ったく…不二が鬼なんて想像すらしたくないね」
「面白そうだから今度皆でやらない?銀杏鬼ごっこ」
「断る!」
英二はひょいっと身軽にまた石の上に上ってバランスを取りながら歩き続けた。
何かしていないと落ち着かないらしい。
僕はこっそり路上に落ちていた銀杏の実を拾うと予告なしに英二の背にぶつけた。
「うわぁ!!」
「別にニオイなんて付かないから大丈夫だよ」
「サイテー!不二ってばサイテー!!」
英二は躍起になって銀杏の実を探し、僕に仕返しをしようと企んだようだがちょうどよく銀杏の実は見つからないようだった。
僕は一生懸命な姿の英二を黙ったままニコニコと微笑みながら見ていた。
「こういうときに限ってなんで見つからないのー?ちっくしょー」
「ね?けっこう楽しいでしょ?」
「楽しくないよ!」
こうして僕らは下校した。
翌日の放課後には僕の企画通り、銀杏鬼ごっこが開催されることになり英二は僕に不満をぶちまけた。
